親友と行う異世界帰還RTA

影束ライト

親友と行う異世界帰還RTA

『選ばれし勇者よ、どうか世界を救ってください』


 そんなことを言うなぜか浮いている金髪の美女。

 さて、いきなりこんなことを言われるのはなぜか、俺は数分前を思い出す。


(数分前)

 俺、帰一きいちと親友である雄二ゆうじは学校の帰り道を共に歩いていた。


「今日俺バイトだ。帰一は?」


「俺は今日何もないな。だから帰ってゲームする。でも珍しいな、いつもはシフトいれていない日だろ?」


「なんか急にシフトに空きが出来たから入ってほしいって言われてな」


 雄二のバイトは地元のファミレス。

 こいつは中々に働き者であるのと顔が隣を歩いていると多少むかつくくらいにはいいのでこういう時によくヘルプが入る。

 それと雄二が良いやつでこういう時に断らないのも理由だと思うが。


「どうしたんだ、俺の顔をじっと見て」


「いや、雄二の顔はたまに殴って台無しにしてやりたくなると思ってな」


「なんだそれ、変な褒め方だな。帰一は髪型とか気を遣えばモテると思うぞ?」


 雄二は俺の言葉を軽くかわし、そのままカウンターを入れてくる。

 確かに俺は目が隠れないくらいまで髪を伸ばしているし、面倒だからしばらく切っていないが、イケメンにモテるとか言われるなんかムカつくな。


「余計なお世話だイケメン野郎!」


「……次は怒りに任せて直接褒めてきたな」


 そんな会話をしているといきなり俺たちの真下の地面が光だす。

 当然足元にイルミネーションやライトなどが置いてあるわけでは無い。


「なぁ、なんか地面光ってないか?」


「あぁ、光ってるな」


「これ、やばいやつじゃないか?」


「……やばいだろうな」


「だよな。よし、逃げよう!」


「残念だが無理だな。足が動かん」


「あ、ほんとだ。じゃあ俺たち」


「このまま流れに身を任せるしかないな。死ぬときは一緒だ」


「男と心中とか嫌だな、あぁぁぁぁ!!!」


 俺たちはそのまま光に包まれたのだった。


(今)


 そして今、気が付いたときには謎の空間に、親友と他にも複数人の人が居るのを確認。それと共に謎の美女が天から現れ冒頭のセリフを言い放ってきた。


「おい親友。あの美女はいったい何を言っているんだ?」


「さぁな。ああいうのはお前の方の分野だと思うんだが?」


 俺たちはいつもと変わらない軽口をたたきあっていると美女の後ろに何かが映し出される。

 見た感じいろんな国だった町だったり景色だったりだ。


『いまこの世界は悪しき魔王の手により平和が脅かされています。どうかみなさんの手で救ってほしいのです!』


 そんな美女の言葉に一同ポカーンという感じだ。


「あれは何を言っているんだ?」


「さぁな、ただ自己紹介くらいしてほしいとは思うな。面接でも最初は互いに名乗るものだからな」


 どうにも横のイケメンはこの状況を集団面接だと思うことにしたらしい。

 そんな俺たちの会話を聞いたのか美女は再び口を開く。


『言い忘れていましたが、私は女神です。そしてみなさんは私に選ばれた勇者というわけです。みなさん世界を救ってくださいますか?』


「おいあの女神何を言ってるんだ?」


「どう考えてもあれが言ったこと以上のことは何もないだろ。というかお前さっきから同じようなことしか言ってないぞ?」


 どうやら俺は知らないうちに何を言っているんだボットになっていたらしい。

 では他の奴らはどうなんだと周りを見てみると、何か盛り上がってる。

 これを分かりやすく書くならば、


 女神降臨ww


 勇者に選ばれたんですが!?


