第84話 フラーテルン①
それから二週間後。
「やっと着いた……」
「そうね……」
「うわぁっ! 凄いですっ!」
「本当に、浮いてますね……」
俺たちは、天空の国オウグリークの首都、フラーテルンを、見上げていた。
「あれ、どうやって浮いてんだろ……底の方から魔力反応は感じ取れるが……」
「学者さん達も分からないとか聞きますからね〜」
「そうらしいな」
広大な土地を持つ首都フラーテルンは、空に浮いている。
では、どうやってそこまで行くのかというと……
「これが、バルラモーソか!」
「えっと、ゼオン……バララモースですよ」
「そう、それそれ」
今、俺たちの目の前には、大きな翼と背中を持った、ゴツい顔の生き物が数頭並んでいた。
「これに乗るの……? それはちょっと……」
「なんで? 可愛くない?」
「どこがよ!!」
意外なことにバララモース?は、フィリナには受けが悪い生き物らしい。
「ゼオン」
「ん? なに?」
「私とどっちが可愛いですか?」
「……」
と、尋ねてきたのは、ユフィアーネだ。
彼女は、何故か俺に惚れたらしく、これまでに、何度もアプローチを仕掛けてきているのだ……
「うーん、比較するものでもなくね?」
「えーっ? どちらかと言うと、でいいんですよ!」
「それなら、勿論ユフィアーネだけど……」
ここで、俺はチラッとフィリナの方を見る。
この状況、大抵、フィリナに嫉妬されるのだ……
それはそれで可愛いからいいんだけどさ。
「無理よ、無理! ゼオンくん、何とか空を飛べないの!?」
「前、それで失敗したじゃん」
「う……」
どうやら、此方の話は聞いていなかったようだ……少しホッとした俺であった。
「ほら、俺に捕まっていていいからさ、乗るよ」
「分かったわよ……」
「えーっ、ズルいです!」
「ユフィアーネ様、フィリナリア様が可哀想なので、今回は諦めて下さい」
「むぅ……」
俺が特等席の先頭に跨ることは、皆んなが合意している。
固定方法?
太い紐でキツく固定しただけですが何か?
そもそも、そんなことを怖がるような者は、フラーテルンに行こうとは思わないし、そこに居ない。
フィリナの場合は、乗り物の方を嫌いだという特殊な例だが……
尤も、フラーテルンで生まれ、一度も外に出ずにそこで死ぬ、という者も少なくはないそうだ。
「うおーっ! 高いな!!」
「ちょっと、ゼオンくん! 動かないでっ!」
「ははっ! 悪い悪いっ!」
俺たちは今、バララモースに騎乗して、上空に居た。
俺の腰を掴むフィリナが文句を言ってくるが、この光景を目に収めるために、身を乗り出さずにはいられない。
「わぁ……っ!」
「これが、空からの景色か……悪くない」
ユフィアーネとクレリアも、感動を露わにしている。
「ほら、フィリナも見ないと損だよ?」
「……コイツ、私を振り落とさないでしょうね?」
「大丈夫だ。仮にそうなっても、俺が助けるからさ」
「はぁ……分かったわ」
フィリナは恐る恐る、下を覗き込んだ。
「うわっ……コイツの肌、やっぱり気持ち悪いわ」
「もっと、奥を見なよ」
「あ……。綺麗ね……」
澄み渡った青空。
眼下には、多くの木々に囲まれた野原が広がっている。
「丁度、ここがフラーテルンと同じ高さ……最高高度らしいね」
「この国の街道があまり整備されていないのは、上空から見えるこの自然を無くさないためなのかな……?」
「ああ、そうかもしれないな」
訓練された結果なのかは分からないが、バララモースは暫く、その高度を維持したまま俺たちに様々な景色を見せてくれたのだった。
♢
「ようこそ、フラーテルンへ」
バララモースの発着場に到着し、建物から出ると、そんな声を掛けられた。
「あぁ、こんにちは?」
フラーテルンが好きなここの住人かな?と思い、挨拶だけして通り過ぎようとする俺と、それに追随する三人。
「ちょっ、待って下さいよーっ」
「……何だよ?」
「この僕がフラーテルンの案内をしてあげますっ!!」
現地人の案内か……
「幾らだ?」
「やだなぁ……僕から提案したんですから、お金を取るわけないでしょ?」
「そうか。じゃあな」
誰がタダで案内をするとか言う怪しいヤツに付いて行くんだよ。
「えっ!? いや、僕は怪しい人じゃないですよっ」
「怪しい人は皆、そう言うんだよ」
「違いますって!!」
「じゃあ、何故俺たちにこだわるんだ? 旅行客なら他にも沢山居るだろ?」
「それは……お嬢さん達があまりにも美しくてね!」
何処に行っても、フィリナとユフィアーネはその容姿により、人目を引く。
現に今も、俺たちには多くの人の注目が集まっている。
だから、分からなくもないが……
「嘘だな」
「……成る程、やはり貴方も只者ではないようですね」
「?」
「魔力を見るに、お嬢さん達は冒険者の中でも相当な実力者に見えます。だから、気になったのですよ」
俺は、ユフィアーネとクレリアに《魔力操作》の方法を教えてきて、彼女らのそのスキルは上級にまで上がっている。
そして、フィリナは恐らく超級だ。
それを見破るとはな……
「そうか……それで?」
「リーダーの貴方が悪い人には見えませんから、問題ないです!」
「ああ、ありがとう。……もう行っていいか?」
「はい! 勿論ですっ!」
二十歳くらいに見える、その青髪のエルフの男の横を通り過ぎようとする俺たち。
「————僕に案内をしてほしくなったら、王宮に来て下さいね」
「……覚えておこう」
その男が、小声で言ってきたので、俺はそう返すのだった。
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