第二十六話③


 ステルラの方を直視できない。

 ルーチェの方も直視できない。

 必然的に逃げ道がアルとルナさんだけになった。ヴォルフガングは面倒臭いからパスで。


「俺が集めているわけではなく、集まってきているだけです。いわば俺は誘蛾灯であり──勝手に寄ってきている方が悪い」

「……すごいな。いや、男として尊敬する。なろうとは思わないが」


 テオドールさんから称賛を受けた。


「…………クズだな」

「一見クズなんですよ。そこのギャップがいいんですよね」

「最悪だろ…………」


 おいやめろルナさん止まれ。

 暴走列車ルーナ・ルッサ号は止まることを知らずに走り続けている。俺に対する評価がどんどん下がっていくのを感じた。


「ン゛ン゛ッ!! ……か、彼の名誉のためにもここまでにしておいて。くじ引きをしようじゃないか」


 テリオスさんの救いの手によって俺は一命を取り留めた。

 もう少しで社会的地位が底辺にまで落ちるところだったぜ。なお、すでにソフィアさんから放たれる視線が絶対零度になっていることには目を瞑る。


「交換は禁止、順番はどうする?」

「素直に順位が低い者からでいいだろう。そっちの方が公平だ」


 ……ってことは、俺からか。


「うん。ちょっと待ってね、確か記入用紙があった筈」


 ガサゴソ机を探っている間に俺の手元へクジが配られる。

 古典的だがシンプルでわかりやすい、箱の中が見えないタイプだ。この某を引き抜けばいいんだな。


 十四人で、一組だけシードか。

 狙うはそこだな。戦う数が減ればそれだけ俺は有利に働く。連日続けて戦うには辛いからそこだけはなんとしてでも引きたい。


「…………頼む!」

「ン、一番か。シード組とは真逆だね」


 神は死んだ。

 どうして試練ばかりが俺に降りかかるのだろうか。

 この世界の理不尽な構造はいつの日にか取り除いてやらねばならない。俺は硬く心に誓った。


「次は私ですね。ロア君、箱ください」

「はいはい」


 ルナさん躊躇いなく棒を取り出した。

 書かれていた番号は六番。ちょうど真ん中とかそのくらいか。


「悪くはないですね。誰と戦うかによりますが」


 その後も引き続け、無事に今いるメンバー全員が引き終わった。


 結果────


「…………正反対だな」

「…………正反対だね」


 一回戦が俺でステルラは最後の枠。

 

『一回戦 ロア・メグナカルトVSアイリス・アクラシア

 二回戦 ソフィア・クラークVSプロメサ・グロリオーネ

 三回戦 ルーナ・ルッサVSアーサー・フレデリック

 四回戦 ヴォルフガング・バルトロメウスVSテリオス・マグナス

 五回戦 ベルナール・ド・ブランシュVSテオドール・A・グラン

 六回戦 アルベルト・A・グランVSマリア・ホール

 七回戦 ステルラ・エールライトVSルーチェ・エンハンブレ』


 俺とステルラは決勝戦以外でぶつかる事のない振り分けとなり、一回戦の相手はアイリスさんに決まった。他の聞き覚えの無い名前に関しては今居ないメンバーだろう。


 これで俺とステルラが戦うには並み居る強豪を押しのけて決勝戦まで進出せねばならない事が確定した。

 嫌だ~~~もうハラハラするんだが? 俺は自分が負けるのは勿論ステルラが負けるのも嫌なんだよ。これはなんていうかな、アレだ。自分を散々負かしてきた強い奴がそこら辺の奴に負けるのが納得できないんだよ。わかるだろ。