 我世界救うwwww


 お前には無理ww


 こんな感じ。

 まぁ、多少偏見が入ってるがだいたいみんな笑って盛り上がってるから大きくは間違ってないと思う。

 そんな周りの奴を見て女神は肯定的に捉えられていると思ったらしい。

 女神、どうやら俺たちの世界を知らないらしい。


『ではみなさんに力を与えましょう。どうかその力で世界を救ってください』


 女神の言葉と共に俺たちの目の前に半透明のボードが現れる。

 そのボードにてっきり自分の能力値が事細かに書かれているのかと思ったが、そんなことは無く書かれていたのはシンプルな一文。


 能力 読心どくしん


 これだけだ。

 どうにも不親切だと思うが、文字からして相手の心を読むとかそういう能力なのだろう。


 俺は自分の能力を考えるのを諦め隣にいる親友の方に目を向ける。


「親友、お前はどうだった?」


「どうも何も俺にはよく分からな………お前はなんかすごい微妙な表情してるな」


「……見るか?俺の能力」


 俺は自分のボードを雄二に見せる。


「なるほど、確かにあんまりパッとはしない能力だな。あ、こっちが俺の能力な」


「パッとしないは余計だ。そういうお前は……」


 俺は雄二のボードを覗き込む。


 能力 等価交換


「雄二、おまえいつから錬金術師になったんだ?」


「いや、なった覚えねえよ。でもこの等価交換ってどう使えばいいんだ?」


「説明とかついてないのかよ」


 俺と雄二はボードをあれこれと触ってみるがうんともすんともいわない。

 他の奴らも同じようにボードを見て盛り上がっている。


 女神はそんな俺たちを見て満足そうに頷き両手を広げる。


『さぁ勇者たちよ。その力を使い魔王を倒すのです!』


 女神はそう言いながら光の門を出現させる。


『この門をくぐり、異世界へと旅立つのです!』


 女神の言葉にみんなウキウキで門をくぐっていく。

 そして俺たち以外の全員が門をくぐり終え、俺たちが最後に残る。


『さぁ勇者よ旅立』


 ピコンッ


 女神が俺たちにもテンプレな言葉を吐こうとした瞬間、俺のスマホが鳴る。


「あ、ちょっとすみません」


 俺は一言断りを入れ、スマホを確認する。


「………まじか」


「帰一どうしたんだ?」


 俺は雄二にスマホを見せる。


「これは、お前のやってるゲームの新キャラ情報?」


「あぁ、今日から三日間限定のガチャだ。なぁ女神さん、聞きたいんだが?」


 女神はこんな状況で質問されたのにさすがに驚いていたが、『なんでしょうか?』とすぐに冷静さを取り戻して返してくる。


「俺たちが異世界に行っている間にも時間は進むのか?」


『はい。あなたたちの世界と異世界では同じだけの時間が進みます』


「え、俺今日バイトあるんだけど……」


 雄二は自分のスマホを見ながら「あと二時間後……」とつぶやく。

 さすがに今日のバイトは無理だな。


「もとの世界には戻れるんだよな?」


『はい。魔王の悪事を止めれば帰れますよ』


「その魔王を止めるってのはだいたいどれくらいの時間がかかるんだ?」


『そうですねぇ。早くても一年から二年ほどではないでしょうか』


 その女神の言葉を聞いた瞬間、俺たちは「ちょっとタイム」と二人でコソコソと話す。


「おいどうする?一年も二年もバイトの穴開けるわけにはいかないぞ」


「俺だってこの限定ガチャを逃すわけにはいかない。どうにかして三日以内に」


「いや、バイトあるから二時間以内に帰りたいんだが」


「それもう無理だろ。あきらめ……るわけにいかないんだよな」


