第35.5話 レイヴン・バッキンガムは語りだす2
そしてその今度は、案外早く来た。
アナとリーズを見かけた次の日だ。俺はアナに危険を知らせるために城に潜入した。その時に怪しい奴がいたから捕まえてみると、なんと奴はサティバの仲間だという。
とりあえず気絶させておいたが、その日のうちにファルコンは奴からサティバの根城を聞き出したようだった。
俺は空の上で、サティバを捕まえに行く奴らの前に躍り出た。
「サティバを探してんのか? 俺も混ぜろよ」
カイトはイラついた様子で俺を一蹴する。
「そこをどけ。今はお前にかまっている暇はない」
「そう言うなって。アナを怖い目に合わせたんだ。俺も奴が許せねぇ」
聞くや否や、カイトは目を丸くした。カイトの部下の奴らもざわざわと何かが騒がしい。カイトの後方で、千鳥があっちゃー、という顔をしているのがよく見えた。
「アナ⁉ もしやお前はアナスタシア姫のことを言っているのか⁉」
「それがどうした」
「不敬すぎる! 一度助けただけの癖に、なんだその距離感は!」
「お前にはかんけーねえーだろがっ!」
とは言うが、カイトの言いたいことはよくわかる。
俺は適当になだめすかし、なんとか隊に加わった。まあ俺が加われた一番の理由は、俺にかまってる暇も人員もない、というところだろうが。
そんで同行してサティバが無事捕まった後に、俺はリーズに話しかけた。
ああ、勿論、サティバをぶん殴った後だ。
「アンタに聞きたいことがある」
根城に捕まえ損ねた奴はいないか、リーズは探し回っているらしかったが、足を止め俺に向き合った。
「……なんかようか?」
「昨日、アナと城下に居たか?」
長々とリーズと話したいわけじゃない。俺は単刀直入に聞いた。リーズは軽い調子で頷く。
「ああ、そうだな。それがどうかしたか」
「アンタ、アナのなんだ」
「はっ、なんだそりゃあ。それをお前に言う必要があるのか?」
リーズは俺の質問を鼻で笑う。俺は距離を詰めると奴の胸倉を掴んだ。
「答えろよ」
当然、そんなことで怯むやつじゃないことはわかってる。ただ俺が本気だってことを示したかっただけだ。
しばらくそうして睨み合っていたが、リーズはため息を吐いて口を開いた。
「……ただの顔なじみだ。姫さんが赤ん坊の頃からの付き合いだから、他より気安いだけさ」
「本当にそれだけか?」
真意を探るようにリーズの目をじっと見つめる。奴は眉を顰め、強い力で俺の手を払った。
「消えろ。今お前が捕まってないのはお前より優先すべきことがあるからだ」
そして乱れた胸元を直しながら、俺を睨んだ。
「次会った時はお前の番だ」
「やれるもんなら」
そう言って俺は早々にその場を後にしたわけだが……まあ、結局アナが好きなのは俺だったわけだ! はーはっはっはっはっ!
「で、なんでこんな話を長々と聞かせたんです?」
リードは深いため息を吐いて頭に手を当てている。
「リードが知りたいかと思ってな」
「どーでもいいですっ!」
あっけらかんと答える俺と比例して、リードは苛立ったように声を荒げた。
全くこいつは怒りっぽいんだからしょうがない。怒りを収めようと、俺は質問する。
「どこが一番良かった?」
「天使のくだりとか正気か疑いました」
「なんだとこら」
俺達の初コンタクトになんてことを言うんだ。一発蹴りでも入れようとするが、するりと躱される。
「それより、追手は来ていないでしょうね」
リードはちらりと周囲に目を配る。夜のため辺りは良く見えないが、物音は聞こえない。
俺たちは今飛竜で夜空を飛んでいる。
ウォルフスからアナを取り返したはいいものの、俺は撃たれた麻酔のせいでぶっ倒れたのだ。気づけば軍病院で手当てを受けていた。
このまま大人しくしていれば捕まるのは明白で、こっそりと抜け出したところでリードと会ったのだ。
リードは捕まえられていた俺の相棒の飛竜を助けてくれていて、俺のことも迎えにきてくれたようだった。
「問題ねえよ。俺とこいつがいなくなってるのも今頃気づいただろうさ」
ぽんぽんと相棒の首を叩けば、呼応するように鳴く。こいつもよく頑張ってくれた。
「ならいいんですが……全く、今朝貴方がいなくなったときは肝を冷やしましたよ。せめて一言欲しかったものですが」
「悪いな、美術館の見取り図見てたら思い立って……お前は外に出てたしな」
「書置きとか、誰かに言い残すとか、色々あるでしょう」
「次からはそーする」
「はあああ」
はははと笑って言えば、リードは盛大なため息を吐く。さっきからため息ばかりだが、リードにも随分迷惑をかけたのだからしょうがない。
「悪かったって。それに、ファルコンへの連絡助かった。お前のおかげでアナも俺も無事で済んだ」
「……本当に、もうこんなことは止めてくださいね」
「ははは」
「おいっ!」
今度はリードから蹴りを食らいそうになったが、簡単に避ける。リードはまたため息を吐いたが、今度は真面目なトーンで話し出した。
「……病院から逃げ出したわけですけど、これから王女のことはどうするんです? まさか、またストーカーする気ですか」
「ストーカーじゃねえ! 見守ってたんだ!」
「ストーカーはみんなそう言うんです」
言い返そうとしたが、まあ、リードの言い分はもっともだ。それに、俺だって何も考えてないわけじゃあない。
「……ま、こうなったからにはちゃんと考えてるさ」
「へえ、どうするんです?」
リードが不思議そうに聞き返す。
どうするか、なんて、アナと出会った頃から決めている。俺は約束したんだ。二回もな。
ニッと口端を上げると、リードが面倒くさいと言うように辟易した顔をした。
そんな顔をするな。お前は俺の最高の友人だ。特等席で見ててくれ。
「友人の門出だ。祝ってくれよ?」
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