5 詐欺じゃん
到着しました職人街。
環境に配慮した結果か、メインストリートから離れた一角を占める工業地帯とでもいうべき雰囲気。
為政者の都市マネジメントとしては悪くないんじゃないでしょうか。素人考えだし深いところはわからないけどさ。音とかうるさそうだしね。
ぶらぶらと出会いを求めて歩き出す。
少しばかり煤けた空気からは熱と鉄、油を感じ取れば、それらの混じりあった一種独特の匂いに思わず心が躍る。
文明レベルは蒸気の利用がなく電気なんて以ての外。
鉄をぶっ叩き作った剣で魔物と戦う世界だもんな。わかるよ。
底の浅い考察をしながらたどり着いたのは、周囲と比べ二回りほど大きい建屋。
そこそこな人数が出入りしている。特に制限もなさそうなので入ってみる。
あぁ、これ集会所みたいなもんか。お互いが顔を合わせ話をする。
掲示板や通話を繋ぐ事の出来るプレイヤーくらいなもんだしね、なくても何とかできそうなの。
でも、あるなら使う、人が集まるから足を運ぶのも人間の性。
野犬素材をインベントリから取り出し抱え、これ見よがしに建屋内部を一周。
空いてるテーブル席へ腰を下ろせば向かいに人がやってくる。
「やぁ、ここいいかな?」
縦に圧縮し限界まで骨格というフレームに筋肉を搭載したかのような体型。定番のもじゃヒゲも忘れてはいない。
「どうぞ、名無しのドワーフさん」
「あ、俺エルフね。名前はレイズ」
「エルフ?見た目詐欺じゃん。村焼くわ、場所教えて」
「いともたやすく行われるえげつない行為」
「様式美じゃん?」
「売却までがワンセット」
「夜限定っぽい野犬素材あるけどなんか作れる?」
「夜狩りしてたのか、あんた凄いね。詳しく見てみないとなんとも」
くだらないやり取りをしながらもレイズは素材を流し見ていく。
時々目線が上向くのは鑑定とかで空中に展開されたウインドウでも見ているのだろう。
…鑑定か、取ろうかな。看破も悪くはない、悪くないがもう少し情報を見れるものがほしい。
「スキルってどやって増やすのがいい?」
「気合」
「じゃあ一生取得できねえな?詰んだわログアウトします」
「ご使用になりたい機能は現在実装されておりません。全クリ後にまたのご来店をお待ちしております」
「ほーたーるの」
「それ以上はいけない」
「取得制限あるの?」
「大通り行けば色々買えるよ、職業と種族制限はあるけど8割くらいは共通だ。それと行動次第で取得可能になるのもある。あと今ある素材で簡単な防具はできるね。初期装備よりは強いよ」
「後で行ってくるか。じゃあ防具よろしく、素材払いでいい?」
「おっけー作っとくしそんな感じで、たぶん昼過ぎにはできてるよ」
「じゃあまた来る」
フレンド登録を済ませ集会所を出る。さてスキル増やしに行きましょう。
初期所持金でもいくつか買えるらしいしね。結構ワクワクする、楽しみだ。
◇
ヤギリ
人間・男 Lv4/侍祭 Lv4
スキル
『浄化Lv1』『槍Lv2』『打撃Lv1』『腕力強化Lv3』『脚力強化Lv1』『感覚強化Lv1』『マッピングLv1』『看破Lv2』『識別Lv1』
魔法
『水魔法Lv1』『風魔法Lv1』『闇魔法Lv1』
大満足です。所持金は200、今80なった。よくわからないけどこのお茶っぽいのおいしい。
買えるもので良さげなのを買えるだけ買った。
行動次第で取得できるのもあるらしいけどそっちは0。そんなものはなかった。そもそも取得可能リスト探すのに苦労した。滅べ。
そんなことしてたらお昼過ぎ、腹が減ったが金がない。
今回浮かれすぎて全部行き当たりばったりだなあ。威張れるほどではないがほどほどにゲームやってきたとは思えないグダグダ感。まるで初心者かよ。
「これ、スタミナゲージ?0なったらどうなるんだろうな」
視界の端に表示された簡易ゲージは4本。HPとMPはわかる、誰でもわかる、俺でもわかる。
一番下のEXPもわかる。経験値バー的な奴なんだろう。あとどれだけでレベルが上がるか、犬をボコったときに動いたし間違いない…はず。
そんで残りのゲージ、動くと減る、何もしなくても減る。現在レッドゾーンです。かなりの飢餓感に襲われています。これスタミナゲージってか満腹度ゲージなのかなあ。そっちのほうがしっくりくる気がするな。
メニューからヘルプ項目へ、そっからHUD関連へ。名称はスタミナゲージか、そのまんまだな。
食事で回復してイエロー以下で飢餓感増大、HP,MPの回復速度低下と停止に連続行動に応じて疲労感。HPは非戦闘状態のときのみね。
自然回復停止って結構きついよなあ。魔法系だと致命傷だし疲労感も近接が息切れするってことだよな。