 俺たちは互いの思いを確認しあい、女神の元に戻る。


「なぁ女神さんよ。この門はどこに繋がってるんだ?」


『えっと、みなさんを勇者として祝福してくれる国々に出るようになっていますが……』


「ならこの門を魔王のとこに繋げないか?」


『…………え?』


 さすがの女神もしばらく声が出なかった。

 そりゃあいきなりラスボスの元に連れて行けなんて言われれば驚いて固まるだろう。


『え、あ。わ、わかりました。ですがいきなり魔王と戦うなんて命を捨てる行為ですよ!』


 さすがというべきか女神はすぐに冷静さを取り戻すがさすがに今回の質問は動揺がすごいのか最後の方の言葉が強くなる。


 もちろん俺たちも考えなしでラスボスの元に行くわけでは無い。

 本来なら最初から魔王の元に行かなくてもいいだろうが俺たちにはやらないといけないことがあるんだ。


「あともう一つ。俺たちがやるべきなのは魔王を倒すのではなく悪事を止めること、ということで問題ないですか?」


『え?………そうですね。倒さないのであればこの紙にサインをしてもらえれば』


 女神は一枚の紙を差し出し来る。

 その紙は言ってしまえば契約書。


『それにサインをすれば神の力によりその契約を破ることはできません。では、魔王のもと、はさすがに厳しいので魔王が納める国に門を繋げますが、ほんとにいいんですね?』


 俺たちは頷き、門の中に入る。


『ではどうか世界を救うことを期待しています』


 女神がなんだか疲れたような声でそう言っていたのが聞こえた。








 __________________


「さて、門をくぐって出てみれば」


「意外と普通の街だな」


 俺たちが門をくぐった先に出たのは女神が言っていた通り街。だが周りを見渡しても普通の店や人がいるだけで魔王が抑えめているようには見えない。


 俺たちは街を見回るが異世界でよくある中世ヨーロッパ風の普通の街だ。


「さて帰一。俺たちはまずどうすればいいんだ?」


「そうだなぁ。とりあえず腹空いたし、飯を食いたいな」


「飯か。でも店はたくさんあるが金がないだろ」


 たしかに俺たちはこの国の金は持ってない。

 たぶん女神の言う通り勇者として扱ってくれる国に行けば困ることは無かったのだろう。

 だが俺だって無策じゃない、俺は元の世界の通貨を取り出す。


「お前の力でこいつをこの世界の通貨に変えてみてくれ」


「俺の力で?分かったやってみる」


 雄二は俺から通貨を受け取り、念じるように握りしめる。

 すると俺たちが知っている銀や銅で桜や寺の書かれた硬貨が金色で竜の書かれた硬貨に変化する。


「こいつがここの金か。ほんとに使えるのか?」


「さぁな。そこは使ってみるしかないだろ」


 俺たちは変化させた金を手に近くにあった串肉を売っている店に向かう。


「すみません。その肉二つください」


「おう、まいどあり!」


 俺は肉を受け取り金を渡す。

 肉屋のおじさんはその金を受け取ってもとくに反応はしなかったので問題ないらしい。

 すこしほっとした。


「兄ちゃんたちは見ない顔だが、旅途中とかか?」


「まぁそんなところです」


 俺たちが肉を食うとおじさんが話しかけてくる。

 これは情報収集のチャンスだ。


「あのここは魔王が納める国って聞いたんですけど。実際魔王ってどういう方なんですか?」


「うーん、そうだなぁ。魔王様は魔王なんて呼ばれているが国のことを考えてくれるいい人だぞ。最近もあちこちで国のために走り回ってるって話だ」


「なるほど。……ありがとうございました。ごちそうさまでした」


 俺と雄二は肉を食い終え、歩き出す。


