第4話 小林×新田……これはもう最強か!?

「俺に見つかったのが運の尽きだ。死んでもらおう」


二人の前に突如として現れた8トントラック、彼(彼女……の可能性もある)は無いはずの声帯を動かし、こう話した。


「何なんだよいきなり!俺達に何か恨みでもあるってのかよ!」


「……ある‼︎」


小林の問いかけにトラックは短く返し、徐行程の速度で前進を開始した。


「炎技……」


「また火球でも出す気か……?甘い甘い!もう見切ったわ!」


そう言うとトラックは続け様に、とんでもない単語の詠唱を始めたのだった。


「そうだよ()」


「ゲフッ!ゲフッ!やめろ!( )内は言うな!」


「やわらかスマ」


「ゲフッ!ゲフッ!それもダメだ!」


「ぬわーんつか」


「ゲフッ!ゲフッ!何でそのネタばっかりなんだ……ガハッ」


トラックの仕掛けたあまりにも下らないやり取りにポカンとしていた新田だったが、小林がファイアーボールの詠唱を阻害され、最後には発言を防ぐために連続して行った咳払いのせいで喉が潰れたのを見て本当の目的に気付き、その恐ろしさに震え上がった。


「そんな状態ではすぐに魔法の詠唱は出来んな?ハハハハハ!もう勝ったも同然ではないか!」


「クッ……汚いぞお前……発言には気をつけろよ。大体あんまり下手な事を言ったらこの世界ごと、お前だって消滅する可能性もあるんだぞ!」


トラックは声高らかに笑い、小林は対照的に掠れた声で相手を非難する。


「それがどうした!お前ら人間の価値観がトラックに通用すると思うな!それに、俺は別に転生者全てを道連れに出来るなら消滅したって構わないんだ!」


「どうしてそこまで……まさかっ!」


トラックに抗議すべく口を開いた新田だったが、自ら話すうちに彼の真意を悟ったのだった。


「そこのヤツは気付いたようだな……そう、俺はお前らを轢いてしまった事により修理されても尚不吉だとドライバー達に疎まれ……運送会社に手放され……スクラップにされ……この世界へとやって来た!ならばやる事は一つ、お前らへの復讐だ!」


「そんな!無茶苦茶だ!」


新田はそう言いつつも、あの時の事故は自分に非があった事を思い出し、口を噤んだ。


「全く、無茶苦茶な話だ。いいか、よく聞け?俺の死因となったトラックは居眠り運転で突っ込んで来たんだ、なあお前、それでも俺が憎いか?」


すると新田に代わり、小林が喉の痛みを堪えながら話始めた。なるほど、この話が本当ならば彼はトラックに恨まれる筋合いは無いと言えよう。


「ふん!だとしても無生物の俺に自我を宿らせる程の怒りが収まるはずがないだろう!……だがまあ、そう言う事ならお前にチャンスをやろう。ほら、得意技を打ってくるが良い、いくらでも待ってやる!」


「……ありがたい。これで、お前を倒せるんだからな!」


小林がそう言うと、彼の周囲にある空間がまるで蜃気楼のように揺らぎを見せた。


「うっ……!」


新田は目を閉じ、顔を歪める。魔力でも溜めているのだろうか?どちらにせよ何か、とてつもない力が彼に集約され始めているのを感じる。


「駄目押しだ!新田!力を貸してくれ!」


小林はこちらに手を伸ばす。新田は理解が追いつかぬまま、その手を固く握り締めた。


すると、力の集約はより一層激しいものへと姿を変えた。まさか自分にここまでの力があったとは……


「いくぞ…………炎技……ファイアーボール‼︎」


二人の力を合わせて放った火球は先程の物とは比べ物にならない程に大きく、速く、強力なものであった。


「……」


トラックは無言で目前に迫るファイアーボールを睨んでいる……ように見える。それにしても度胸のある大型自動車だ。流石にこの威力ならば無事では済まないはずだが……


そうして火球はすぐにトラックへと直撃し、その全体は激しい炎に包まれた。


「ハァハァ……やったぞ」


「やりましたね……」


二人は強敵を下し、安堵の表情を浮かべる。しかし、ほんの少しトラックに同情していた新田は胸を抑え、この世を去った彼の心の安寧を願った。


「…………やはりこの程度か」


……二人の表情はすぐさま絶望の色に塗り替えられた。業火の中からぼそりと呟きが聞こえてきたのだ。


「そ、そんな……何でチート並の俺の攻撃が……?」


「あぁ、お前ら人間はこちらに来た時に得た力をそう呼んでいるのだったな……奇遇だな、俺も持っているんだ。その『ちーと』とやらを」


「な……!」


「さて、もういいだろう?今度はこっちの番だ……」


〝荷台ンパクト‼︎〟


トラックがそう言い、器用にも荷台を尾のように振り回した。それをもろに喰らった二人は激しく木に叩き付けられる。


「ぐっ‼︎」


回転で身を焦す炎までもを振り払ったトラックが再び前進を始めるのを見た後に、新田の視界は暗転した。


「……同じ能力があるなら、人がトラックに勝てるわけがないだろう。つくづく人間とは愚かなものだな」

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