刃を振るう手に疑問はなく。

有馬悠人

プロローグ1 心地の悪い仕事

 逆立ちして見れば綺麗な夕焼けになるだろうか?そうしたとしても、下は真っ黒で美しくはならないか。


黒煙の舞うなかで、僕はそんなことを思っていた。


綺麗で歴史的な建造物が犇く市街地は、すでに、真っ赤に染まっていた。ここに住んでいる人たちが何をしたのかと言われると、僕にはよくわからないし、知らない。断片的な情報と作戦の概要しかもらえなかった。必要以上の情報と無駄な感情は判断を鈍らせるかららしい。


甲高い断末魔も聞こえるが、それはすぐに聞こえなくなる。気味の悪い笑い声はすぐには消えてくれないし、多分、ここにいる時間は聞こえ続けると思う。


好きで、こんな仕事しているわけではないし、こんなことに快楽を感じる人間でもない。だからこそ、僕はこの事態の中心で1番責任のかかる位置にいるのかもしれない。


いつもなら、バレないようにコソコソしながらやる仕事なのだが、いくら派手にやっても存在ごと消すので問題ないらしい。まぁ、元々存在すら許されてない場所だから仕方ないかもしれないが。


僕がいるのは、太平洋に浮かぶ国。地図には乗らないし、もし、誰かが偶然立ち寄ったとしても、この国から出ることはできない。国際社会から、逸脱していたが、各国の要人は誰でも知る国。その国ではレアメタルやウランが大量に取れて、資源を売って国を成していた。その資源はもちろん、人殺しの道具、戦争に使うために売られている。貴重なものが取れるからこそ、今までは表に出ないことを条件に、かなり高待遇を受けていた。でも、それも今日まで。力を持ちすぎたから、国際社会はこの国を消すことにした。苦渋の決断だったかもしれない。貴重な資源の素を消すのだから。

この国は王国だった。女王がいた。その国の男は穢らわしいものとして、どんな立場であれ、子供であれ、全ての男は奴隷だった。自分の息子であったとしても。女王は、各国から優秀な人間や、財閥の御曹司を婿に迎えて、子供を作り、用済みになった男は消していった。ゆえに、王族は女性しかいない。そのあまりにも酷い現状を問題視したことも、今回の作戦の理由かもしれない。


僕の役割は、王族の抹殺。1人残らず好きな方法で消していいと言うことだった。先にも述べたが、僕はこの仕事が好きでない。やりたくはないが、やらなければ、秩序が乱れる。乱れた秩序は戻すことは、ほぼ不可能で、何かしら必ず歪みをうむ。それを避けるのが僕らの仕事。知らないことが、1番平和なのかもしれない。


最優先ターゲットは、この国の女王。ちまちまするのは面倒だから正面から女王の玉座に入る。みたところ、女王の周りには十数人の護衛。体格のいい男がわんさか居る。ここにいる男には壁としての役割しかない。女王を守るための肉壁。肉壁たちはそれが当たり前のように振る舞っていた。教え込まれていたことなのだろう。洗脳というよりも、ここまでくると本能に近い。僕が持ってきたのは、日本刀一本と特殊な弾を打つ拳銃。日本刀は僕の依頼主のもの。手入れが行き届いていて、刀身に血の一滴もつかない。切ったそばから血が噴き出ることもない。かなりの切れ味で、人間なんてトマトみたいに切れてしまう。拳銃を何度か発砲しているみたいだが、真っ直ぐ飛ぶものは避けるのが簡単だから、僕には当たらない。見えてるわけではない。指の動きに注視すれば何も難しくない。それに、さっさと懐に入ってインファイトして仕留めればいいだけ。肉壁なりに仲間意識は多少なりともあったみたいで、仲間に向けて銃口を向けることもなかった。


最後の1人を切った後、血の匂いが充満する。とてもいい匂いとは言えない。鉄のもっとドロドロした感じの匂い。今にも吐きそうだ。血の処理をしてない肉なんて、見るに耐えない。


さて、この部屋の最後の1人は、玉座の後ろに隠れていた。隠し通路とか作ってないのか?襲われることなんて想定していないみたいだった。脳のない、疑う心の持たないリーダーは総じてクソだ。いや、こいつの場合、リーダーではなく独裁者か。そうだとしても、クソだな。リスクから下のものを守るために上に立つ人間は1番警戒心の強い人間でなければならない。守るつもりもないし、自分すら守れてない。まぁ、論外だな。僕は、玉座に隠れる女王を玉座ごと切り捨てた。玉座はものの数十秒で真っ赤な絨毯に早変わりだ。しかし、この刀の切れ味には惚れ惚れする。僕はその部屋を後にして、最後の仕事場に向かう。

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