第37話 ソラの誓いとサラの思い

 召喚術士ヴェロニカは、10年前に1つの都市を単身で滅ぼした極悪犯だ。


 数多の高ランクモンスターを召喚して、都市のど真ん中で暴れさせた。


 その時に死んだ人は、市民だけで10万人。


 冒険者もS級が3人、A級が10人、B級以下が1000人以上も死んだ。


 その後SS級冒険者5人に捕まれられたと言われているが、真実は違う。


 実際は、SS級冒険者5人からなんとか逃げている途中に、当時15歳だったシャーロット先生に捕まえられた。


 だからシャーロット先生を恨んでいると言う訳だ。


 ヴェロニカが笑う。


「あはははははは! いつから気付いたんだ? 俺の計画は完璧だった筈だが?」


「教えると思っているのか?」


「いや思っていない。聞いてみただけだ」


 そう言ってまた笑う。


 相変わらず気持ちの悪い奴だ。


 サラ達は突然話し方も態度も変わったことに困惑していた。


 そしてシャーロット先生があり得ないと言うふうに叫ぶ。


「どうして! あの時に確かに捕まったはずなのに! しかもあの時と全然違うじゃない!!」


 シャーロット先生が言うこともわかる。


 今のヴェロニカの姿は昔と全く違う。


 そもそも10年前の時点で20代後半だったはずだ。


 てことは……。


「なんだ……ただのおばさんじゃないか」


 俺がボソッと呟いた言葉がものすごく響いた。


「「「…………」」」


 サラ、シューマ、シャーロットは何も言わない。


 そしてヴェロニカはと言うと……。


「ぶっ殺してやるッッ!!」


 顔を真っ赤にしてキレていた。


「ここに俺の殺したい奴は全ているから丁度いい! 俺の本気を見て絶望しやがれ!!」


 先程まで動いていなかったモンスター達が、戦闘態勢を取り始めた。


 サラとシューマは魔法を放とうとするが、俺が止める。


 そして混乱してぼーっとしているシャーロット先生に言う。


「シャーロット先生。サラとシューマに結界を張ってください」


 俺に話しかけられてはっと意識を取り戻したシャーちゃんは、俺に聞いてくる。


「でもそうしたらソラ君は……?」


 俺は魔法の指輪から《魔剣闇夜》と《聖剣白夜》を取り出して、サラ達の元へシャーちゃんを一瞬で移動させる。


「「「えっ……?」」」


 突然のことに驚いた3人に1つの約束を伝える。


「これから俺がなんとかするので、絶対に結界から出ないでください」


 俺はサラの目の前に移動してサラの名前を呼ぶ。


「そしてサラ」


「……なに?」


 サラが俺に目を向けてくる。


 前世では俺に目を向けてくれることはなかった。


 何故ならゲームだから。


 でも今は俺と言う存在を認識してくれている。


 俺がサラの目を見て、


「俺が絶対に君を守って見せるからね」


 そう真剣な表情で言うと、俺でも見たことのない、誰もが分かる程に目を見開く。


「……どうしてそこまで?」


 サラの問いかけで、俺は前世での出来事を思い出す。


 家族関係は最悪で、学校に行っても虐められるかボッチで過ごす日々。


 そんな俺が生きていけたのは、サラが居たからだ。


「俺が…………俺が君に救われたからさ! だから今度こそ必ず俺が守り抜いて見せる。だから見ていてよ。俺の本気を……」


「ふふっ、私は貴方を救った記憶はないのだけれど?」


「まぁ知らなくてもしょうがないよ」


「でも…………でもとても嬉しい。じゃあ私に見せて? 貴方の、ソラの本気を」


「勿論だよ……君は俺の全てだから……」


 俺は立ち上がってヴェロニカをみる。


「相変わらず高みの見物が大好きだな……?」


「うるさい! この大群をお前だけでなんとかできるわけないだろッッ! だが、もしものためにもう一体用意しておこう。……来い! 【シャイニードラゴン】ッッ!!」


 ヴェロニカが何かの水晶を割ると、地面に巨大な魔法陣が現れる。


 そしてその魔法陣から、白いドラゴンが出てきた。


 それを見たシャーちゃんが声を震わせる。


「あ、あれは……私の街を破壊し尽くしたドラゴン……何で!? あの街の冒険者の人達が命懸けで倒したはずなのに!! あれはソラ君だけじゃ無理だよ!! 私もやる!」


 そう言って結界から出ようとするシャーちゃんを止める。


「大丈夫ですから。まぁ見ていてください」


 俺はそれだけ言って歩き出す。


「【鑑定】」


_________________________

シャイニードラゴン

等級:S

level:145

_________________________


「level:145か……」


 俺は鑑定結果を見てそう零す。


 それを絶望と捉えたヴェロニカは、俺に自慢してくる。


「そうだ! コイツはlevel:145のモンスターだ! コイツは人間の限界を超えている! SS級をも退けたコイツをお前みたいなガキがどうにかできるわけないだろ!? さぁ絶望しな!! あはははははははは!!」


