【夏011】バイク修理
外に出たまま寝転べば、三十分ぐらいで死ねる暑さ。猛暑真っ只中の八月。
仲間内で彼女のいない二人が倉庫に集まって何をしてるのかと思えば、中型サイズのバイクを熱心に弄っている。
若い。二人とも高校生程度の外見。実際、高校三年生だ。野球部の補欠コンビでもある。早々に予選敗退した証、ボウズがただ伸びた中途半端な髪型が二つ並んでいる。
「真一、キャブってこんぐらい掃除しときゃいいのか?」
「分かんねえけど、まあいいんじゃねえか? 取り敢えず組んでみるぞ、パーツよこせ陽介」
真一と呼ばれた青年は陽介に答える。
真一の家はバイク屋で、この倉庫は店の横にある廃品置き場でもある。部品取りのパーツや何十年も前からあるような古い車体数十台で倉庫の半分は埋め尽くされている。
河原で捨てられていたバイクを見かけた二人は、気が付けば倉庫にそれを運び込んでいた。
ガソリンタンクのエンブレムやカウルから車種は直ぐに分かった。正直そこまで価値のあるものではない。直して乗る方が金が余計にかかる程度にはボロボロで新車を買った方がマシだが、二人は部品取りを活用し金を掛けずに手間暇かけて復活させることに決めた。
受験組には声を掛けにくい、就職組の彼女持ちは海に泊まりで出掛けるそうだ。仲間は小学校からの付き合いで十人いるが二人は就職組かつ彼女なしのカテゴリで、今年は二人でいることが多い。
真一は家業を手伝いながらの整備士学校、陽介も、町工場を営む父親の元で来春から働く事になっている。進んで勉強するべき時期でもない。
夏の暑い日、暇な二人はバイクに夢中になっているというわけだ。そして今日、もうすぐで、二週間かけたバイクがついに組み上がる。
「なあ、どうする?」
「何が?」
「動いたらどこに行くかだよ、これに乗って」
「……あいつら冷やかしに行くか」
真一が海に行っている友人とその彼女を冷やかしに行くと提案する。実は先程送られてきたメール画像に見過ごせない情報があったからだ。真一はその問題の画像を陽介に見せた。
「おいこれっ! 何であいつこんな可愛い子達に囲まれてんだよっ!」
陽介は声を張り上げて立ち上がった。
「落ち着けって、どうやらあいつの彼女の友達らしい」
「何で誘わねぇんだよっ!」
「急に決まったらしい、後で俺達にバレたらヤバいと思って連絡したそうだ」
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと頷き合った。行き先はもう動きようが無い。
「始めるぞ」
真一がバッテリーを繋ぎ、セルスタートを試す。
が、キュルキュルと音がするばかりでエンジンは一向に掛からない。
「……プラグだ、忘れてた」
気がはやってしまいプラグ交換を忘れていた事に真一は気付いた。陽介はそれを咎めるようなことはしない。きっと自分も同じ事をしているだろうからだ。
真一はプラグを新品へと交換し、次こそはとセルスタートを押す。
キュキュル、ぐうぉんと気持ちの良い音がバイクから鳴る、アイドリングも安定しておりアクセルの動きにもエンジンの回転は追従した。チェーンの緩みもなく、タイヤは部品取りで程度の良いものを履かせている。
今からでも走り出せる。
パァンと手を打ち合わせる音。二人が高くジャンプしながらハイタッチした音だ。
「とりあえず着替えてくる」
油で汚れたシャツを指差しながら陽介は言った。
「甚平は着て来んなよ、お前が来たら柄が悪い」
後ろ姿のまま、手をひらひらと振りながら、分かったよ、と、態度で示して陽介は倉庫から出ていった。
真一も早く着替えたいのだろう、小走りで隣の店舗兼住居二階へ向かった。
陽介の家は近い、二十分もしないうちに二人は再集合を果たす。
「行くか」
「おうよ。今から行ったらちょうど夕方か」
免許を持っている真一が運転席にまたがり陽介は後部シートに陣取った。二人ともこの暑さにも関わらずフルフェイスタイプのメットを被る。店にこれしか無いから仕方が無い。
ゆっくりと倉庫から出発したバイクは道路に無事に滑り出す。真一のアクセル操作でバイクは一気に加速する。
街中を抜け、海岸沿いに出る。此処から一時間も走れば目的地だ。
カァーンという音がマフラーから鳴り響く。流れる風景は期待感からか二人にはキラキラと光ってみえた。
「なあ! 来年もバイクで海に行こうぜっ!」
後ろに乗る陽介は大声で真一に言う。
「彼女がいなかったらなっ!」
真一も大声で応えた。
「ははっ! 多分いねぇよっ!」
笑いながら陽介は真一の背中を叩いた。
二人を乗せたバイクは午後三時の陽射しを浴びながら軽快に進んでいる。
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