第9話 一年後の日常
俺とウォルクとサラはランクアップしたと告げられたあとギルドを出て、ある孤児院へと訪れていた。
「わーっ! ウォルク兄ちゃんとサラお姉ちゃんだー」
「あー、ゼオン兄ちゃんもいるよー!」
と、孤児院の子供たちが口々に言う。
なぜここに来たのかというと、ウォルクとサラがこの孤児院出身だからだ。
以前彼らがお金を欲しがっていた理由だが、自分達を育ててくれたこの孤児院に寄付していたらしい。
三ヶ月前くらいに、突然二人に「ついて来て」と言われて孤児院を紹介された。
それからは俺も定期的に通うようになり、子供たちの遊びの相手をしている。
「ゼオン兄さん、見て見て〜」
孤児院の少女が魔法で水の塊を二つ浮かび上がらせている。主に俺が魔法を教えることが子供たちとの遊びとなっている。
「おお〜、上手くできてるぞ、レイナ」
子供たちの名前はここ3ヶ月で覚えた。
魔法を使えるようになった子供は少ないが、その過程を楽しんでいる感じではある。
「今日も子供たちの相手をして下さり、ありがとうございます」
「いえいえ、好きでやっていることですから」
この孤児院の院長でウォルクとサラの育て親でもあるサーナさんが微笑みながら話しかけてきた。
「ウォルクとサラもゼオユーランさんと一緒に冒険者をできて楽しいと、よく言ってますよ」
「院長、ゼオンの前でやめてくれよ! なんか恥ずかしいだろ」
「そうだよ院長〜、ゼオンくんに勘違いされるでしょ!」
なんだコイツら、ツンデレだったのか?
ウォルクは冒険者をして自信がついたのか勝気な性格になった気がするし、サラは会ったときのオドオドした様子からは随分変わった。他の強面の冒険者たちとも堂々とした態度で交流できているしな。
なんか感慨深いものがあるなぁ……
俺たちは子供たちの相手をしてしばらく経つと孤児院を出て、同じ方向へと歩みを進めた。
♢
俺たちは10分くらい歩いて、ある宿屋に辿り着いた。そして、中へと入って食堂へと向かうと、席に着いて食事を待つ。
「Bランクになったゼオユーランじゃねーか!」
「Bランクだと!? 俺も抜かされてしまったぜ……」
「俺はウォルクとサラもCランクになったと聞いたぞ」
「おお! そりゃあ、めでたい。酒を持ってこい!」
そう言って、食堂に居た冒険者たちが騒ぎ始める。
この宿に泊まって一年経つから、この宿の常連の冒険者とも顔見知りだ。ウォルクとサラもお金に余裕ができてから四ヶ月は泊まっているから、皆んなによく知られている。
「はい、お待ちっ! 皆さん、ランクアップしたらしいじゃないですか! おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとうございます」
定食を俺たちの前に持ってきて、祝ってくれたのはノーラさんだ。
「ゼオンくんと初めて知り合ったときは、若いのに魔物に挑んで……経験上、すぐに死んでしまうと思っていたんですけど、Bランクになるなんて凄いです!」
「すぐに死ぬと思ってたんですか……」
「えっ! でも、こうして生き残っているから、凄いんじゃないですか!」
と、ノーラさんが屈託のない笑顔を見せながら俺たちと当たり障りのない会話を少ししたあと、その緋色の髪を揺らしながら厨房へと戻っていった。
「くっ、俺のノーラちゃんが! あの野郎!」
「勝手にノーラちゃんをお前のにすんな!」
「チクショウ! ゼオユーランめ!」
「ちょっと懲らしめておくか!」
「おい、やめとけ! アイツはBランクだぞ! まずは仲間を集めて準備しないと……」
すると、急に冒険者たちが俺に殺意を向けてきた。
「おいおい、さっきまで褒めていたのになんでだよ」
「そりゃあ、ゼオンがノーラさんと仲が良いからだろ」
「いやいや、俺とノーラさんはそんな関係じゃないだろ? そもそも歳が5つも離れてるんだぞ?」
「ゼオンくん……」
ウォルクとサラが呆れた顔を向けてくる。
二人して、なんだよぅ。
食事を済ませると部屋へと移動した。俺とウォルクは相部屋となっている。
「なぁ、ゼオンは何か目標とかあるのか?」
俺たちがそれぞれのベッドに潜り込むと、ウォルクがそんなことを聞いてきた。
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