第六十七話①
「おっ、ロア坊じゃないか」
「お久しぶりです」
部屋に荷物を置いてリビングに降りてくると、客人として招かれていたのかエールライト(父)がいた。
顔は老けたがその身体に衰えは見られない。
腕の筋肉とかチラ見えしてる胸元の筋肉とか発達しまくってる。流石農家、一生懸命働いているだけで肉体が鍛えられる過酷な職業だ。
「随分大きくなったじゃないか! ステルラに手を出してないだろうな」
「手を出すわけないじゃないですか。俺は向こうから手を出してこない限り攻めませんよ」
理由としてはそれをネタに脅されたくないからだ。
揶揄われる程度ならばレスバしてボコればいいが、女に手を出したというのは些か不利になりすぎる。責任とかいう俺が最も忌み嫌う単語すら発生してしまうし、学生で養われている身でやるのはちょっとヤバいやつだろ。
師匠の名誉も傷つけてしまうのでやらん。
「アイツはなんだかんだ言って普通の女。こっちから愛を囁いてやればそのうち我慢できなくなって襲ってくるだろう。そしてステルラは強いやつなので、必然的に俺は悪くない流れが作れるわけだな」
「昔より酷くなったな」
「聡くなったと言ってほしいですね」
扱いやすさで言えば上から三番目くらい。
一番扱いやすいのはルーチェ、二番目に扱いやすいのはルナさんと師匠、三番目にステルラ、アイリスさんもそこら辺だな。あの人ストレートに感情をぶつけるのに弱そうだからその手で攻めてみるのも良さそうだ。
「……ま、結局うちの娘を追いかけてくれたのはロア坊だけ。アイツも満更じゃないだろうし、俺は許す。泣かせるなよ」
「勝手に泣くから最後のは承諾しかねますね」
涙目になってルーチェに言葉責めされてる姿を何度か見たことがある。
もうちょっとぐいぐい押してきてもいいじゃねーかとは思うんだが、ステルラにはステルラのペースがある。俺の精神力が鋼(笑)だから耐えられているが、これが普通の青少年だったらどうなっていたのだろうか。
恋愛に関してクソ雑魚すぎる俺の周り、一番心臓が強いのはアルベルトだからもうお終いだよ。
「これは時間の問題かしら」
「孫の顔が見られるのはそう遠くなさそうだなぁ」
おいコラメグナカルト夫妻。
他人の恋愛事情に突っ込んでやんややんや言うのは正直あまり好きじゃない。好きだの嫌いだの、そういう感情は本当に本当に本っ当〜〜〜に丁重に扱わねばならん。
好きと嫌いはありとあらゆる感情を置き去りにするほど重たいんだよ。
それを気軽にいじったら爆弾が爆発したなんて事例は腐るほどあるし、実際学園の中でも恋愛で破滅する男を見かけたことがある。逆に恋愛で破滅させる男も周りにはいるが、そうならないように俺は細心の注意を払っているのだ。
俺?
俺はノーカンだろ、だって向こうが俺のこと好きなのわかってるし。
見え見えなのが悪い。
「エイリアスさんの教育の是非がわからんな」
「フッ、俺が優秀すぎるせいでそう見えてしまうのも仕方ありません」
「少なくとも個人を活かすタイプなのは間違いないようだ」
さて、と口ずさみながら膝に手をついて立ち上がるエールライトさん。
「邪魔したな。折角だから顔を見たくて抜け出してきたんだ」
「お疲れ様です。俺も今度会いに行きますよ」
「俺じゃなくてステルラに会いに来い。ずっと寂しそうだったんだぞ、全く」
ふ〜〜〜ん。
愛しい奴め。
友人としてか異性としてか、詳細は問わないがアイツにとって俺が重たい比率を占めている事実だけで正直興奮する。
しょうがないだろ。
子供の頃から負けっぱなしでもうそれ自体が性癖に刻まれてるんだ。師匠に対してもステルラに対しても、本当に認めたくはないが色々思う所があるのは否めない。
俺も大人になったからな。
色々考えて受け止めることができるようになったのさ。
家から出て行ったエールライトさんを見送って、父上が呟く。
「いやー、久しぶりに話したけど元気そうだな」
「へぇ、最近付き合いなかったのか」
意外だな。
俺とステルラが幼馴染というより、家族ぐるみでの付き合いの方が大きいと思っていた。
「向こうが忙しくてな。エイリアスさんが抜けた穴を埋めてたから仕方ない」
「あ〜〜〜…………」
そういやあの人めっちゃ役職抱えてたわ。
今更思い出したが、軽く数えるだけでも七個くらい並行して仕事してたような気がする。
あれ?
これって俺のせいで村に負担押し付けたんじゃないか。
少なくとも元の予定ではステルラに対して英才教育にも似たスケジュールを組んでいた筈。
無論ステルラが首都魔導戦学園に入学するのは確定だろうから、そこに合わせて引き継ぎや各種手続きを行う予定だった。ところが俺という異物が乱入した結果俺にかかりきりになった師匠は引き継ぎ等を元のペースで行うことが出来ず、村のいろんな方面に迷惑をかけた…………
あー…………
うん。
これ俺が悪いな。
子供だからと言い訳するのは容易いが、冷静に考えたら破茶滅茶に迷惑かけてる。
その旨を伝えると、俺の想像とは違った答えが返ってきた。
「いや、別にそこらへんでは苦労してないぞ?」
「マジかよ」
「エイリアスさんが教育も兼ねて次の世代と一緒に仕事してたからな。ちょっと効率とかが落ちたけど一年くらいで慣れたもんだ」
俺が想像しているよりも大人たちは冷静で優秀である。
そりゃそうだ。俺は十五年しか生きていないがこの人たちは俺の倍の年数生きている。
経験したことも学習してきたことも俺とは比べ物にならないだろう。
そんな風に少し感心していたんだが、あの人が忙しい理由はまた違うらしい。
「単にアイツが村長も兼任してるから忙しいだけだな」
「…………村長かよ……」
「因みに俺は何も負担してない。ワッハッハ!」
「働け」
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