六話 心優しい神父さま
顔にかかる黒髪の隙間から覗くのは藍色の瞳。
しかし、それをまじまじと見つめ返す程の度胸は新田にはない。彼が高身長かつ筋骨隆々な見た目をしているからだ。
新田の発言と共に現れたこの青年は、一体何者なのだろうか?
「あ、あの、僕は新田新太……君は一体、もしかして僕と同じで……?」
ここの情勢に詳しいように見える。ならば自分と同じ転生者だろうか?転生者に侮蔑的な感情を抱いている気しかしないが、このいかにも強そうな見た目はそうとしか思えない。
ひとまず新田は動揺を隠しつつも、青年へと話しかけた。
「……俺はアルマ。転生者なんかじゃない。見てわかんないの?」
青年は眉間に皺を寄せてそう言う。何故彼が今までずっと不機嫌なのかが全く理解出来ない。今の新田がした見当違いの発言に対してならまだ分かるが……
「いや、でもその、なんとなく強そうだったからさ」
「ハァ……そう思う時点であんたは転生者確定だな。俺、ここの司祭。戦闘もしないから街の中では下から数えた方が早いくらいには弱い」
「えぇっ!?……あがっ!」
驚愕により外れてしまった顎を必死で直そうとする新田に、アルマは一切手を貸そうとはしなかった。
その後、彼は転生したばかりでボコボコにされた新田を流石に不憫だと思ったのか、不機嫌ながらも会話には応じてくれた。そのお陰で色々な事が分かった。
最初に、何故目覚めたら教会にいたのかについてだが『転生者、冒険者は死ぬと教会にて復活する』との事らしく、新田がイムの説明から推察したような内容で大体は合っているようだ。
次に小林の所在を聞いてみた所、恐らく彼は自分の家、もしくは
後は……と言うかこれが一番気になっていたのだが、何故アルマは新田に対してこのような態度を取るのか、それをオブラートに丁寧に包み込んだ発言で聞いてみた所、ある事実が判明した。
それを話すにはまず、転生者のステータス確認方法について説明しなければならない。
元よりこの世界の住民である者達には魔力、アイテム等を使って簡単に確認出来るというステータス。しかし転生者は前述したどちらの方法でも確認する事は出来ず、教会で祝福(これは形式上での名称。もしかするとただ単に魔力でも込めているだけなのかもしれない。)を受けた石板を某タブレット端末のように用いる事でのみそれを視認可能となるらしい。
ところが、最近の転生者達は皆『チート並の能力』やら『隠しスキル』やらの規格外の能力ばかり持っているせいでステータスを数値化する際にバグのようなものが多発し、石板がすぐに壊れてしまうらしいのだ。
……もう説明する必要はないはずだ。
転生者がすぐ壊す石板、それを作成するのは教会を運営する教団に属する神父達……
彼等が復活や石板関係等で自分達に負担ばかり与えてくるような者共を嫌うのは至極当然であるとすら言えるだろう。
つまり、アルマは新田を嫌っているのではなく、転生者全てを嫌っているのだ。
「まあ大体こんな感じだな……分かったんならそろそろ帰れ。どの道もう転生者にやる石板はないんだ、さっさと今日の宿でも探しな」
アルマはそう言い終えるともう話は終わりだとばかりに新田の首根を掴み、教会の外へと放り出した。
「うわ!…………いったぁ……」
地面を転がった新田は痛みを堪えて立ち上がる。
扱いが雑過ぎる……どうやら新田に同情していたわけではなかったようだ。
そして最初の発言には『お前にはステータスを確認できる石板なんてやらん。だから無いようなもんだろ』と言ったような意味合いが含まれていた事にも今更ながら気付いた。
新田は段々と腹が立ってきた。神父が転生者を嫌う理由は理解したが、僕はまだ何も壊してはいないだろう、僕が何をしたと言うんだ。
新田はそばにあった小石を掴むと、教会に向かって投げつけた。小石は教会の看板らしき物に当たり、新田の抵抗の度合いを示すかのようにとても小さな音を立てた。
そして、そこに書かれていた文字に気付いた新田は更に苛立ちを募らせる。
「……ふざけた名前しやがって!クソッ!」
……肩を怒らせて歩き出した新田が見た物とは、『教会 リスポーン地〝店〟』と書かれた看板だった。
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