17 強硬手段


SIDE:???


 あれが連絡のあった娘……『森の魔女』の技を受け継いだと言う薬師か。


 如何に優れた薬師であろうとも、よもや姫のあの症状を治す事など出来まいが……

 可能性は潰しておくに越したことは無い。


 だが、此度の姫の『病気』については、もともと不審な点があると思われてる上に、アグレイブでの足止めの失敗によってもそれを冗長したらしく、娘の護衛は万全を期すようだ。



 さて、どうしたものか……



 あともう少し時間が稼げれば、いよいよ姫の命脈は尽き、我等の目的も達せられるのだが……

 ここに至っては時間稼ぎする理由も手段も無い。


 ……リスクは高いが、強硬手段に出るより他に無いか?















SIDE:メリア


 ここまで来ればすぐに診察出来るかと思ったのだけど。

 流石に素性も知れない小娘が高貴な人物と会うには相応な手続きがあるのは何となく理解はできるが、面倒なものだ……というのが率直な感想だ。


 こうして待ってる間にも病状が進行すると思うと居ても立っても居られないのだが、今は大人しくしているしか無いわね。



 案内されたのは、私の家から比べれば相当な広さを持つ応接間。

 ゆったりとしたソファーは座り心地がよく、室内には立派な観葉植物や数々の調度品が配置されている。

 豪華ながら落ち着いた雰囲気は品が良いとは思うのだけど……何となく居心地の悪さを感じるのは、私の感性が小市民であるが故か。

 部屋の奥には入り口とは別に扉があって、続きの間……多分、寝室かしら。

 おそらくここは、城に滞在する客が泊まるための部屋なのだろう。



 あちこち見ながらソワソワしていると、護衛のために私に付いてきてくれたイェニーが気を紛らわせようと話しかけてきてくれた。


「メリア、気持ちは分かるけど、少し落ち着いたほうが良いわよ?」


「う……それは分かってるのだけど。……でも、早く診ないと、取り返しのつかない事になりかねない」

 

「陛下に話が通れば「直ぐにでも!」とはなるとは思うけど。……メリア、あなた……姫様のご病気について、もう何か目星がついてるの?」


 私の口振りから、イェニーはそう聞いてきた。


「……グレンから症状を少し聞いただけだから断定はできないけど。幾つか思い当たるものはある」


「!本当!?」


「ええ。その中でも最悪のものであれば、残された時間はそれほどない。それはグレンにも伝えてるのだけど……」


 そのあたりの危機感が上手く伝わってくれれば良いのだけど。





 と、その時、コンコン……と部屋の扉がノックされた。

 ついに許可が出たかと、私が「どうぞ」と返事をすると……だが扉を開けて入ってきたのは、この城の使用人らしきメイドさんだった。

 ティーカップやポットを乗せたカートを押している。


「お寛ぎのところ失礼いたします。お客様にお茶をお持ちしました」


「あ、ありがとうございます」


 肩透かしを食らった気分だが、ちょうど喉が渇いていたのでそれはそれで有り難かった。




 そして、メイドさんは手際よく二人分のお茶の準備を整えて部屋の外に出ていった。




「ふぅ、まだ呼ばれないみたいだし……ありがたく頂きますか」


「私の分まで……護衛なんだけど」


「まぁ良いじゃない。ここにはうるさい上司もいないわよ?」


「…ふふ、そうね。じゃあ、私もありがたく頂くわ」


 顔を見合わせていたずらっぽく笑い合いながら、ちょっとしたお茶会に興じることにした。



 メイドさんはお茶請けにと、お菓子も置いていってくれた。

 王宮で出されるものだから、きっと凄く美味しいのだろう。


 それを楽しみにしながら、ティーカップに手を伸ばし、その芳しい香りを…………!?



「イェニー!!飲んじゃダメ!!」


「えっ!?」


 私と同じ様にカップに口を付けようとしていたイェニーは、私の鋭い静止の声に驚いて顔を上げた。



「どうしたの、メリア?……まさか?」


「……この香り。微かだけど、私の鼻は誤魔化せないわ。私を毒殺しようだなんて、100年早いわね」


「毒っ!?わわっ!」


 私の言葉に慌てたイェニーがカップを取り落としそうになる。

 私はそれを横目に見ながら、お茶に小指をちょん…と付けて舐める。

 すると、舌先がピリピリする感じ。


「間違いないわ。これはマシネラの毒ね。随分とまぁ……強硬手段で来たわね」


「だ、大丈夫なの?」


「私は毒耐性もあるから、少しくらいは大丈夫。あ、イェニーはやめておきなさいね。普通は舐めただけでもイチコロだから」


「……や、やらないわよ。というか、メリアが止めてくれなかったら……あ!さっきのメイド!確保しなきゃ!!」



 そう言って、イェニーは慌てて部屋を出ていった。

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