終わりはいつも


 地下を出た俺は、チャールズの本拠地へ向った。というのもこの星の過去の資料が見たかったのだ。エッカートが気になる事を言っていた。どうやら数百年前のアーリア人は本を持っていなかったようだ。チャールズができた経緯、エッカートの言う罪とは何なのかを調べてからこの星ともおさらばだ。 


 「ここがチャールズの本拠地だな?」

 

 —おそらく

 —建造物の大きさに対してアーリア人の出入りが極めて少ない場所です。おそらく限られた者のみが入る事を許されている場所かと。


「よし、資料室を探すぞ。それにしてもここはやけに騒がしいな。さっきからアーリア人どもが右往左往してやがる。まるで昼下がりの働き蜂だ」

 

 光学迷彩を起動してチャールズの拠点内部に入った俺はアーリア人どもが何やらきな臭い話をしているのを聞いた。


「遂にチャールズが決断を下したらしいぞ」


「らしいな。これで地下の連中も一網打尽だ」

 

 なるほど。この騒ぎはそう言うことか。

 奴らの会話を聞くに、チャールズはこれから地下の連中を一斉摘発する算段をつけているようだ。

 まったく。上も下も血に餓えていやがる。

 それにしても何部屋目だろうか。開けては中を確認して資料室を探して回っていた。奴らの話に気を取られながら何となしに扉を開けたら、そこには山のように本が積まれていた。


「何だこりゃ。これ全部奴らの本か」

 

 思わず口に出た。以前はきちんと整理されていたのだろう。奥の方は本棚があるが、到底収まりきらずにそこら中で平積みされている。


「取り敢えず資料室は見つけたな。この大量の本の中から、アーリアの歴史に関する書物を探し出すのは骨が折れそうだ。ノア言語翻訳をリアルタイムでモニターに移すことはできるか?」

 

 —可能です。


「よし。それじゃあ取り掛かるとするか」

 

 と言っても、表紙を一冊づつ確認して行くだけだがな。

 やれやれ、いつから俺は司書になったのやら。

 

 「過去の資料もいくつかあるが、俺の欲しい資料は見当たらないな」


 それにしても、どの本もここに置かれてからしばらく動かされていないな。埃をかぶってやがる。


「『過ちて改めざる是を過ちと謂う』ってね昔の人は良いこと言ってるぜ。歴史をおざなりに扱っている奴等が、再び抗争をおっ始めようってんだ。これこそまさに『改ざる』最たる例じゃないか」

 

 —助けに行かなくていいのですか?


「助け? どちらを助ける? 俺たちは正義の執行人でもなければ、異界から来たスーパーヒーローじゃないぜ。マントを肩から靡かせ身勝手な正義感で他所様の惑星の命運を左右する大舞台にゲスト出演するような下品な事をしちゃあいけないんだ」


 気持ちがいいだろうよ。

 自分が味方についた側が勝者になり正義になる瞬間に立ち会うのはな。

 俺のおかげでコイツらは勝てたのだと、えも言われぬ法悦感と陶酔に浸ることが出来るだろう。

 まるで自分の意思決定が世界を動かしたような錯覚さえするさ。

 俺は神様になったんだってね。

 経験者だから言うんだぜ。これまでいくつもの惑星を調査してきた。その中には今回のように文明を築いている惑星もあったさ。感情に任せそいつらを助けたこともある。でもそんなことは決してしちゃあいけないんだ。

それが力を持つ者の責任だ。

 そう。それに気づいてさえいれば俺はあの時、引き金を引かずに済んだんだ。そうすれば、今頃はきっと……


「お、あったぞノア。大戦の記録とチャールズができた理由を記した本だ。スキャンするのも面倒だな。しっけいして帰るか」

 

「#1035記録再開。こちらオズ。本船に帰着したため、惑星アーリアの調査について報告をする。アーリア内の環境は地球とほぼ同様のようだが放射線濃度が地球の約3倍ほどまた採取した地水から僅かだがカドミウムが検出された。我々人類が永続的に暮らすには少しばかり工夫しなくてはいけないと言ったところだろう。また、アーリア人については異星友好水準を五と定義する。共存は難しいだろう。以上の観点からアーリアは地球人が移民するのは困難であると判断した。更なる新天地を求め恒星間航行の準備に入る。#1035記録終了」

 

 ふう。

 やっと終わった。

 しかし安心はできない。結局は地球人が住めない場所だったんだ。調査に何の意味もなかった。


「ノア。次の惑星こそエデンだといいな」

 —そうですねオズ。少し休んでください 


「あぁ。そうさせてもらうよ。ノア。チェスに付き合ってもらえないか?」


 —構いませんが、私の打ちは統計に基づいた行動予測と勝率の計算に過ぎません。人間のように多彩な術は持ち得ませんがよろしいでしょうか?


「かまわないさ。一人で詰め打ちをするよりはマシだよ。次の惑星に着くまでの少しの間だ、少しばかり無聊を慰めても誰も怒りはしないだろう」

 

惑星調査が終わったら後始末を済ませてノアとチェスを打つ。

これが俺の退屈で騒々しい日課だ。


「ノア。お前手加減でもしているのか? 今日も俺の勝ちだな」


 そう言おうとした意識が遠のいていった。

 またこの感じだ。

 少しづつ意識が朦朧としていき、微睡の中に沈んでしまう。

 次に目覚めるときには決まって未知の惑星の軌道に乗っていて、ノアの鳴らすアラートで目が覚める。

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