「……すごいな。くじ引きなのにこうもピンポイントで」


 意味深に呟いたテリオスさんは放っておいて、日程的に作戦を考えよう。


 俺がいるブロックをA、ステルラがいるブロックをBとする。

 Aで特に注意するべきなのはテリオスさんとルナさんの両者。ルナさんは順位だけで言えば下だが、それあくまで数値上での話。


『魔祖に育てられ数年間に渡り首位を独占する男に対し唯一対抗できる』、等と噂される程度には強さがある。

 あの人の場合過去のトラウマが要因で戦えない訳だが……それでもそうやって評価されるくらい圧倒的な一勝だったのだろう。よくある話だ。


 覚醒して本気になった時の強さを誰も知らない。


 テリオスさんがどこまで引き出せるか──いや。

 テリオスさん相手にどこまで喰らいつけるか、という所か。


 常識的に考えて世代の入れ替わりも発生する戦場において常に頂点を維持してるのは頭がおかしいと言わざるを得ない。

 俺も勝ち抜けば戦うことになる。いや、どうやって戦おうかなマジで。


「一回戦は私ですか……」

「アクラシアさん、でしたか。ロア・メグナカルトです」

「アイリスで構いませんよ。で、一つだけ聞いても構いませんか?」

「なんでしょうか」

「魔法使用の有無についてです」


 ……それ聞くか、普通。

 不利に働くから答えたくないが、今更なところはある。


「私は魔法をほぼ使いません。ある意味似た者同士ですね」

「マジすか」


 一回戦がいきなりやりやすくなったと一瞬だけ考えたがすぐに訂正する。

 魔法を殆ど使わないのに上位にいるのは化け物がすぎる。これ貧乏くじだよな。確実に配役間違えてるだろ。


「持ってるな、坊主」

「やめてください。俺はできるだけ楽をしたいんだ」

「気が合うじゃねぇか。俺もそうなんだよ」


 このちょっと胡散臭い感じの人がフレデリック・アーサーか。

 一応第七席? の弟子って聞いたことがあるが……いかんせん手に入った情報が多すぎる。小出しにして欲しいね。


「中々楽しそうな振り分けになったねぇ」

「お前はいつもマイペースだな。少しは顔を顰めたらどうだ」

「ハッハッハ、うまくいけば兄上とも戦うことになるんだ。楽しみで仕方ないさ」


 結局アルベルトの戦いを見るのはトーナメントが最初になるのか。

 グラン家に伝わる魔法……うーん、特に記憶にないな。グラン公国に関しては一番最初に矛を収めた国だったし、戦後の復興が最速だったことが強く印象に残っている。


 わからない。


「それよりもホラ、君のお姫様の方が大変じゃないかな?」


 俺がせっかく目を逸らしていたのに現実を突きつけてきた。

 堂々と座するシード組、そこに刻まれた名前はステルラとルーチェ。決勝とか準決勝とかじゃなくシンプルに一番最初に戦い合うあたり何かに導かれてるんじゃないだろうか。


 ルーチェは難しい顔をしているしステルラも微妙な表情だ。


「……まあ、深く考えるな。その時・・・が来たのが早かった。それだけだ」

「…………そうね。寧ろ都合が良いわ」


 ────私が負かすんだから。


 そう言わんばかりの強気な目つきへと変化した。

 最初の頃のヘニョヘニョルーチェに比べて随分と心が強くなった。やっぱりこう、自分を支える何かがあると人は変わる。自信のある無しは問わず、自己を強く保つということの大切さ。


「それに比べてお前と来たら……」

「う゛っ」


 ため息を吐いて視線を向ければ顔を逸らすステルラ。


「対戦相手はやる気十分。待ち受けるぐらいの気概を見せればいいじゃないか」

「わ、わかってるよ。全くもう……ロアみたいにアホメンタルしてないの!」

「誰がアホメンタルだこのコミュ障。泣くぞ? 俺が」

「君が泣くのか…………」


 思わずツッコミを入れてきたテリオスさんの声で気を取りなおす。

 こういうやりとりは後ですれば良い。少なくともライバルとなる人たちがいる場所でやる行動ではない。


「さて、時間をとらせてすまなかったね。予定通り進めば開催は一週間後になる、各自準備は怠らないように」


 ……一週間、か。

 それまでにできることはあるだろうか。

 付け焼き刃でも良い。情報を集めて対策を重ね、一つでも多く勝利への道筋を作る。


 この場にいる全員が敵になる。


 はーやれやれ。

 誰も彼もが強そうでギラギラしてて嫌になるね。


 楽は一切出来なさそうだし確実に勝てる見込みもない。


 ────だからと言って負けてやるつもりも毛頭ないが。


 良いぜ、叩きつけてやるよ。

 新たな時代がやってきた。次に頂点に立つのは俺達・・だってな。

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