恐怖体験

紅音こと乃(こうねことの)

第1話これは私が体験したお話です。

夏・・・ということで、ここで、ひとつ体験した不思議な話をしたいと思う。これは作り話でも他人様から聞いた話でもありません。


それは私が社会人になって間もなくの頃。当時の私は昼食もとれないほど忙しい日々を送っていたのですが、ある晩、明日のために早く床につこうとする私の部屋の真上に、それはとても大きなものが落ちてきたのです。

それは大きな塊のようなもので家の屋根に落ちたのが、その轟音でわかりました。


私の部屋は2階にあり、ちょうど私の部屋の真上に落ちたようでした。

穴があいた。私は、そう思ったのですが、あんなに大きな音がしても家族は知らず、翌朝、家の屋根を確認しても、穴などどこにもなく、私も仕事が忙しく、そんなことなど気にもしなくなったのですが。


その頃からです、私の体調がおかしくなり始めたのは。

部屋に入ると力が入らなくなる。気力が失われていくんです。何もする気になれない。まるで精気を抜かれているようでした。

気の持ちようと思い、音楽をかけたり無理して部屋の模様替えをしても、私の身体から力が抜けていきます。仕事の忙しさもあり、だんだんと私自身も痩せていき、10キロほど、当時痩せたと思います。

何かがおかしい。

そう思った私は友人に相談しました。霊的なものがあるような気がして友人が信頼する和尚様に合わせてもらったんです。

「大丈夫、これで安心して良いですよ」

そう和尚様に言われたのですが、部屋に戻っても何か違う。何も終わってない気がしたんです。


そして、そんなある真夜中。

ヘッドホンで音楽を聴きながら、いつの間にか眠っていた私は、ヘッドホンから流れてくる音楽で目が覚めました。

音楽を切って、そのまま横になった時、カサカサと衣擦れのような音を耳にします。でも疲れて眠かった私はなんとも思わず、そのまま横になって寝ていたのですが、そのうち細く長く腕が私の腰に手を回してきて、ぎゅっと抱きしめられたんです。


夢とも思えないリアルさに、思わずベットの上で跳ね起きました。部屋には誰もいません。しかし、私の身体には、しっかりと抱きしめられた、あの細い腕の感触が残っています。


夢じゃない。


霊的なことを信用しない家族だったので、そうなるまで言わなかったのですが、抱きしめられたことを切っ掛けに全て話してみました。今、思えば、少しづつ私自身も家族に話すことを避けていたのかもしれません。いや、避けるように仕向けられていた。当時の私は、少しづつ壊れていたんです。

それは家族に連れられて行った神社でのこと。


家族と共に神主さんを待っていたのですが、遅れてやってきた神主さんは私の顔を見た途端、強く厳しい口調で言いました。


「祓おうと思わなければ出ていかないよ」


それは、とても真っ直ぐな目で私だけを見てきます。

とても怖かった。初対面です。それも開口一番で言われたのです。その神主に向かって私は、

【なんだクソ神主】そう心で呟いてました。


たぶん神主さんを睨みつけてた。でも気持ちのどこかに【違う!いつもの私だったら神主さんに、そんなこと言わない!】という私がいたんです。


神主によるお祓いが始まりました。お経のようなものを神主さんと一緒に言うように言われました。


祓うために来たのに、祓うことを拒むようになっていた私は、せめて神主さんより大きな声で(お経のようなもの)を口にしよう。気持ちはなくても大きな声で言葉にしようと、無我夢中で声に出してました。


事がすみ神主さんが振り返り私を見つめます。もう、あの厳しい表情ではなく、なにもかも包み込むような穏やかな顔をしてました。


「頑張ったね」


神社を後にした、あの日の青空は今も忘れられません。見るもの全てのものの命が輝いて見えたんです。

これで終わった。

そう私は実感しました。


家に帰ってきて、あの部屋に。今まで力が抜けて仕方なかった部屋に足を踏み入れました。

たしかに空気が違う。今までと違うことを実感します。

身体から力が抜けることはない。本当に終わったと思ったんですが・・・。


足元を見て驚きました。小さな黒い虫が蠢いてます。

いったい何処から入ったのか。

窓は開いてませんでした。部屋の扉も、今帰ってくるまで閉まってます。


羽蟻のような羽の生えた虫までいます。

あまりの気持ち悪さにティッシュで虫達を潰していきました。みるみる白いティッシュは虫の死骸で黒くなっていきます。

しかし、何処からともなく虫達は湧いて出てくるのです。

私の脳裏に【蟲が騒ぐ】そんな言葉が浮かんだ時、私用で頼まれていた件での電話がなりました。虫も気になりましたが外出しなければならなかなった。


2時間くらいでしょうか。

外出先から帰って来ると、家族が血相がかかえて走ってきたのです。

なんでも2階から目に見えない、なにか大きな塊が落ちてきた。家が揺れたと言うのです。

その落ちてきた目に見えない塊は、ちょうど私の部屋から落ちてきたとか。塊はそのまま家の真下に落ちたと言うのです。


それを聞いて、あの晩、私が聞いた目に見えない塊、屋根に落ちた轟音を思い出しました。


私の部屋に留まっていた悪いものは、神様の力を借りて、今、奈落の底に落ちて行った。そんな光景を想像します。


それからというもの、部屋で力が抜けることもなくなりましたが。

これは私が体験した一部。もっとあるのですが、気が向いたら、また話たいと思います。


読んで頂き、ありがとうございました。


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