同級生の相談事~引きこもり探偵の冒険2~

藤英二

同級生の相談事(その1)

ある日曜の昼下がり、同級生の内村玲子から携帯に電話があった。

相談事があるという。


玲子の実家は東京北西部の郊外で、同じ私鉄で通学していたので親しくなった。

親しいといっても、学食でいっしょにランチをする程度の仲だったが・・・。

こちらは、入学したての5月のGW中に父親が亡くなり、通夜の席で母親も脳卒中で倒れたのをきっかけに、学校に行けなくなった。

・・・18歳で人生の無常を感じて、それっきり引きこもりになった。

と言えば、かっこいいのだろうが、人生の現実にただ立ちすくんでしまっただけだ。

「人生って何だ」とずっと考えたが、答えがすぐに見つかるはずもなく、・・・気がついたら、川の真ん中のちっぽけな岩のように、時の流れからひとり取り残されてしまっていた。


そのまま、私鉄沿線の駅前のカフェで玲子と会った。

日がいっぱいに差すカフェの窓際で、スレンダーな知的美女ぶりに磨きのかかった玲子は、可憐な一輪の花のように咲いていた。

こちらは、4年前のよれたジーンズとカッターシャツにうす汚れたスニーカーという貧乏学生の恰好のままで、ひどく気おくれした。


「お久しぶりです」

紺のスラックスに白いブラウスという清楚な装いの玲子は、屈託のない笑顔を向けた。

この4月に大手の広告代理店に就職したという。

だが、仕事はきつく、毎夜残業してかろうじて終電で帰り、翌朝は早朝出勤だという。

土曜日も出勤して終日働き、日曜日だけは何とか休めるが、過労死寸前だと玲子は嘆いた。

愚痴を聞いてほしいの?と思ったが、

「じつは、恐ろしいものを見たの」

コーヒーカップの上に、卵のように白い顔を寄せた玲子は、

「先週の月曜日の夜に、いつもの終電で帰ったけど・・・」

その恐ろしいものを再び見るような目になった。


仕事を終えた玲子は、大手町から地下鉄のいつもの終電に乗った。

ターミナル駅の手前で、トンネルを抜けて地上に出た地下鉄は、高架を走る。

そこからからは急カーブで、電車はスピードを落として徐行運転となる。

終電といっても満員で、向かって左側の吊革にぶら下がっていた玲子は、目の前に迫ったマンションの部屋を見るともなく見た。

煌々と明るい部屋で、馬乗りになった男が女を刃物でめった刺しにするのを、玲子は見た。

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