11 長靴求む
都市間ポータルの移動でもってインストロメリカへ到着しましたよっと。
そのまま南に向かって街中を歩いていく。
やはり基本的にどの町も街の中心にポータル判定があり四方へ大通りが伸びる形になっているようである。
プレイヤー的には便利だけどね。
大通りに面した賑やかな商店に興味を惹かれつつもチラ見程度に抑え人にぶつからない様に歩いていく。
脱線次第しだしたら中々先に進めないからね。今日はもう既にくそ爺の件があったので十分だ。
やっぱり南だからジャングルにでもなんのかな?いや工業都市として発展してるなら鉱山、湖、大河に海もありえるか。
あくまでも参考程度にしかならないけれどもファンタジーの元ネタにされる中世ヨーロッパあたり、中世とか範囲広すぎて参考なんねえや。
だって1000年単位じゃん。1000年もあったら文化も街並みも別物なるじゃんね。
ともかくテンプレ的お約束で考えるなら街は何らかの目的をもって作られている。原材料なり街道なり水資源なり。
では工業都市は何でここにあるのか。
流通は馬車またはそれに準ずるレベル。船は未確認。魔法やインベントリによる輸送も未確認。街中で見かける馬車の数から考えればほぼないんじゃないかな。
そのレベルならば態々重く嵩張る鉱物資源を遠くから運んでくるのは非効率に思えてくる。
もちろん元々この辺に鍛冶屋だのが集まって発展してきた街があってそれがそのまま規模が大きくなり今に至る可能性もあるけれど。
普通に考えたら近場で材料が取れるってのが一番大きいよね。
あーでも鉱山とかあったら水とか悪そうだなぁ、完全な偏見だけど。
これが近代なら原料、燃料に製品の搬出から臨海工業地帯とかなるんだろうけど…
「おっ、ヤギリさんどーもですー」
特に意味のないマップの成り立ちを考えていたところで声をかけられた。
相も変わらず気の抜けたような間延びした声だ。
「ボス戦以来で、散策ですか?」
「まぁそんなとこですねぇ、一応ほら新しい拠点だし装備とかアイテムも新しいの売ってますからねー。ゲームだとやっぱり一通り見ちゃいますよね、VRでログアウトできなくても」
「何か面白いものありました?こっちのほうはまだ全然見てないんで」
ゆるい会話をしながらもダラダラと歩き続ける。
足を止めてしまったらずるずると長話に興じてしまいそうで。
「まぁ順当に新しくラインナップ増えてたくらいですねぇ、ヤギリさんどっか行くんですかぁ?」
「とりあえず外見てみようかなって思いまして、ほら始まりの町から見て3エリア目ですよ。どれくらい強いのかとかどんな風景なのかなって」
何となくそんな気分なんだ、特に深い理由はないけどもうそんな気分になってしまっているから予定変更はない。
ラーメン食べたい気分、違うけどそんな感じのやつだ。
「ほほーじゃあ私もご一緒させてもらいましょうかー、特に予定もないですし。それに保険も兼ねて多すぎない程度に人数はいたほうがよくないですかぁ?」
一理ある、まぁそんな時間かける気もないしいいか。
「じゃあ行きましょっか、軽く除いてすぐ戻りますよ。敵のレベルとか見れたらいいですけど基本フィールド覗くだけのつもりなんで」
「そんなもんですよねぇ、βでは南と西だけしか解放されてませんでしたからねぇ。ここから先はさっぱり情報の無い完全初見ってやつですよ」
二人並んで南門を目指して歩く。
ダラダラと取り留めもなく世間話の延長戦のような話をしながら。
どんなフィールドになってるかの予想だのこの世界の気候や成り立ち。
相手のリアルを詮索することなく話そうとするとやはり今はこのゲームに関するものだけになってしまう。
話題が限定されてしまうとはいえこの距離勘は悪くない。
そうして歩いていれば自然と門の近くになり、守衛に軽く手を上げて門をくぐればそこはもう別世界だ。
…沼?いや湿地帯?
