第22話 ソミア大森林の――



「世話になったな」


 エイルの剣を作り、シルヴィアと畑の種まきをした翌日。


 討伐者三人は早くも町に戻るらしい。


「ちゃんと帰れるか?」

「子ども扱いするな、って言いたいところだけど、場所が場所だからなぁ」


 エイルたちによると、ここソミア大森林は周辺国家でも有数の魔境らしい。


 俺は住みやすい所だと思うんだけどな。


「ここまで来るのに四日かかりましたよね」

「七日は覚悟した方がいいわよ。行きみたいなことになりたくないのならね?」

「縁起でも無いこと言うんじゃねぇよ。俺は二度とアースイーターと会いたくねぇぞ!」


 まあ、エイルは死にかけてたもんな。


 たまたま俺が通りかからなければ、三人とも間違いなく死んでただろう。


 途中まで付いてくか?


 俺がいれば、魔物が出てきても倒せるだろうし。


「では、私が町へと送りましょう」

「は?」


 俺と一緒に見送りに立ち会っていたヴィーが魔法を使う。


 すると三人の姿が跡形もなく掻き消えた。


「ヴィー、説明」

「はい。私の転移魔法により、お三方をルミキスカの町までお送りしました」


 ルミキスカの町……ああ、討伐者ギルドのある。


 あそこまで半日くらいかかるのに、転移魔法なら一瞬か。


 便利だな、魔法。


「では、私は昼食の準備に取り掛かります」

「お疲れ」

「失礼します」


 にしてもヴィーは多彩だ。


 気付いたら後ろに立っているのも、もしかして転移魔法を使ってるのか?


 今度町行くときに送ってもらいたい。


 ……待てよ。


 てことは、俺がエイルに作った剣って要らなかった?




***




 ハヤトに宿を借りて二日。


 アタシたちは町へと帰還することにした。


 もう一度、ソミア大森林を分け入ることを考えると億劫だけれど、不満を言っても仕方ない。


 ギルドには七日の予定で探索を申請している。


 予定だから多少前後することはギルドも承知でしょうけれど、遅くなりすぎると問題だ。


 最悪、アタシたちは死んだことにされて、面倒な手続きを踏むことになりかねない。


 ソミア大森林に入って今日で七日目。


 急いで帰らないといけない。


 ――なんて考えていたのは杞憂だった。


 ハヤトに別れを告げる間もなく、アタシたちの姿はルミキスカの町が見える街道にあった。


「どうなってんだよ?」

「あの町――もしかしてルミキスカですか?」


 転移魔法。


 一瞬だけアタシたちの足元に見えた術式から、すぐにその魔法に思い至った。


 転移魔法は物質を指定した場所に飛ばす超高等魔法。


 多分、あのヴィーってメイドが使ったんだわ。


 王国では何百年も実用化に向けて研究してるって話の魔法を、まるで下級魔法でも扱うように行使するなんて。


 とにかく、アタシたちはギルドへと向かった。


 アーロンからは無事であったことを喜ぶ言葉と約束の報酬が渡された。


 報酬の額が多いのは帝国からぼったくった分らしい。


 相変わらず、抜け目がないというか、がめついというか。


 エイルは懐が暖まって大喜び。


 シルヴィアの報酬は教会が受け取るみたい。


 酒浸りのデブ神官どもに渡すくらいなら、いくらか抜き取ってもいいのにね。


「それで、どうだった?」


 二人のいなくなった客室でアーロンと向かい合う。


 既に防諜用魔法道具は発動済み。


 ここでの会話は外部に漏れることはない。


「どうもなにも、大変だったわよ」

「暗黒竜は?」

「十中八九、討伐されてるでしょうね」


 何度か探してみたけど、暗黒竜らしき反応は一つもなかった。


 もっとも、第一級指定クラスの魔物なら、アタシの探知魔法に山ほど引っかかったけど。


「討伐、ね。その根拠は?」

「第一級を素手で、それも一撃で斃すような化け物がいたのよ」


 そう、アレは人の所業じゃない。


 グランドイーターをまるで虫でも潰すように殺すなんて芸当、人の身で為し得るなんて不可能。


「奇遇だね。僕にも第一級を軽々と斃す人に心当たりがあるよ」


 ……嫌な予感がする。


「そのヒトの名前は?」

「ハヤト――それが彼の名前だ」


 何でアンタの口からその名前が出てくるの?


「面白いことついでにもう一つ」

「今度は何よ?」

「ネア君って占いできたっけ?」

「占星術が少しね」

「そんな謙遜しなくていいよ。この国でちゃんとした占いができるのは、両手あれば十分なんだから」


 そんなこと言われてもね。


 前のアタシなら悪い気はしなかっただろうけど、転移魔法なんてものを見せられた後だと嬉しくも何ともない。


「今なら面白いことが起きるよ。占うのは『森・災厄・神』のどれかを加えればいいから」

「……」


 キーワードからしてすごく嫌な感じがする。


 けれど、やらないわけにはいかない。


「七剣舞うは六花の園

 南に漂う不可視の十字

 陽は落ちた

 闇は晴れる

 青い餓狼は月に従い

 白の乙女が祈りを捧ぐ」


星に願いをザ・ウィッシュ』 


 魔法が発動するとともに、部屋を闇が包み込む。


 そして現われる満天の星々。


 普段なら、この星の配置から結果を予想するのだけれど、今回はどうも様子がおかしい。


 何かに結果が引っ張られる。


 星の配置が崩れていく。


 それ独りでに動き出し、規則的な文をつくった。


「まあ、こんな結果が出たけど、彼のことは気にしなくていいよ。それは僕が保障しよう」

「……本当に、大丈夫なんでしょうね?」

「もちろん」


 何を根拠にアーロンが言うのか分からなかったけど、その言葉を信じるしかない。




『破滅を望むものよ

 疾く参れ

 時は満ちた

 其は何人も敵う者なし

 竜よ戦け

 魔よ歓喜せよ

 永劫の停滞を破り

 今

 新たな座が生誕す



 彼の者

 破壊を司る主なり』

 







「そう言えばネア君。ソミア大森林で薬草は手に入ったのかい?」

「………………あっ」


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