束縛系彼女に束縛されたい私
でずな
束縛束縛
「えっと……なんで
「何かって、そんなの私に聞くまでもないでしょ! どうせ今も心のなかで別の女のこと思ってるクセに!」
「それってもしかして、昨日私が挨拶したマンションの人のこと言ってる……?」
「当たり前でしょ!!」
「あ、挨拶しただけだよ? その、その……美柑が思ってるようなことなんてないよ? 挨拶しただけじゃん……」
「その挨拶がだめだって言ってるの!
「ごめん。これからはもっと美柑の言うとおりにするから泣かないで?」
他人と喋っちゃいけないほどの束縛。普通の人はこんな重い束縛されたら、嫌になって別れるのかもしれない。けど私は、この社会から切り離されるほどの束縛をされて嬉しい。嬉しいというか幸せ。だってそれは美柑が私のことを思って、私のことを好きでいてくれている証拠なんだから。たまにわざと美柑の前でルールを破って、怒鳴られるのも最高。
私はニート。付き合うって決まったとき、美柑に仕事をやめさせられた。
私のことを養ってくれている美柑は社長。どんな会社なのか知らないけど、前酔っ払ったときに少し話してくれたことを踏まえるとかなり大きな会社。
そんなニートでありヒモである私は今、人生最大の山場と言ってもいいほど、とてつもなく緊張している。目の前にいるのは美人な女性。近くにいる人が私のことをチラチラ見てきてる気がする。
そうここは……。
「御要件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、あ、あっのっ! はひっ!」
なんかおっきい会社。
ここで働いている美柑に、昨日大事な物だっていってた忘れ物を届けに来ている。
忘れ物を届けに来てくれる可愛い彼女を目指して無断で来ているので、後でどのくらい怒鳴ってくれるのか楽しみだから外に出たまである。
「えっと御要件の方を……」
「はいっ! あの、しゃしゃしゃ社長? さん? のわふれ物を私に渡しに来ました!」
「は、はぁ。社長、ですか。わかりました。確認を取りますので、少々お待ち下さい。……はい社長に。はい。はい……お名前は?」
「ち、千智って言ったらわかると思います」
「千智様なんですが……。あぁーはい。では。はい。失礼します。……千里様。社長が社長室でお待ちしているとのことです」
「ありありあり……ありがとうございます」
社長室に到着した。
目の前に美柑が腕を組みながら仁王立ちしている。
これは……怒鳴られる予感!
「美柑。こ、これ忘れ物……」
「ん」
「これってなんか大事な忘れ物だよね? 昨日言ってたよね?」
「…………」
「え〜と美柑?」
「ずご〜い!!」
「うにゅ!? い、いきなり抱きつかないでよ……」
「すごいすごいすごいすごい! 千智が私の忘れ物をわざわざ家を出て会社まで届けに来てくれるなんて! すごい!」
「えへへ。それほどでもあるのかな?」
「うんうん。それほどでもある! いや〜ちょうど忘れ物して、どうしようかと思ってところだったんだよ。よかったぁ〜」
なんか違う。私が思ってた反応と真逆。
私が知らないん女の人と喋ったのに。
私が外に出たのに。
私が会社に来たのに。
なんで怒ってくれないの?
外に出て、忘れ物を届けに来て、すごいって褒めてくれた。けどその後にすぐ忘れ物の話……。もう私のことなんてどうでもいいのかな?
「まぁそんなことは後でいいや。千智。ここに来てもいいって私、許可したっけ?」
こ、この感じ……。えへへ。やっぱり私って美柑から大切にされてるんだぁ〜。
「し、してないと思う。でも! 今回は仕方なかったの! 美柑の大切な忘れ物を届けに……。私も頑張ったんだよ!!」
「そんなこと私が知るわけ無いでしょうが。千智はまた私が言ったこと、守ってくれなかったんだね」
「ごめんなしゃい……」
「私が謝れば許すとでも思ってるの? 前ルール破ったのって最近だよね? 悪いことだってわかってるのになんでまたやるの? 私、千智のこと信じていいの?」
「私はその、悪いって思ってて、でも、美柑の忘れ物を届けようって、あの、タクシーに乗って歩いて来たの。それ以上はなにもなくて、だから、信じてほしくて……」
「もちろん信じる。千智が嘘を付くわけないもんね。……でも今回のでルール、厳しくしてもいいよね?」
「は、はいぃ」
ルールが厳しくなり、私は実質部屋の中から出ることができなくなった。ご飯も全部美柑が用意したもの。隠し持ってたSNSのアカウントも全削除。
でも生活は何不自由なくできている。大きい部屋で一日美柑の帰りを待つ日々。虚し時間が多いけど、美柑が帰ってきたらそんなの全部吹き飛ぶ。
この生活はおかしいと思う。まだそれくらいの常識は持っている。けど、だけど、この全てを縛られ、何をするにも美柑の許可が必要な生活は私にとって、生きてきた中で何より格別で、幸せで、幸せで、幸せで……。
束縛系彼女に束縛されたい私 でずな @Dezuna
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