第18話 嫉妬?
――
一体いつから
鎧の戦士が男だと錯覚していた?
――
「それで、お前らは何でこの森に?」
家に帰る道すがら、俺は助けた魔女に話を聞く。
シスターの方は魔法行使の疲れが出たのか眠ってしまい、今は魔女が浮かせて運んでいる。
しかし、魔女の方も疲労しているため、シスターを運ぶのが精一杯らしい。
よって件のエルフについては、俺が背負って運んでいる。
だから、背中に感じる素晴らしい柔らかさを役得とか思ってはいけない。
実際魔女との会話も、この幸せから気を逸らすためでもある。
鎧については鞄に収納しているので、重さは感じない。
「アタシとそっちのエルフは討伐者なの。この森に入ったのは依頼のためよ」
「目的は?」
「守秘義務があるから詳しいことは言えないけど、ギルドと国からの依頼よ」
やっぱり面倒臭そうだな、討伐者の活動も。
魔女の話によると、依頼によっては拒否できないみたいだし、今回のように危険地帯の調査を行うこともあるらしい。
てか、ここって言うほど危険地帯か?
「このソミア大森林は周辺国家でも有数の魔境よ」
「へぇ、ソミア大森林っていうのか、この森」
「そういえばアナタ、何でここにいたの?」
「この森に住んでるんだよ、俺」
「……えっ?」
何だよ。
その「頭おかしいんじゃないの?」って視線は。
***
歩き続けて小一時間ほど。
なんとか日が暮れる前に家に帰ることができた。
「ソミア大森林の最奥に……屋敷?」
俺の家を見た魔女がロード状態に入った。
どうやらこの魔女、俺の家が大森林の外にあると思っていたらしい。
あの蛇野郎――グランドイーターという名前の魔物に追い回され、自分らが森のどの辺りにいるのか判断できなかったようだ。
それがまさか森の最奥にいるとは欠片も思っていなかったらしく、しばらく放心状態だった。
一応は納得したようだが、改めて俺の家を見たことで再び脳が理解を拒んでいるようだ。
ちなみに魔女がネア、エルフがエイル、シスターがシルヴィアという名前であるのは、ここまでのネアとの会話で聞いた。
「お帰りなさいませ」
家に入ると、ヴィーがお辞儀で迎えてくれた。
この、いかにも「帰ってくる時間は知ってましたよ」ムーブ。
何か怖いな。
「ただいま、ヴィー。これ、今日の成果な」
「お預かりいたします。後ほど解体して倉庫に保管しておきます」
「グランドイーターって巨体の魔物だから、俺も解体を手伝おうか?」
「旦那様の手を煩わせるまでもありません。グランドイーターならば解体を心得ております」
何で解体方法知ってんだよ。
てか、あのサイズの魔物を一人で解体できるのか?
……ヴィーならできそうだな。
逆にコイツが苦手なことってあるのか?
「そちらの方々は?」
「森で魔物に襲われてたから連れてきた」
「かしこまりました。では、追加の食事と部屋を用意しましょう」
エイルとシルヴィアは疲れている様子なので、起きたら軽く食べられる程度のものを。
ネアについても、あまり重くないものと頼んでおいた。
ヴィーはネアからシルヴィアを受け取ると、寝かせるべく空き部屋の一つへと運んでいく。
食事の準備ができるまでの間、ネアには風呂を進めておいた。
聞けば、ここ一週間ほど野宿だったそう。
最低限の清潔さは魔法で保ってはいるらしいが、アースイーターに追われて汗もかいただろうし、砂や埃を落としたいだろうと思ってのことだ。
やっぱ、討伐者って大変だな。
俺は空き部屋の一つに入るとエイルをベッドに休ませる。
それにしてもエルフか。
何か、俺のイメージと違うな。
創作でよく登場するのは、森とか緑って感じ。
武具は身軽な革鎧で、弓とか短剣とかを使っていると思っていた。
けどコイツは、重厚な鎧を装備していたし、傍らに落ちていた砕けた剣が二本あったことからも武器はソイツを使うんだろう。
総重量とか考えると、よく動けるなと感心する。
こんな華奢な体つきなのに。
まあ、出ているところは出ているんだが――
「――旦那様」
「ヴィー。ホントお前、気配消して後ろに立たないでくれるか?」
いきなり声かけられると驚くんだよ。
振り返ると、そこにはヴィーが立っていた。
いつ部屋に入ってきた?
ドアが開閉した音しなかったぞ?
「シルヴィア様を休ませてきました」
「ありがとな」
「夕食の準備には少々掛かりますので、旦那様も湯を浴びてきてはどうでしょうか?」
「そうする」
俺も今日は一日、森にいたからな。
汚れてるし、シャワーを浴びてサッパリしたい。
ネアと遭遇することに関しては問題ない。
女神が設計したこの家は、個室ごとにシャワールームとトイレが完備だし、なんなら大浴場まである。
「……」
「どうした?」
「旦那様はなぜ、あの三人を連れ帰ってきたのですか?」
なぜか俺はヴィーによる事情聴取を受けた。
何で俺は浮気した男みたいなことになってんだろ?
そもそもヴィー。
お前と俺は夫婦でも何でもないだろ。
無表情なヴィーの顔が、いつにも増して冷ややかだったような気がする。
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