第22話 告白-4
味来は未来で勤務先が破壊された後の状況は、陸奥や菜々から聞いていた。十年前の過去にタイムスリップした日時は皆同じだったが、未来からタイムスリップしたタイミングは皆バラバラだった。よって、それぞれが知る情報量も異なった。
四人の中で一番最後に過去にタイムスリップした陸奥陽光が最も詳しく把握していた。悲惨な状況の多くを把握していた。本人としては知らない方が良かったとも思える情報を多く所持していた。そのため、未来の悲惨な状況を変えたいと思う気持ちは人一倍強かったかもしれない。
各々が未来からタイムスリップした四人の存在を知ったタイミングも同時ではなかった。味来は他の三人から何が出来るか、何をすべきか意見を聞いていた。四人共『未来の悲惨な状況を変えるためにできることは何でもする』という強い思いは同じだった。
具体的な計画は味来と陸奥で立てた。数日後、各々の役割は味来から伝えられた。
味来は全体のまとめ役。
陸奥は農場工場の仕組みやプログラムなどを作るエンジニア。
菜々は農作物の栽培や品種改良に関わる研究・開発。
洞爺は農場工場で栽培された農作物の魅力を伝える料理人。
そして、それぞれの分野でこの時代の後継者を育成することも役割としていた。
目的達成のための手段は大きく分けて『農場工場の普及』と『起爆剤となる出来事』だった。『農場工場の普及』の進行状況は始めは順調に進むが、次第に進行状況は鈍化していくことが予測されていた。
そのために再び進行状況を加速させるため『起爆剤となる出来事』が必要と考えていた。その『起爆剤となる出来事』が味来と陸奥で起こした二つの事件だった。
四人が揃って話をしたのはタイムスリップをしてから一度だけだった。様々な可能性を考慮して四人の関係性を知るのは本人たちしかいなかった。
陸奥は『株式会社さとう』の農場工場の立上げには参加しているが、しばらくして『株式会社さとう』を離れて自ら会社を経営していた。
『株式会社さとう』のエンジニアである伊豆次郎は陸奥陽光を師匠と仰いでいて、たまに連絡を取り合っていた。今回の事件において、伊豆が相談していた師匠とは陸奥のことだった。内容は相談というより提案で、陸奥も感心する内容だったという。
「青は藍より出でて藍より青し」
陸奥が味来に嬉しそうに語っていた。
農がコーヒーを飲み終えて、社長室を出て行こうと立ち上がり味来に問いかけた。
「俺はいつ旅に出るんですか?」
「来週からよろしく。洞爺に許可は取ってある」
味来は笑顔で親指を立ててOKサインを出した。農はこのハンドサインの意味がわからなくなった。
イベントの発表は突然である。
農に訪れる場所や滞在期間などが示された予定表が菜々から渡された。すべて準備されていた。
数日後、『Sugar』で農の壮行会が行われた。参加者は、味来、菜々、洞爺、早生、ひかり、源助だった。味来たち四人が再び揃うのはこの会ではなかったようだ。
農がいなくなってからは、源助とひかりが厨房もフォローする機会が増えるようだ。早生の負担も増えることになる。
「皆には負担をかけるけどよろしくね」
「なんでお前にお願いされなきゃならねえんだよ」
「元に戻るだけですからね」
「あんた何様なの?」
農は数秒前に自分が発言したことを痛烈に後悔した。
「帰ってくる頃にはやぎくんの仕事はひかりちゃんがすべて担当してたりして」
洞爺の発言は現実になる可能性を秘めているように感じた。
「お前のことはたぶん忘れねえよ」
「たぶん忘れません」
「たぶんね」
「俺、死ぬの?それに『たぶん』ってなんだよ」
「人生何があるかわからないからね」
今度は味来が農を殺そうとしてきた。
「たまには帰ってくる・・・・・・かもしれないし」
農の発言に数秒の静寂が訪れた。
そんなやりとりを菜々と洞爺が微笑ましく見守っている。この光景を見ることもしばらくなくなる。農がタイムスリップしてから数ヶ月。
農はこの光景を再び見るために自分に出来ることをするのだと思うことが出来た。未来を変えるための行動をするのだと。
翌日、出発の前にいつものように皆で朝食を食べた。これもしばらくなくなる。
「いってきます」
農の役割を果たす旅が始まった。
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