第四十五話②

 ゆっくりと会場までの道を歩く。


 戦う事が好きじゃない。

 いいや、正確には違う。


 自らの培ってきた炎属性の魔法────それに伴う被害が怖い。

 完全に制御できる程度には磨き上げてきた。両親を失い精神的に崩壊した時も、全ての気を紛らわすために、罪の清算をするために必死に師匠に教わって生きて来た。


 それでも、始めて試合を行ったときに聞こえた声。

 燃える炎の中で生きたまま焼かれるクラスメイトの姿。忘れてはいけない、忘れるわけにはいかない。治療が間に合ったけれど、心に傷を負ったまま魔法自体にトラウマを抱き学園を去ってしまった。


「…………ふむ」


 小さく指先に火を灯す。

 魔法という種別ではあるが、コレは一般的な魔法とは少し違う。


 魔祖十二使徒第三席・紅蓮スカーレットのみが扱う特殊な魔法。

 自身の肉体が炎へと変化するのを前提とした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、正真正銘オンリーワンの魔法。師であり育ての親であるエミーリアが本当に教えるのを渋った魔法だ。


 勿論一般的な魔法も習得している。

 座する者ヴァーテクスへと至る前にひたすら積み上げた研鑽よりも、至ってから習得したこの炎魔法の方が圧倒的だ。


 指先の炎を消して、自身の手を眺める。


 先程まで触れていた想い人の熱が宿っている。

 どことなくドライな空気感を出そうとしているけれど、内に籠める熱量が尋常ではない人。客観的に自分を見れている様で見れていない人。


「わかってますか? ロアくん」


 勝ちますよ、という宣言。

 これはテリオスさんだけではなく、貴方も含めて勝って見せるという宣戦布告。

 かつての英雄に勝ちを譲り仲間になって後悔を積み重ねたのが先人ならば、私は勝ちを譲らず仲間になる。


 師の後悔は根深いものだ。

 

 最期の瞬間に立ち会えず、好きな奴がいると聞いていたのに――そんな風に嘆いていた。

 口調は柔らかいモノではあったが、表情は無意識に出ていた。いくら人との関係性に疎い私であってもそれはわかるくらいだった。


「……時代が変わったからこそ。私は貴方を置いて行きません」


 師の因縁も、私の心も。


 全部纏めて焔で染める。

 

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