06

「さすがサラ様ですね。……ところで」

ブルーノは声をひそめた。

「部下が耳にしたのですが、イザベラ・アーベライン嬢がサラ様のことを色々言っていたようです」

「色々とは?」

「そのドレスや容姿のこと、出自など……あまり良くないことを」

「そう。大女とか、平民だから着る物も下品とかそういうことかしら」

「え、ええ……まあ」

「その程度は想定内よ。もっとキツイことも言っていたでしょう」

いい籠るブルーノに、気にしていないことを表すために笑顔を向けた。


「……平気なんですか」

ブレイクが尋ねた。

「そういう中傷って、『羨ましい』という感情から出るものなの。背が高くて狡いとか、平民なのにフィンと婚約して、見たことのない珍しいドレスを着ているとか。自分にはないものを私が持っているから羨ましいのよね」

モデルは多くの人に見られる仕事であり、憧れの対象となる分、中傷を受けやすい。

けれどその言葉のほとんどは、私が羨ましくて嫉妬している恨み言だから、相手に嫉妬されるほど自分が優れているのだと誇りを持て、と事務所の社長によく言われたのだ。

「私に非があるなら反省すべきでしょうけれど。イザベラ嬢が口にしているのは嫉妬から来る言葉だから。その程度なら平気よ」


「すごいわ、さすがサラ!」

「お強いんですね」

歓声を上げたエレンの隣でブレイクが感心したように頷いた。

「ちなみに他の貴族たちがサラ様の噂をしているのも聞きましたが、概ね好意的なようでした」

ブルーノが言った。

「このバルコニーで陛下と親しげに会話をしている姿もほぼ全員が見ておりますし。サラ様は特別な存在と認識されているようです」

「まずは作戦成功ね」

エレンが微笑んだ。


国王と大司祭、この国のトップである二人と親しく接することのできる人間は貴族でもほとんどいない。

それができる私は貴族ではないが特別な人間であり、フィンの婚約者として相応しい人間であると示すのが今夜の狙いだ。


「ちなみに、好意的ではない声はどういうものかしら」

「好意的ではないというか……」

尋ねると、ブルーノは言いにくそうに口ごもった。

「そのドレスに関してですね」

「あら、とっても素敵じゃない」

エレンが声を上げた。

「ええ、女性からは好意的な声が多いのですが、その……少し刺激的だという批判と、あとは男からの……視線といいますか」

「つまり、セクシーすぎるということ?」

コルセットを使わずに身体のラインをあえて見せるようなドレスは、この国の貴族が外で着る中にはないだろう。

そういう刺激的なドレスが性的な視線を浴びることはもちろん分かっている。

それでも、このドレスが一番自分を魅力的に見せてくれるから、初めての夜会で着たいと思ったのだ。


(まあ、直接卑猥なことを言われたり触られなければいいんだけど)

そんなことを言ったらフィンが怒るだろうから、口にはしないけど。



「やはりそういう目で見られるではないか」

案の定、不快げな声でフィンが言った。

「だからヴェールをつけておけと」

仮縫いの時に、お尻の形が分かるのはとフィンが難色を示したため、ヴェールをつけようという話になった。

けれど手直しして仕上がったドレスのシルエットがあまりにも完璧だったため、結局ヴェールを使うのはやめたのだ。


「でもこの形が一番私の身体を綺麗に見せてくれるのよ」

「そうよ、とっても色っぽくて魅力的じゃない」

「それが問題なんだ」

「問題ってなによ。変な目で見るのが悪いんでしょ。これだから男って」

エレンが横目でフィンを睨んだ。


「……邪な心を抱いた者がサラに近づこうとするかもしれないだろう」

「そのためにフィンや護衛がいるのでしょう」

私はフィンを見上げた。

「あなたたちが守ってくれれば問題ないわ」


「それはもちろん、守るが……」

「サラ様は本当にお強いですね、さすが未来の公爵夫人です」

ブルーノが感心したように言った。

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