 ほぅ……。コイツはlevelのことを知っているんだな。


 面倒だが、殺すのはやめておこう。


 俺は1つため息を吐いて、《魔剣闇夜》を鞘から抜く。


 刀身は黒く輝いている。


 その刀身が、早く獲物を食わせろと言っている様だ。


 大丈夫、もうすぐたくさんの獲物が来るから。


 俺はヴェロニカの間違いを正す。


「さっきお前は、俺が絶望したと言っていたな」


「ああ、当たり前だろ? 人間を超越しているモンスターが目の前にいるんだ。そうなってもおかしくない」


 俺は首を振る。


「俺は絶望したんじゃない。なにが出るかと思えば、level145だと? 警戒して損した」


 俺がそう言うと、ヴェロニカが『は?』と言う顔になった。


「なんだ? ハッタリだろ? 強がりを言ったって人間が勝てるわけないんだよ!」


「うるさい」


 俺はヴェロニカに殺気を放って黙らせる。


 おっと、シャイニードラゴンも余波を受けた様で、『グルルルルル……』と唸っている。


「チッ! やれシャイニードラゴン! あいつを殺せ!」


 ヴェロニカがそう言うと、シャイニードラゴンが俺に向かってブレスを吐いてきた。


 俺は向かってくるブレスに刀を振り下ろす。


 その瞬間に、ブレスが真っ二つに斬れる。


 俺は一瞬でドラゴンの懐に入ると、刀を横薙ぎした————






☆☆☆

(サラ視点)





 ソラが私でもギリギリ目で追える速度で、シャイニードラゴンの懐に入り、剣を横薙ぎした。


 私の目は、普通の人とは違う。


 所謂魔眼という奴だ。


 この忌々しい眼のせいで私は……。


 ……いやこの話はやめておこう。


 しかしこの私ですらギリギリ見えるほどの速度でソラはドラゴンに近づいたのだ。


 人間にはそんなこと絶対に出来ないはずなのに。


 しかし剣を振ったのに、ドラゴンは死んでいなかった。


 おかしい……私には確かに振っていた様に見えた。


 斬られたはずのドラゴンがソラを殺そうと動いたその時。

 

「え……?」


 ドラゴンの上半身がずれ落ちた。


 しかしドラゴンはまだ生きている。


 起きあがろうとジタバタしていたが、自身の足を見て動かなくなった。


 私は人生で初めて自分の目を疑った。


 それはここにいる誰もが同じだろう。


 それはモンスターも例外ではないはず。


 何故なら目の前で、最強種たるドラゴンが、1人の人間の少年に呆気なく殺されたのだから。 


 ヴェロニカも驚きのあまり、情けない顔になってぶつぶつと呟いている。


「ど、どういうことだ……? な、何故シャイニードラゴンが一撃で……」

 

 私には分かる。


 彼が斬ったのだ。


 たったの一振りで、それも自身よりも遥かに巨大なモンスターを。


 それを成し遂げた本人であるソラが、怒りの籠った目でヴェロニカを睨みつけながら言う。


「よくわかっていないお前に教えてやるよ。サラを危険に晒そうとした罪を………。そのせいでお前が誰と敵対したのかをな」


 そう言って2つの白と黒の剣を構え、今度は私でも見えない速度でモンスターの大群に突っ込んでいく。


 私はそんな姿をぼんやり見ながら、先程のことを思い出していた。


 私を真剣な表情で見つめるソラ。


 そして『俺が絶対に君を守って見せる』『君が俺の全てだ』と言った言葉。


 最後に私を安心させる様な微笑み。


 私は人生で初めて誰かをかっこいいと思った。


 私の胸の鼓動が速くなる。


 そしてそれと同時に彼のことがもっと知りたいと思った。


 何をしてあんなに強くなったのか。


 私が彼を助けたと言っていたけれど、私には分からなかった。


 それが知りたい。


 彼のことを考えると顔が熱くなってしまう理由を知りたい。


 彼がどこから来てどう言う経緯でここに通おうと思ったのか知りたい。


 それを全て知った時、私は少しでも彼の力になれたら良いなと思う。



 だけど取り敢えず今は……



————この心地よい高鳴る胸の鼓動を感じていたいと思う————




----------------------------

と言うことで、初めてのサラ視点でした。

どうだったでしょうか?


 面白い! まぁまぁかな? ソラ、エレノアがんばれ! などと思っていただければ、☆☆☆→★★★にしていただけるとありがたいです!

 また、フォロー、感想、応援コメント、誤字脱字や改善点などの報告を頂けると作者の励みになります。

 ではではまた次話で。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る