君に恋する、その瞬間

果乃子

琥珀商店街と桜風文庫




朱色の提灯が目印の本屋。

和風テイストの喫茶店。

金平糖を散りばめたみたいに、お洒落で女の子の“好き”が詰まった雑貨屋。



花が笑う町、琥珀町。




私はこの小さな町に生まれた。


そうして息を潜めるように、静かな熱を宿して今日も彼に恋を抱いている。



「あーんこっ」


「わ……っ!」




騒がしい教室。

放課後のチャイムが鳴り響いたと同時に、柔らかな感触が私を包んだ。




「曜(よう)ちゃん!」




後ろから抱きしめるような格好で、顔を覗かせた友達の曜ちゃんに、「心臓が止まるかと思った」と胸中で呟いた。


緩く巻いたボブの毛先が頬を掠めてくすぐったい。




「どうしたんですか?」


「んー。杏子をデートに誘いに来たの」




“杏子(あんこ)”


そう名前を呼ばれて私は気恥ずかしくなった。




「こら、スマホばっかり見ないでこっち見なさい」


「え……あっ」




手の内に収めていたスマホに視線を落とされる。


私は慌てて画面をロックした。そのままの動きでブレザーのポケットへ無造作に押し入れる。

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