異世界行って脱ニート!
🎈パンサー葉月🎈
第1話 押し入れの向こうは異世界でした
欲しい! 欲しい!! 欲しい!!!
――性奴隷が欲しい!
ここは夢にまでみた異世界。
俺は今、憧れの異世界で奴隷館に来ている。
眼前にはおっぱいぷるるんな女の子達がずらり勢揃い。
しかも皆、エロ本から飛び出して来たような恰好をしている。詳しく説明すると、布の面積が極めて少ない前貼りのようなもので大事な部分だけを隠している。
すごくえっちな恰好だ!
「彼女達は皆、主人に奉仕することを了承しております。蒼炎様のようなお若い方にはうってつけかと」
この見るからに怪しそうな片眼鏡のおっさんは奴隷館の主、ちなみに蒼炎とは俺のことだ。
さて、なぜ俺こと大空蒼炎が異世界の奴隷館なんぞに居るのかというと、話せば少しばかり長くなってしまうのだが、話さないことには話が進まないので、しばし付き合ってもらう。
高校二年の夏、とある事件に巻き込まれた俺は対人恐怖症になり、やがて家から一歩も出れなくなってしまった。絵に描いたような不登校からの引きこもりになり早15年。
俺は今日も特にやることがなく、部屋に引きこもってはネットサーフィンに明け暮れていた。
そんな折、一風変わった広告に目が留まる。
――もしも異世界で亡くなった友人達に会えたなら、アナタは何を伝えますか?
俺は思わず画面をクリックしていた。
すると強制的にアンケートページに飛ばされた。
「馬鹿馬鹿しい」
当たり前のようにブラウザバックしようと思ったのだけど、そのアンケートが少しばかり不思議な内容だった。
もしも初恋の女の子が異世界で生まれ変わっていたとして、その彼女が性奴隷になっていたとしたら、アナタは買いますか?
「なんだよ、これ」
俺は当然YESをクリック。
初恋の子が生まれ変わって俺の性奴隷とか、このアンケートを作ったやつはどんな性癖してんだよと思うが、まぁそりゃ買うわな。
オークション形式だったとしても全力で落札するね。
かつて友人達を殺害した後、自害した友人と異世界で再会したなら、アナタは彼を殺しますか?
「なんだよこの糞みたいな質問はっ!」
俺はマウスをぎゅっと握りしめた。
どちらをクリックしたのかは覚えていない。
虐めを見てみぬフリをしていた少年がいます。少年は罪悪感を背負ったまま大人になりました。彼は幸せになってもいいと思いますか?
「………なれるわけねぇだろっ」
答えはNoだ。
幸せになんてなっちゃいけない。
一人だけ幸せになるなんて許されない。
くだらなくて、胸を抉るような質問が次々と表示されていく。
途中でやめようとも思ったのだけど、結局最後まで続けた。
なぜ続けたのかは自分でもわからない。ひょっとしたら懺悔のつもりだったのかもしれない。
あるいはただの暇つぶし。
何せ15年間もほとんど人と話さず、この六畳間の自室に籠もりっきりだった。
全く外に出なかったわけではない。
何度もカウンセリングを受けたお陰で対人恐怖症はとっくに克服しているし、半年に一回は髪を切りに美容室にも行く。夜中にコンビニに煙草を買いに行くことだってあるし、去年ははじめてコミケにも行った。
ニートのくせに金はどうしたのかって? そりゃ親からお小遣いを貰っているに決まっている。お年玉だって未だに貰うし、誕生日には一万円の臨時収入もある。
何々……?
ゴミ、クズ、死んじまえってか。
でも安心しろよ、俺はお前の息子じゃねぇんだ。何もお前から小遣いせびってるわけじゃない。俺は俺の生みの親からせびっているだけ、問題ないだろ。
そもそも日本には一億人以上人間がいるんだし、俺一人くらい働かなくても何の問題もない。それにいざとなればぴろゆき氏の言うとおり、生活保護を貰って生きていこうと思う。
あっ、やっぱりこいつゴミだと思ったろ? クレームの方は俺に知恵を与えたぴろゆき氏に言ってくれよ。
31歳中卒糞ニートのヒッキーですけどこれからどうすればいいですかってスパチャしたらさ、
「あっ、もう詰んでるのでおとなしく生活保護で生活してください」
なんてアドバイスをくれたんだから。
まぁそんな話はどうでもいい。
問題は100以上あったアンケートを答え終わった直後に起きた。
【貴方は異世界でやり直せる
YES/NO
「なんだよ、これ」
馬鹿にしてんのかと思いながらも、俺はYESをクリックしていた。
やり直せるものならやり直したかったのだ。
【一つだけチートを得ることが可能です。あなたはどんなチートを望みますか?】
またアンケートかよと辟易したのだが、俺も馬鹿だよな。真面目に答えてしまった。
「親!」
親がいなければ俺は餓死するし、住むところも無くなる。何よりお小遣いが貰えなくなる。それは非常に困る。来月には夢夢ちゃんのフィギュアも発売されるのだ。
だから親という養ってくれる人――チートが居れば困ることはない。
「えっ!? ――ってちょっ、な、なんだ!?」
アンケートに答えた直後、部屋の押し入れからピカッと光があふれてきた。
驚きに椅子から立ち上がった俺は、しばらく呆然と押し入れをガン見していた。
「今のは……何だったんだ?」
真っ昼間ではあったが少し怖かった。
俺は意を決して襖に手をかけると、勢いよく押し入れを開けた。
「んん!? なんだこれ! ――って無くなってるじゃん!?」
押し入れの中には俺のコレクション(フィギュア)が大量に仕舞われていたのだが、すべて消えていた。
「うそだろ!? ふざけんなよ!」
飾るのすらもったいなくて取って置いたお宝達が、跡形もなく塵と化していた。
いつもの俺ならそこで泣き崩れていたのだけど、この時ばかりは違った。
なぜならコレクションは確かに消えたのだが、一緒に押し入れの床まで消えていたのだ。
「どうなってんだ……?」
床が消えた代わりに、石造りの階段が真下に向かって伸びている。
えらく急な階段だ。
「まさか!」
俺は慌てて部屋を飛び出し、階段を降りて一階の仏間に駆け込んだ。
「……はぁ、はぁ、ない!」
仏間の真上がちょうど俺の部屋に当たるのだけど、石造りの階段が天井をぶち破ってはいなかった。
ひとまず安堵のため息を吐いた俺は部屋に戻り、親や妹がいつ帰って来てもいいようにと部屋の鍵をかける。
「……」
どこに続いているのか分からない階段を見下ろし、俺は学習机の上に置かれたPCを睨みつけた。
絶対にあの糞アンケートのせいだ!
根拠はないが、もうそれしか考えられない。
「しかし待てよ、もしも本当にあのアンケートが原因で
状況から考えてもそれしかありえない!
「よし、そうとなれば行ってみるか、異世界! ――っとその前に……」
俺は再び一階に降り、台所から鍋の蓋と包丁を拝借する。それから玄関でスニーカーも入手。
これから向かう場所は異世界、モンスターなどがいない保証はどこにもない。念には念を入れて装備を整える。
「つっても包丁と鍋の蓋だけどな」
ま、無いよりましか。
「よし、改めて異世界に行くぞ!」
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