「腹を満たしたが、これからどうするんだ帰一?」


「とりあずさっきのおじさんの話だと魔王は話の通じないやばいやつでは無いらしい。だから、時間も無いし直接話そうと思う」


「そうなのか?でも一人だけの話で判断するのは……」


「分かってる。俺だって一人の意見で行動を起こそうなんて思わんよ。ちゃんといろんな意見を総合した結果だ」


「?」


 雄二は俺の言葉にはてなを浮かべている。


「ようするに、俺の能力を使ったんだ」


「お前の……あの読心ってやつか」


 そう。

 俺は肉屋のおじさんだけでなく、その近くの人にも能力を使い、魔王についての本心を知ることが出来た。


「ってわけだが、どうだ?」


「そうだな。そこまでの情報があるなら、それにもうバイトまで時間無いし。だが簡単に一国の王と対面できるか?」


「問題ない。だって俺たちは……」


 俺たちはいろんな人に道を聞きながら、魔王がいるという城に向かった。













 ________________


「なぁ帰一」


「どうした雄二?」


「どうして俺たちは縛られてるんだ?」


「さぁな、とりあえず死んでないいことを喜ぼうぜ」


 俺たちは現在腕をしばられ、広めの部屋で多くの騎士たちに囲まれている。

 こうなったのは少し前に遡る。


 俺たちは城に向かい、魔王に合わせてほしいと門番に言った。

 結果は当然門前払い。

 なので俺たちが勇者だと話すとすぐに対応を変えてくれてこうして縛られたというわけだ。


「騎士たちの心を読む感じ殺されることは無いと思うが」


「バイトの時間がもうギリギリだぞ」


 俺たちがそうして話していると、後ろの扉が急に開く。

 それと共に騎士たちはいっせいに整列をする。


「これは、どういうことだ?」


「来たんだろ俺たちの待ち望んだ魔王が」


 俺たちは後ろを向きたい気持ちを抑えながら、横を魔王が通り過ぎるのを待つ。

 やがて、大勢の騎士と共に俺たちの前に魔王がその姿を現す。


「やぁ、はじめまして。勇者くんたち」


 魔王の姿は、特別俺たちとは変わらない、普通の人間だ。

 しかも俺たちの年もそう変わらない、黒い服に身を包んだ二十代ほどのなかなかのイケメンだ。


「今日は僕に話しがあるんだっけ?」


「はい。とても大事な話があります」


 俺はそう答えながら、読心を魔王に向けて使う。


「じゃあ早速その話を聞きたいんだけど、その前にその縄を取ろうか」


 魔王はその言葉と共に手を横に振る。

 するとスパッと縄が切れ、俺たちの腕が自由になる。


「すごいな魔法か?」


「だろうな。……ありがとうございます」


「いやいや。気にしないでくれ。それで君たちの要望を聞かせてもらえるかな?」


 俺は一呼吸置き、女神から貰った紙を取り出す。


「では単刀直入に言います。これにサインしてください」


 なんかアイドルのサイン会のようになったが俺は女神から貰った紙を魔王に差し出す。


「これは、女神か……」


 魔王はその紙を触っただけで神がかかわっているということが分かるらしい。

 しばらく紙を眺めていると、ため息をついて俺に紙を返してくる。


「どうやら君の所の女神は情報が遅れてるみたいだね。その紙、先代の魔王あてだよ」


「「……え?」」


 俺たちがそんな魔王の言葉にはてなを浮かべると、魔王は丁寧に教えてくれる。


「その紙に書かれてる悪事っていうのは先代の魔王がやっていたことんなんだ。僕はそんなくだらないことをやってる魔王を倒して今の魔王になった。っというわけでこの紙にはサインできないんだ」


