第三話 みんなも続け!恐竜探し二日目

1-3その1

 ユウトは不満でした。ソウタが恐竜発見の一番乗りで、しかも二頭も見つけて、一頭は女子にゆずってあげるなんて、かっこ良すぎます。不公平です。


 観察基地に戻ったケイタとソウタたち一行は、捕まえた恐竜を保護室に預けて、夕食をあわただしく済ませました。みんないっぱい歩いて、ヘトヘトでしたので、風呂やら歯磨きやらなんとか済ませて、早々に布団に入りました。さすがに昨日とは違い、みんなくたくたですぐに寝てしまいました。

 次の日は、疲れてグズグズと朝食の時間ギリギリまで寝ている子と、相変わらず楽しみでとても早く起きていた子が半々くらいでした。

 なかでも、ユウトは一番はじめに起きていて、

「今日こそは一番に見つけてやるぞ!」

と相変わらず叫んでいました。ソウタは素朴な質問をしてみました。

「何か飼いたい恐竜はいるの?」

するとユウトは勢いよく、

「昨日だったらトリケラトプス、今日なら最初にいた恐竜。」

と答えました。みんなは

「なんだ、一番に見つけられればなんでもいいのかよ。」

と苦笑いしていました。


 朝食を食べたたら、恐竜探しに出発です。二日目の今日は少し離れた恐竜のコロニーまで専用の車に乗って探しに行きました。専用車はタイヤの大きいトラックみたいな車で、後ろには大人がすわるにはちょっと狭そうですが子供ならピッタリぐらいの折りたためる席が10席ほどついています。ケイタとソウタたちのクラスは三台に分乗して、連なって行きました。

「今日は南の方へ向かいます。南にある母岳の周辺には比較的珍しい草食恐竜が生息していますよ。」

遠山先生がガイドしてくれました。ガタガタ道を一時間ほどドライブです。道はもちろん舗装などされていませんが、ジャングルをかきわけ無理矢理進むというほどではなく車一台分くらいの幅は確保されていました。ジャングルを分断しないよう、ちゃんと注意深く整備されているそうです。

 車は時々大きく揺れたりしましたが、歩くよりははるかに楽です。みんなは車内でにぎやかに話をしていました。

「歩きがないと楽だな。」

誰かがつぶやくと、遠山先生が、

「今日一日中車という訳ではないですよ。着いた先で別の恐竜のコロニーへ歩いて移動するので往復一時間くらい歩きますよ。」

と、教えてくれました。

「なんだ、今日もまた一時間も歩くのか。」

「でもまあ、一時間だけだから、わけないよ。」

「歩くなら車の中で寝ておこうかな。わ!あと五分ぐらいで着いちゃう!」

 そうこうしているうちに、ジャングルが少しひらけたところで車は止まりました。遠山先生は、

「ここで降りましょう。少し歩けばコロニーに着きますよ。」

と言って、先導してくれました。そして、しばらく歩くと、

「クワー!クワー!」

と何やら恐竜の声とともに、

「コツン!コツン!」

と何かがぶつかる音が聞こえてきました。

「あれがパキケファロサウルスのコロニーですよ。」

遠山先生が指さして教えてくれました。よく観察してみると、パキケファロサウルスのあかちゃんが頭と頭をぶつけていました。さっき聞こえたコツン、コツンという音は頭をぶつける音だったのです。

