第一章 6 シグマ後編

 偶々、外にいたクルスさんに扉を当ててしまった僕は、仕返ししたと思っているクルスさんの誤解を解くために駆け寄った。


「ち、違いますよ! そんな小さな事で仕返しなんて考えませんよ!!」

「ほ、本当?」

「本当です! で、ですから、泣き止んで下さい」


 ポケットからハンカチを渡して手を差し伸ばした。クルスさんは渡されたハンカチで涙を拭いて差し伸ばされた僕の手を握って立ち上がった。


「それじゃ! 早速シグマについて教えようと思うわ!」

「あ、ミモザさんに教わりました」

「――え?」

「あぁ、お前がドジを片付けている間に終わらせて置いたぞ」

「そ、そんなぁ!!」

「それじゃ、僕は師匠の元に行ってくるので、ギルド寄るのは明日の朝になると思います。行ってきます」


 行ってらっしゃい、と、クルスさんとミモザさんが返す頃には既にギルドの外に移動していた。そんなポラリスに二人は顔を見合わせて笑った。


「それじゃ、仕事に戻るぞクルス」

「分かりました」


 家に帰ってきたポラリスは師匠と話す為に昼寝している師匠を叩き起こした。師匠のベッドにダイブするように乗っかった。


「グヘェ!!」


 師匠は女性が出すのは恥ずかしい声を出して、ダイブしてきた僕を掴み窓に向かって投げた。

 窓ガラスは綺麗な音を鳴らしながら砕け散り、僕は外に放り出された。


 外に投げ出された僕は重い足取りで家の中に入ってきて、恐る恐る師匠の部屋を覗いだ。

 入り口を見ていた師匠は少し申し訳なさそうに髪の毛を弄りながら謝罪の言葉を述べた。


「スッー、すまん」

「あ、いえ、僕もダイブなんかしてすみません。……穴があったら入りたいです」

「ぷっ、あはは、そうか。それで、どうしたんだ? お前があんな起こし方をする時は私に何かしら大事な用事がある時だからな」


 今日ギルドでしたシグマについての話を僕は師匠に話した。

 話を聞き終えた師匠は頷きながら背筋を伸ばした。


「あぁ、そう言えばシグマなんてものあったね。ポラリス、私のシグマに入りなよ」

「え、いや、はい、入ります……ってか、師匠シグマ持ってたんですか? てっきり、一から作らないといけないかなって思ってたので助かります!」

「まぁね、昔にね……ま、そんなことは置いておいて、私のシグマの名前を教えよう! 私のシグマは《ウーアミノア》だ! これからは《ウーアミノア》のポラリスと名乗りなさい!」

「はい! 分かりました!!」


 日が昇って間もない時間帯にポラリスはギルドに訪れた。


「おはようございます、クルスさん」

「おはよう、ポラリス。それで、シグマはどうするの?」

「はい。僕は師匠の《ウーアミノア》シグマに入る事にします!」


 僕のシグマを発表したが、クルスさんはそっけない感じで持っていた冊子を開いて目的のページで止まった。


「あ、あった、あった……えっと、え? この千年間一等星意外誰も所属していないの!? ちょっと、え? どういう事?」

「? 何か変なことありました?」


 クルスさんの異様な驚きように違和感を覚え、僕が質問してみたが、クルスさんは、はぐらかす様に首を横に振った。


「な、何でもない! ほら、ちゃんとシグマに入ったわよ」


 その直後、ポラリスの左手の甲に刻印が刻まれた。


「今、刻まれた刻印が自分がそのシグマに入った証拠になるわ」

「これが、師匠と僕のシグマの刻印」


 その刻印は点と線で出来たあまり印象に残る様なものでは無かった。が、師匠との繋がりが自分の体に刻まれた喜びにポラリスは浸っていた。


「さ、ダンジョンに行って来なさい。くれぐれも死なないでね」

「はーい! 分かってます!!」


 ポラリスは二度目のダンジョン【バエル】に挑むのだった。

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