 なるほど。

 つまり先代の魔王がしたことだから今の魔王には関係ないということだ。

 俺の読心を使っても嘘はついてない。

 とういうことはつまり……


 俺たちは魔王の言葉を飲み込み、理解し、そして数秒。


「……つまり俺たちは」


「元の世界に帰れない?」


 二人で同じ結論にいたった俺たちはそこが城の中だということを忘れて、上を向いて叫ぶ。


「女神ー!俺たちを元の世界に返せ―!!」


「バイトあるんだよー!!」


 と息が切れるまで叫び、「はぁ、はぁ」と呼吸を整える。

 魔王はそんな俺たちを見て「落ち着け」と手で静止してくる。

 そしてにっこりと笑うと俺たちに向かって救いの言葉をかけてくる。


「君たちそこまで帰りたいなら僕が帰してあげようか?」


「えっ、まじですか?」


「うん。まじ」


 俺たちは顔を見合わせ頷く。


「「お願いします!!!」」


「うん。じゃあ早速と言いたいけど、ただって訳ではいかないんだよね」


 当然だな。

 だが俺たちに渡せるものなんてほとんどない。

 雄二も同じ意見らしく困った顔をしている。

 そんな俺たちはを見て魔王は笑い出す。


「別に高価なものである必要はないよ。そうだなぁ、君たちの世界でなにか便利な物が欲しいな。君なら分かるんじゃないかな?」


 魔王は俺を見る。

 俺は一瞬どういうことだと思ったが、おそらく俺の読心のことを言っているのだろう。

 魔王の言葉の通り、俺は読心を発動させて魔王の考えを読み取る。


「……なるほど。魔王、さん。鉱石だったり使わなくなった物などを大量に集めてください」


 俺の言葉に魔王は笑いながら「分かった」と言い、すぐに騎士たちに命令を出す。


「雄二。お前の出番だ。さっさと帰るぞ」


「はぁ~。分かった、ようするに今集めてもらってる物で作れってことか。それで何を作ればいいんだ?」


 俺は雄二に作るものを話し、まだ作ってもないのに疲れた顔をする雄二だった。











 _________________



「おぉー!すごいなこれが君たちの世界の物か!」


 魔王は俺が、というか雄二が等価交換により作り出した物の山を見てキラキラとした目で見る。


「ふぅ~。疲れたー」


 そして俺の横で腰を下ろしている雄二。


「おう、お疲れさん」


「あぁ、しかしあんなんでよかったのか?」


「意外とああいうのが便利なんだよ」


 俺たちは魔王が手に取って眺めている物を見る。


 雄二が等価交換で作り出したのは、だいたいが文房具だ。

 ボールぺンやノート、コンパスに分度器やファイルなんかもある。

 そのほかには俺たちの世界にあるタワーや神社などの有名な建物のミニチュアなどを作った。


 正直後者はおまけで前者が本命。


 今の魔王は戦いよりも話し合いを主に行っている。

 国の人からも魔王は国のために走り回ってるという話もあったので武器などよりも文房具などの事務用品を作ったわけだ。


「いやー、ありがとう。まさかここまでの物を貰えるとはね。よし、約束通り君たちを元の世界に帰そう!」


 俺たちはその言葉を聞き、ハイタッチをする。


「それじゃあ女神から貰った紙を貸してくれるかな」


「はい。どうぞ」


 魔王は俺から紙を受け取ると、手をかざして地面に魔法陣を展開する。


「二人ともこの魔法陣に乗って」


 俺たちはその指示に従い魔法陣に乗る。

 すると魔法陣が光だし、俺たちを包み込む。


「それじゃあね二人とも。時間があればもう少し話したかったな」


 俺たちはそう言って笑いながら手を振る魔王を見て、光の中に消えた。











 _______________


「う、ううん……」


「ここは……」


 俺たちが目を開くと、そこは元の世界、ではなく女神と会った場所だ。

 そして俺たちの目の先には茶とせんべいを手にもって固まっている女神が居る。


「う、嘘……。もう帰ってきたの?」


 女神は持っている物のせいなのか驚きのせいなのか最初のころの女神らしさが感じられない言葉遣いをしている。


「あー。女神さん。魔王とはもう決着がついたので元の世界に返してもらえます?」


 俺がそう言うと、女神は頭を押さえながら半透明のボードをいくつも操作する。


「あの、一応聞きますけどどうやってこんな短時間で?」


「話し合い?」


「プレゼント?」


 と俺たちが言うと、女神は天を仰ぎ始める。


「あー、はい、もうわかりました。あぁそうだ、あの紙返してください」


 女神がそう言い手を出してくる。

 だがその紙はもう魔王に渡してしまったのだが、


「あれ?あるな」


「それって、魔王がここに帰すために使ったはずだよな?」


 俺も雄二も紙があることを不思議に思いながら女神に渡す。


「はい。どうも………はぁ~」


 女神は紙を受け取り眺めると、大きなため息をつく。


「別に私だって上から言われたからやっただけだし。別に魔王に言われなくても……」


 となんだか小さな声で恨み言を言っているが、俺たちには関係ないことだ。


「女神さんよ。そろそろ俺たちを帰してくれないか?」


 雄二はスマホを見ながら焦ったように言う。

 そろそろバイトの時間がまじでやばいらしい。


 女神は最後に大きなため息をつくと、紙を放り投げて半透明のボードを操作して門を出現させる。


「この門の先が元の世界に繋がっています。ありがとうございました」


 女神は最後にはにっこりと笑顔で手を振って見送ってれる。


「よし。いくぞ帰一。バイトが待ってる」


「分かってる。じゃあ女神さん、魔王によろしく」


 俺と雄二は門をくぐり、元の世界に帰った。





 _________________


「うぅ、ここは」


「ようやく戻ってこれたな」


 俺たちの目に映るのは元の世界の風景。

 ただし日ががすこし傾いている。


「さて俺はバイトに行ってくるが、帰一はどうする?」


「そうだな。俺も少し疲れたし、お前のバイト先で少し休ませてもらおうかな」


 俺たちはバイトの時間に間に合うように、走りだしたのだった。






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