34 オンゲに周回はつきもの

「あーこれは、拡散刺突きま……違う、初見モーションですね」

「とりあえず退避だ!退け退けえ!」


 触腕を囲んで殴っていればハロー新技。

 人数が増えたことで新モーション解禁ですかそうですか。寄ってたかって袋叩きとかしようものならトンデモ技とか出てきそうな。


 束ねられ引き絞られた触腕が頭上で構えられ、鉄の鳴るような音が聞こえる。

 いつもならば幾重にも別れた触腕が降り注ぐわけだが。あ、これそういう。


「おそらくレーザー撃ち下ろしかな、触腕からもぶっぱって初見歓迎には熱烈過ぎるでしょ」


 繊維を思わせる触腕に一本一本に光が脈動していく。それに奪われるかのように減少していく光量と暗がりに落ちていく視界。


「詰んだ、きついとか無理とかじゃくて詰んだ。AGI足りないから直撃コース」

「全員無理だこんなもん!壁だ!壁作れ、そんでバフとバリア!カーディナルは構えろ!ガーネット!!」

「もう凹ましたし生えた!」

「範囲拡大」「カバーリング」

「プロテクション」「レジストライト」「ハードスキン」

「ヘヴィミスト」「シャドウフィールド」「レジストファイア」


 即席防空壕にスタイリッシュに滑り込み全員でありったけのバフとバリアを重ね備える。

 直後に閃光が視界を真っ白に染め上げ、一呼吸遅れての輻射熱による熱波と膨張する空気による衝撃。


 本当に体に悪い、あらゆる感覚に対する情報過多だ。本来ならハードの安全機構で迷いなく一撃で落とされるレベル。


 だけどもだ、そんな程度で済んでるってことは何とかなったみたいで。

 咳込みながらも地面を確かめ体を起こし感触を確かめる。


「アクアオーラ」「ダークオーラ」


 3割を切ったHPを戻しつつ人数確認、1、2、沢山。よし全員いるな。

 しかしこの短時間でまたしても焼かれるなんて進歩してないなどと思ってみたり。

 でもまぁ皆生きてるみたいだし結果オーライってことで良いんじゃないでしょうか。


「予測可能回避不可能な初見殺しとかセーブできるゲームだけにしろよ!」

「完全に騙された。事前に知識入れてるほうが危ない」

「アビとスタックはほぼ残数0だ。リキャスト空けるまでは差し込みは出来んぞ」

「死ぬかと思った、ってかまだ頭痛いし目が眩むし耳鳴りするし。蒸発せんかったのが奇跡やな」

「いやいや壁に盾にバフにバリアに耐性ましましで遮光と遮熱してこれだから。普通に受けるの無理だから無理無理」


 運営の事だから問答無用で焼却処分してきてもおかしくはなかったが。

 それとも単純に砲口となる部位次第で出力が違うのか。

 モーション値とかあったりします?出が早い代わりに基礎倍率にかかる補正低いとか。ないと思うけども。


「焼き加減の調整が上手くなってんね、料理のスキルでも生えたんじゃねえの」

「上手に焼けました~デン!ミディアムどころかほぼ生ですけど。攻撃しか使い道のないオトモですね」

「悪魔猫かよ!デカすぎんだろ!いや確かに色は悪魔っぽいけど!」

「足元に無限爆弾最適解では?」

「とりあえず外殻採取しよ」

「納品時にはW激運必須やな」

「峡谷マラソン……でもシミュで掛かってくるだよなぁアレ」


 正直チェルノボーグを倒せるなら紙でも石でも花での魚でも集めて来るよ。精神を無にして周回し続ければいいだけって簡単だね。数千回くらいどうって事ない。

 現状ひたすら外殻集めってマラソンの最中ですけども。

 せっせと集めないとゲームオーバーに直結するし。

 ヴァーミリオン達もそれを理解してるからなのか焼かれても直ぐに立て直し口以上に手を動かしている。


 何というかタフだね皆。いいな、そういうのすごくいい。ちょっと羨ましくなる。

 だからと言って自分がその中に入ったりするのは違うし。成れなくて、成らなくていい。うまく言えないけども。百合に挟まるのは違法?違うか。


『全プレイヤーへ伝達、スタンピード第二波確認。目視までおよそ10分。各自ステータス及びアイテムを確認後、速やかに移動願います』


 早いね、第一波処理してたのついさっきじゃないか?

 いや、そうでもないか。それまでか一人でやってたから長く感じてただけで、大体1時間ごとに来るんだね。そうなるとフェーズってかウェーブの方か。


「いぇ~い、ようやく到着だぁ。もう帰っていいですかぁ?」

「はえーよ、何しに態々こんなとこまで来たし。ってかあれが噂のヴィラン亜種か」

「ヘルツさんそれ試しに本人に行ってみてくださいよー」

「俺に死ねって言ってんの?何なら新しいPK方法だな?この状態からでも入れる保険ってある?」

「いやぁー実際そんな怖くないですよ?装備の見た目と言動と雰囲気と表情がそう見えるだけで」

「知ってるか?それが全部だ。パーフェクトだ」

「うはー、二人とも早いって。純魔置いて先に行くのはナシでしょ」

「キャス以上に重装タンクのがきついのだが?補正は完全になく寧ろ重量制限で低下している故」

「盾2枚も持ってたらそうなるよ、趣味で選んだなら文句言っちゃダメだって」


 あぁ、要約到着か。半分くらいは知らない人たちだな。

 別方向からの参加ってことは調査依頼も一旦は目処が付いたみたいで。

 融解し再凝固した光沢のある斜面を各々が口を動かしつつ滑り降りる。


 上を見上げながら、軽くステップを踏みつつ近くまでくれば開口一番。


「ヤギリさーん、とりあえず一番効率いいやり方教えてくださいな」


 時間も限られてるし要領よくやろうじゃないか、このめんどくさがりめ。

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