つまり今の状態はハードモードでスコア補正もないただのマゾ仕様と。
でもお金もないので食事できません、詰んだ。防具貰いに行くついでにご飯でもクレクレしてみましょうか。
「お?早速来たね、鑑定持ってないならステータス読み上げるなら送るなりするけど?」
「持ってるのは識別と看破だね、鑑定は持ってない。送ってくれるとありがたい」
「オッケーじゃあSS送るよ。物はこれ」
視界にトレードウィンドウが表示され簡易表示された皮鎧が提示されている。
防犯じゃないけど人目につかないこっちのほうがよさそうだな。
承認を双方が押せばトレードは終了する。そのまま実際に身に着けてみる。
初期装備よりは少し重いが布と比べるのも酷な話だ。腕を回したり一通り動かし問題ないことを確認する。
いいね、適度な重さが強度を保証を補強してくれているようで、なかなか好みです。
送られてきたフレンドメールから装備性能を見る。
野犬皮の軽鎧/品質C-/重量8
装甲10/耐久140
特殊効果 なし
夜に現れる野犬の皮を使用した軽量の皮鎧
肩回りなど関節部に動きやすい工夫がなされている
比較対象が初期の服しかないため評価が難しいところではあるが、現段階というか二日目で手に入るものとしては破格なのではないでしょうか。異論は認める。
「いいね、これ。鍛冶系かと思ったけど革細工もとってるんだね」
「あー違う違う。生産系のプレイヤーでちょっとしたグループ作っててね、そこの一人だよ。」
「秘密結社っぽくてそう言うの好きだよ」
「話が分かるねアンタ、まあそういうことでさ俺が仲介というか顔役みたいなものも兼ねてるわけ。実際さ、こんな非現実的な状況なってるわけだ。面倒毎は少しでも避けたい、万単位でプレイヤーがいれば厄介なのも一定数入るもんだしね」
「隠すつもりなら俺にそういう集まりがある事バラしたのはどうなのさ。口硬いほうじゃないぞ」
「勘」
「大外れじゃん、そこは人を見る目とか言っとけばいいのに」
「でも言う気ないだろ?」
口角を上げて愉快そうに笑うレイズがこちらを見つめてくる。
確かにわざわざ吹聴して回る気はない。だがこうも無条件に信用されてしまうとどうも居心地が悪く感じてしまう。
「負けだ。あいあむあるーざー、演算の必要もありませんっと。ところでさ、何か食べるもの持ってない?」
だらだらと、とめどなく、意味もなく、時間をつぶすように。現在の状況や前線組の話、調査組の話、β時代の話に世間話、そういった様々な話を聞いていく。
現在の自分が情報弱者であることは理解している。だからここらでできるだけ情報を仕入れておこうかと思ったわけで。
レイズもこちらが情報空っぽであることを見通したうえでか必要になりそうな情報を選んで投げてくれている。
こういう会話は楽しいな、ストレスがなくてとてもいい。
◇
夜です。
スタミナゲージは回復済み、サンドイッチ美味しい。
レイズの話でいくつか衝撃の事実が判明したわけで。
まず経験値。これは種族と職業とスキル全体に分配らしい。
勘のいい諸君らならばもうお気付きであろう。そう、スキルと取りすぎるとレベルアップが遅れる。重要なのでもう一度、スキル取りすぎるとレベルがなかなか上がらない。これが結構重要でステータスの話もつながるわけだ。
ステータスは種族ベースに職業の補正が入るらしい。それにレベルアップでの加算と各種スキルでの補正が加わり最終ステータスとなる。
まあステータスというか各種能力値とか見れないからわかんないんだけどね。だからレベルが上がらないと基礎能力が上がらないわけだ。そしてスキルがないと補正がなくなる。
もう一つ、攻略最前線を行く所謂攻略組、スラング的に廃人と呼ばれる人たち。彼ら夜は戦闘できないらしい。
夜間戦闘に対応できるスキルがまだ発見されておらず光源の用意も厳しいらしい。
ひたすらコスパが悪いとかなんとか。金策はよ。
そうなると確かに視界0でPTでの戦闘は厳しいだろう。
だが盾が受け止めて拘束してしまえば可能。それでもやってないのはPT人数に比例して向こうも複数で現れるから。
まあ美味しくないよなあ。それに昼間散々戦闘やれば疲れもするし眠くもなる。まるで本当に肉体があるかのように。
活動できる時間に限界があるなら皆安全で効率のいいほうに流れるわけだ。
だからこそ俺みたいなのが遊べるわけで。
それでは夜の狩り二回目と行きましょう。バージョンアップした俺がどこまで強くなったのか楽しみです。
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