そこは門から続く石畳の道を挟むように半ば水に沈んだ世界が広がっていた。
池のように水を湛えた部分と柔らかな緑の下草に覆われた地面が複雑な境界線を描いている。
それらは幾重にも立ち並ぶ木によって絡み合っている。
「うわー沼地ですかーこれはすごいですねー」
「これって沼地なの?湿地とかじゃなく?何となくだけど沼地ってもっと泥っぽく淀んだイメージがあるんだけど」
「厳密な定義は知らないですけど湿っぽく泥が多くて木が多いと沼って聞いたことありますよ?湿地は水メインで水草とかそっちメインらしいです」
「へえー初めて知った、んじゃこれは沼地になるのかな、木多いし」
「ですねえ、ってかこれ道水没してません?」
年季を感じさせる石で作られた道は半ばから水没しており如何にもゲーム的に簡単には進ませないという意思を感じる。
もっとも道全てが水没している訳でなくところどころが冠水しているといったほうがよさそうだ。
それに足場が道しかないわけでもないし、選べば地面もあるし木だって足場になる。
どうせフィールドを探索するならば道なき道を行く必要がある、なんならそっちのほうが多いはず。
この道はあくまでもNPC…この世界で都市間の移動に使われているだけのものだ。
どうして水没しているのかとか理由はあるんだろうけどそれは好きな人間が調べるでしょ。
どうでもいいけど湿地帯とかの木製の遊歩道ばっかりイメージにあったから石造りってのがかなり違和感あんね。
「雨降ったとか?案外雨季的なのあるのかもしれないですよこの世界。梅雨みたいにジメジメ降り続けるのは嫌ですけど」
「梅雨は洗濯物乾かない以外は好きですけどねー部屋でダラダラ過ごす口実になりますし」
「まあ好き好んで雨の日には外でないですよね、とりあえずちょっと進んでみますか」
「長靴欲しくなるなぁ、これは」
カツカツと石畳に音を立てて二人並んで歩き出す。
それとなく周囲に気を張り武器は既に握っている。
「やっぱり出てくるとしたらカエルとかなんですかねぇ、アマゾンとかだとワニとかヘビとかもいそうですけど」
「アマゾンか、確かに割としっくりくる表現ですね、そうなると虫とかもかなり出てきそうですね」
足首まで水に浸かりながら進んでいく。
バシャバシャと音を立て波を起こすのは不用心というほかないが仕方ないだろう。
現状何が出てくるかも分らず進む先もわからない。ならば道に従うしかないのだ。
波紋が光を乱し水中を視認しにくくする。木々は視線を遮りこれでもかと死角を生んでくる。
ギチリッと足を挟まれるまで気が付かなかった。強化された五感でも感じ取れなかった。
気付いた時にはすでに遅く道から水中へと引きずり込まれる。
視界は白く耳を撫でる気泡がゴボゴボと立ち昇っていく。
捕らえられた足首は今も痛みを増し、視線を向ければその姿をようやく捉えた。
オオヌマエビLv37/動物
フィールドモンスター/交戦中
適性:???/属性:???
スキル:???
(レベル高すぎだろっ!)
今も尾扇を上手く使い有無を今さぬ力強さで水底へとご招待してくださってるエビへ抵抗を試みる。
体は重く意識に対して全く追いついていかない。思考ばかりが先行し焦りを生み出していく。
現実でもここまでひどくないだろう。明らかに体の動きが鈍すぎる。
鋏は万力の如く挟み込み今にも切断されてしまいそう。
何かもう諦めだな。そう考えたら冷静になってきた。
やっぱりこの辺もスキルとか持ってないとまともに動けませんよってことなのかねえ。
『水泳』とか『水中行動』とかさ。
(次会ったら天ぷらにしてやるからな)
口からゴボりと空気をこぼしながら強気に笑って見せる。
そしてもう片方の鋏で首を飛ばされて死んだ。
◇
インストロメリカでリスポーンした後は一応アヤカに連絡を取ってみる。
まぁ一応一緒に行ってたわけだし?
