第13話 イベント-6
イベントの終了時間も近づき客数も少なくなってきた頃、一人の子供の声が聞こえた。
「ママー、食べたいな」
「はい、どうぞ」
「ありがとう。春巻き、おいしい」
雪がその小さい女の子とやりとりをしていた。
「ママ?雪さんのお子さんですか?」
「紹介するね。うちの子の
「
次郎は『株式会社さとう』の初期メンバーの一人で、設備のプログラムを統括していたエンジニアを師匠としていたようだ。今では次郎は『株式会社さとう』のエンジニア部を統括する存在になっている。
次郎が師匠としていたエンジニアは、現在は『株式会社さとう』には在籍していないとのことだった。
農も次郎に名乗ろうとした瞬間、
「こちらは、やぎくん。洞爺くんのところで働いてるの」
またしても自己紹介をさせてもらえなかった。
そんなお決まりとなってきてしまっているやりとりをしている間に、夕紅は隣の屋台で交渉を開始していた。
「菜々ちゃん、食べたいな」
「夕紅ちゃん、こんにちは。コロッケどうぞ」
「ありがとう。コロッケ、おいしい」
夕紅がやっていることは、味来と同じく職権乱用いや特権乱用というべきだろう。ただ、とてもおいしそうに食べている姿を見たらすべてを許してしまいそうだ。
「夕紅ちゃんも投票しておいでよ」
早生のこの一言が勝敗の鍵を握ることになるとは、この時は誰も思っていなかった。
おいしいと思った屋台に投票をするということを理解した後、次郎と夕紅は投票所へ向かった。
「夕紅の票で俺たちの勝敗が決まったりしてな」
源助のこの一言に誰もが『やってしまったな』と思ったに違いない。一番勝ちたがっている本人がフラグを立ててしまったのだ。源助にとっては不吉なフラグを。
結果は、洞爺と早生チームが優勝。そして一票差で農たちが二位だった。
「夕紅の票のせいで負けたじゃねーか」
「夕紅ちゃんのせいにするなんてサイテー。あんたがあんなタイミングで変なこと言うからでしょ。バカなの?」
今回は早生の言うことが正しいと誰もが思ったであろう。その後も文句を言っている源助に対して早生の口撃がしばらく続いた。
「ところで、なんであんなに洞爺さんに勝ちたかったんだ?」
「理由なんてどうでもいいだろーが」
一応、巻き込まれている立場の者としては知る権利はあると農が思っていると、洞爺がうれしそうに説明をしてくれた。
「あー、それはね。源助が僕に勝てたら、翌年のイベントで早生ちゃんとコンビを組むという約束」
「余計なこと言うんじゃねーよ」
「いや、そんな約束してないから」
源助、洞爺、早生のコントが再度繰り広げられた。
「『俺が洞爺に勝ったらコンビ組め』って言ったら『はーい』って言ったじゃねーか」
「違う。『はあ?イヤだ』って言ったの。何度も言わすな。バカ」
「いや、『はーい』って言った」
お互い自分の都合のいい解釈になっているのだろう。『中学生のやりとりかよ』とツッコミたくなるほど低レベルの争いだった。
「まあ、今年も僕が勝ったからその件は保留だね」
「来年こそ負けねー」
「だから、そんな約束してないから」
源助、洞爺、早生の本日何度目かのコントが繰り広げられた。
「今年も負けたのは納得いかないが、お前は悪くないから気にするな。また来年組んでやってもいいくらいだ」
悔しい。だが農はおそらく源助に少しは認めてもらえたのだと少し安堵していた。多少の自信にしても良いのだろう。
しかし、源助に対してはいろいろ納得がいかないこともあった。ものすごく上から目線だし。目的に対しての行動は的確なのに大事なところで自滅することがある。とても複雑な心境だった。
「ところで源助、どうだい?やぎくんは?」
「洞爺たちが使えると判断したんだろ?まあ、あいつは悪くない。今のところ」
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