七番目の不思議
琥珀
第1話
「おはよー、あやちゃん」
「おはよ、なおちゃん」
おはようと言われたからおはようと返し、あやちゃんと呼ばれたからなおちゃんと呼び返す。何もおかしくはないやり取りなのに、なおちゃんは顔をしかめて言い返してきた。
「オレの名前はなおじゃないんだけどね?」
「私だってあやじゃないけど?」
お互いが正しくない名前を呼び合っている。ほら、何もおかしくはないじゃない!
私のセリフに、なおちゃんは目を閉じて何かを考え込む顔になった。
さすが学年一の美形(音声抜き)と言われるだけのことはある。顔をしかめようが目を閉じようが、様になる。
しかし、目を開いて言うことは、オマエ本当に考えたのか?と言いたくなる言葉だった。やっぱり音声抜きだ。
「え、あやこちゃんだろ?」
「ざんねん」
生徒手帳を取り出し、顔写真の下に『早瀬彩子』と書いてあるページを開いて、ビシッと突きつけてやる。
「私の名前は、はやせ、さいこ!と読みます!」
するとなおちゃんは、負けじと自分の生徒手帳を出してきた。そして顔写真のあるページを開いて、『吉田尚』の文字を指差す。
「オレの名前だって、よしだひさし、だぜ?」
「ふーーーーん、それで?」
「だから、オレのことはひさしって呼んでほしい」
うんうん、キミの言い分はわかった。
でもね、私は忘れないよ。
クラブの新入部員の名簿を見て、なおちゃんが私の名前をあやこって読み間違えたんだよね。確かに彩子を『さいこ』って読むのは初見だと難しい。それはわかる。
でも、なおちゃんが読み間違えたせいで定着しちゃって、私が訂正してもスルーされちゃっているのは事実である。だから私もなおちゃんをなおちゃんと呼び続けている。
もし、なおちゃんが私をちゃんと『さいこ』って読んでくれたら、そのときはわたしも『ひさし』って……。
いやむりむりむりむりむり。
無理だわ。
うん。
昇降口で上履きに履き替えた私たちは、まず職員室へと向かった。
「おはよーございまーす、朝練するので鍵の持っていきまーす」
早番の先生に声をかけつつ、鍵を取り出す。持ち出し簿にもクラスと名前を書き込んだ。
それから、階段へと向かった。
「どーして音楽室って最上階なんだろね?」
やや息を切らしつつつぶやくなおちゃんに、私は呆れた目を向けた。
「下の階だと音が響くからじゃない?」
「そうだろうけどさぁ、楽器持って降りるのも、大変だしさぁ」
「わかるぅ」
一言で楽器と言っても、小さものから大きなものまでピンキリだ。
たどり着いた四階で、まずは音楽室の鍵を開け、隣の準備室に入る。壁にかけてある楽器庫の鍵を取り、音楽室の奥、楽器庫のドアを開けた。
一人で持ち運べるものから、二人じゃないと持てないものまで、実に様々な楽器が収められている。
「じゃ、朝練始めようか」
朝のHRまで40分くらい、がんばるとしますか。
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