通話が繋がるのと視界に入るのは同時だった。
『あーどーもども、もう見えてますよー?』
丁度こちらに向かって手を振りながら歩いてくる。
『いやーびっくりしましたよ、急に水の中に消えていくんですもん。正直、あっこれ死んだわって思いました』
すぐそこまで来たところで通話を切りベンチに腰掛ける。
背もたれに体重を預け息を吐き出せばやる気も一緒に出て行ってしまうようだ。
「敵見ました?」
「見えなかったですねぇ影も形も」
「エビだってLv37」
「流石第三エリア、殺意高すぎですね」
「しばらくは無理っぽいすなぁ」
レベルなんてトリプルスコアだもんなぁ。
脳内でシミュレーションしてみてもまるで勝てるビジョンが浮かばない。ましてやエビフライになんて出来そうもない。
そもそもが戦闘の形にすらないないもんな。
「おとなしく解放された第一とその先行けってことなんでしょうかね。でもまぁよくあることじゃないですかゲームだと、隣のエリアの敵が急に強くなりすぎなのって」
「確かに、多分ですけどアレ水中用スキル必須ですよ、体が全くいうこと聞かなかったんで。むかーし着衣水泳やったことあったんですけど比べても数倍体が重くて意識だけが鮮明でまるで別物みたいでした」
「んーわかるようなわからないような…、あっアレですか金縛り的な?」
「あー確かにそんな感じかも、動くはずのものが動かしてるのに動かない。あれがちょっとだけ動く感じです」
「うへぇそれまたきついですね、第一か第二のどっかに水場あるんですかね?いきなり高レベル水中戦はシャレにならないですよ」
「案外街中の噴水とか用水路で泳いだらスキル取れたりして」
実際やったらNPCにしょっ引かれそうである。そもそもきれいな水って貴重品だからね。日本にいるとありがたみなんて全然ないけど。
水道水に慣れてる身からしたらこの文化レベルの生水とか飲んだらお腹壊しそう。
あと寄生虫怖い。日本に寄生虫がいないわけじゃないけどさ、日本住血吸虫とかわりと最近だし終息宣言出たのも。
Xなプロジェクトになってもおかしくないくらいの壮絶な記録だったから覚えてるよ。
甲府に嫁に行くなら棺桶買ってやるぞいって。
「近くのエリアで水場なかったらそれも真剣にありかもしれませんね」
ケタケタと笑いながら肯定してくるがコイツは絶対やらないと思う。
ってか水中戦自体やらないと思う、なんだかんだ効率というか要領がいいというのか。
「それじゃあ私のほうで一応工業都市の先エリアどうなってたかって報告は適当に流しときますね。ヤギリさんはデスペナですし被害なかった私が今回は受け持っときますよ」
「ありがとうございます、お言葉に甘えて丸投げします。」
「丸投げされました、まぁそんな書くことないんですけどね。そいじゃまぁ私はこの辺で街の散策の続きにでも」
「了解です、私もデスペナ開けたら初期街の東でも行ってきます。ではまた」
「はい、また今度」
流れで合流し緩く行動を共にして適当に解散する。いいね、気楽で。このくらいの距離勘が実に好ましい。
人の流れに消えていく姿を見送り自分もベンチから腰を上げる。
デスペナ明けとは言ったが別に初期エリアなら行けんじゃね?と思うもついさっき地形特性にはまってボコボコにされたことを思い出す。
よし何かスキル漁ってから行こうそうしよう。
どうせスキル多すぎるんだ、今更増えたって大して変わらない。むしろ有用なスキルをそろえて効率上げたほうがいい気がしてきた。
適当に買いに行きましょっか。
『跳躍』 そのまんま、ジャンプ力に補正。あと脚力に若干の補正あるっぽい。
『軽業』 空中での動きに補正、姿勢制御にも効果ありそう。
『蹴り』 そのまんま2、蹴る事考えたらあってもいいでしょ。脚力ちょっと上がったよ。
『登攀』 森って聞いてるし?
余は満足じゃ、後悔はしていない。
眺めてるとつい欲しくなってしまうんだから仕方ないよね。
そしてステータスはこうなりました。
スキル増加に伴って成長が鈍化しているといってもやはりボス戦の経験値は大きかったみたいで。
そもそも職業が戦闘職でない時点でお察し。
ではでは解放されたE1エリア、サンク東森林へと向かいましょうか。
ヤギリ
人間・男 Lv12/侍祭 Lv12
戦闘スキル
『槍Lv9』『斧Lv4』『メイスLv3』『棒Lv3』『打撃Lv8』『蹴りLv1』『ハイドアタックLv3』
補助スキル
『腕力強化Lv9』『脚力強化Lv7』『身体強化Lv3』『視覚強化Lv3』『聴覚強化Lv3』『触覚強化Lv3』『感覚強化Lv7』
『精密動作Lv3』『把持lv3』『跳躍Lv1』『軽業Lv1』『登攀Lv1』
『潜伏Lv3』『二刀流Lv5』
汎用スキル
『浄化Lv1』『『マッピングLv8』『看破Lv6』『識別Lv6』『暗視Lv4』
魔法
『火魔法Lv4』『水魔法Lv5』『風魔法Lv5』『闇魔法Lv5』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます