第6話
翌日。
朝、またギリギリの時間に起き、学校へ。
授業や休み時間では特に大きなイベントはなく、放課後になった。
真由と一緒に帰ったが、隆子の姿は見当たらなかった。
「今日は、タカシいないね」
「あー、部活行ったんじゃない? 試合近いらしいし。昴大が言ってた」
「部活、やってたんだっけ」
初耳だった。どんな部活かによるが、運動部なら普通は放課後に練習があるはず。今まで一緒に帰れていたことが不自然だ。
「もー、みゆきち、最近物忘れ激しすぎでしょ。私はもうバスケやめちゃったけど、タカシは将来有望な選手だから高校でも続けてるの。でもタカシは家庭の事情でお金があんまりないから、放課後は基本バイトしてて、試合の前とかだけ合流してるんだよ」
「そっか。そうだったよね。真由は、なんでバスケやめちゃったの?」
「私みたいなチビはバスケ向いてないじゃん。もっと身長伸びると思ってたけど、高校生になってもチビのままだから、思い切ってやめちゃった」
確かに、真由は小さい。一五◯センチないくらいか。わたしもそんなに大きくないが、一六◯センチはある。隆子はおそらく一七◯センチあるだろう。男子とあまり変わらないくらいだから。
「タカシとは、二人でワン・オン・ワンとかよくやってたけどさ。やっぱり、身長の差がありすぎて勝てないんだよね。もともと中学の時適当に入った部活だし、バスケで将来プロになれるとも思ってなかったから。まあちょうどいいよ」
「でも、昴大くんとは離れちゃったね」
「そーなんだよねー。うちの高校女バスも結構強いし、先輩に誘惑されたらどーしよー」
昴大の話題を話す真由は、どこか幸せそうだった。本当に彼のことが好きなんだな、という気持ちが伝わってくる。
「あ! そうだみゆきち、土曜日はどっか行かない? わたし、アリオ蘇我行ってみたいな。実は行ったことないんだよね。せっかく近くの高校へ通ってるのに」
アリオ蘇我とは、近くにある広いショッピングモールのことだ。かつて製鉄工場だった敷地を再開発して、一帯が商業施設になっている。中心のアリオ蘇我を含め、ハーバーシティ蘇我という商業エリアを構成している。ららぽーと等に比べると劣るが、地元の人はよく来るらしい。ちょっと前にネットで調べておいた。
「みゆきちは家近いから、よく行ってるよね? 案内してよ」
「う、うん。別にいいけど」
一日中家にいてもすることはないし、今は友人と仲を深めておくべきか。ただアリオ蘇我のことは当然、よく知らないので下調べしておく必要がある。
「タカシも誘ってみよ。部活で来れないかもしれないけど。いいよね?」
「わたしは別にいいよ。真由は、土曜はバイトしないの?」
「うん。一週間に一日は休みなさい、ってお母さんに言われてるんだよね。勉強しなさい、って意味なんだけど。昴大と遊びに行ってばっかりだけどね」
「そ、そっか」
その後、真由がLINEでわたしたち三人のグループを使って隆子を誘った。隆子はへんなスタンプで『OK』と答え、蘇我駅前朝十時集合で遊びに行くことが決まった。
* * *
友達と複数人で遊びに行くことは、前世を含めて初めての体験だった。
前世でも、同じクラスの仲良しグループが週末の予定を立てている様子を聞いたことがあるから、どういうものなのか、何となく想像はつく。
高校生なので、映画か買い物くらいだろう。真由はよく喋るし、なんとなく着いていけばいいか。
こうして土曜になり、また朝ギリギリに起こしてもらって、蘇我駅前まではけっこう距離があったので母に車で送ってもらった。
真由は短いパンツスタイル、隆子はパーカーにジーンズという格好だった。わたしはクローゼットにあるスカートで適当にツーピースを組んだので、ちょっと浮いてしまった。
「うわっ、みゆきち大人っぽい!」
「あ、あはは。お母さんに選んでもらったんだよね」
「ええー。女の子なんだから自分で選びなよ! でもお母さんセンスいいかもね」
前日、友達と遊びに行く、と母に伝えたら、気合を入れて選んでくれたのだ。どうやらこの世界のわたしは服にあまり興味がないらしく、クローゼットにある私服は母が選んだものらしかった。前世でも高校時代はろくに服を選んだことがなかったので、正直助かった。
三人で、ハーバーシティ蘇我のマップを見ながら、どこへ行くか一緒に考えた。
「あっ、温泉あるじゃん! ここ行こ!」
いつも主導権のある真由が、スーパー銭湯のような店を指さした。
「えっ、着替えとか持ってないんだけど」
「岩盤浴してみたいんだよねー。みゆきち、もしかして恥ずかしい?」
「……ちょっと」
前世では温泉に連れて行ってもらった経験はないので、よく考えたら、同性とはいえ他人に裸を見せた経験がない。中身はアラサーの大人なので、大して恥ずかしいとも思わないのだが。ここは恥ずかしがっておくことにした。
「岩盤浴は専用の服着るから大丈夫だよ! タカシもそれでいいよね?」
「ん」
隆子はスマホをいじりながら、興味なさそうに答えた。
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