「パキケファロサウルスは頭をぶつけて戦うんだよ。あれはこども同士が遊んでいるだけだけどね。」

ケイタは言いました。ケンジも続けて言いました。

「大人の恐竜同士がやると、もっとすごい音がするんだよ。特にオスはコロニーの中でのポジション争いが熾烈だからね。」

遠山先生が感心して、

「二人ともよく知ってですね!先生いらないかもしれませんね!」

と二人をほめてくれました。


 観察がおわったらパキケファロサウルスのあかちゃんを探す時間です。

「あっちの茂みあたりが、迷子になりやすそうな場所ですね。あの辺りを探しましょう。」

そう言って、先頭で進んで行きました。すると、

「おっと、ちょっと先には小さな沼があったはずです。草におおわれて見にくいので、あまり先に行ってはダメですからね。」

と、教えてくれました。

 みんなはおっかなびっくりしなから、そろりそろりと進んで、ロープが張ってある茂みの中にはいりました。

「沼にはワニがいるのかな?」

ケイタが言いました。

「落ちたら命がありませんよ!みんなロープの外に出ないように。」

心配なのか、花山先生はみんなに念を押していました。

 みんな恐竜探しにもなれてきており、本気で探している子たちは、みんな地面にはいつくばり、背の低い草の重なっているところを重点的に探していました。ユウトは

「今日こそ見つけてやるぞ!」

という意気込みで、はいつくばって一番必死に探していました。

 そして、ユウトはわりあいすんなりと、何枚も重なっていた下草の葉をめくったところにかくれている、パキケファロサウルスのあかちゃんを見つけることができたのでした。

「見つけた!」

しかし、その大きな声と急に明るくなったことにびっくりして、パキケファロサウルスのあかちゃんは一目散に逃げていきました。

「あっ、待て!」

ユウトは飛びつきましたが、わずか及びませんでした。パキケファロサウルスのあかちゃんは、そのまま一目散にロープの先にある茂みの中に逃げこんでしまいました。

「うおー、逃がすものかー!」

ユウトは、ロープをものともせずくぐりぬけ、そのまままっすぐ、先にある茂みの中へ追いかけていきました。たまたま見ていたミサキが、

「そっちは危ないと思うよ!」

と呼び止めましたが、まったく聞こえていないようでした。

 ユウトが茂みの中に突っ込んで行くと、パキケファロサウルスは意外にも入ってすぐのところに立ちつくしていました。ユウトはチャンスとばかりにパキケファロサウルスのあかちゃんをがっちりつかみ、

「やったぜ、ゲットだぜ!」

と、叫びました。しかし、前のめりでパキケファロサウルスをつかんだいきおいで、つんのめってころんで一回転しまいました。そして最悪なことに、その先は沼だったのです。パキケファロサウルスのあかちゃんは、きっと沼がこわくて進みあぐねていたのでしょう。

「うわーっ!」

バッチャーン!ユウトの叫び声とともに水しぶきがあがりました。遠山先生と花山先生が、音を聞いて飛んできました。

「先生!ユウトくんが恐竜を追いかけてロープの向こうに走って行きました!」

ミサキはオロオロしながら、説明しました。

クラスのみんなもびっくりして集まって来ました。見ると、ユウトは尻もちをついて、パキケファロサウルスのあかちゃんを頭の上に持ち上げて、お腹ぐらいまで泥水につかっていました。

「へへっ、沼にはまっちゃったよ。」

ユウトは苦笑いをしていました。そうです、恐竜探検のこどもたちを連れてくるぐらいなので、そんなに深い沼ではなかったのです。そして当然、ワニもいない沼でした。

 しかし、だからといって安心はできません。沼の底はドロドロで、ほんの少しずつですが沈んでいくのです。しかも、ドロドロの足もとのせいで、歩くこともままならないのです。もがけばもがくほど、逆に沈んで行ってしまう、底なし沼であることには変わらないのです。

 遠山先生はユウトの様子をみて、

「無理に動かないで!下手に動くと沈んでしまうかもしれないからね!」

と叫んで、急いでその辺に生えている細い木を切りました。そして、素早くユウトに差し伸ばしました。

「つかまってください!」

遠山先生はユウトに向かって叫ぶと、ユウトは片手で木にしっかりつかまりました。

「だれか、手伝ってもらえますか?」

ケイタやソウタ、ケンジのほか数名の男子が遠山先生と一緒に木のもう一方をつかみました。

「それでは、ゆっくり引いてくださいね!」

ユウトは遠山先生と手伝いの男子たちに引っ張られ、沼の表面をすべるように移動して、無事に沼から脱出できました。

 もちろん、もう片方の手にはパキケファロサウルスのあかちゃんをしっかりとかかえていました。ユウトはドロドロになりましたが、本人もパキケファロサウルスも特にケガもなく無事なようすでした。

「いやー、ケガがなくて良かった。踏み外して片足をドロドロにするくらいの子はいましたが、ここまで派手に落っこちた子は初めてですよ・・・」

遠山先生は苦笑いをしながら言いました。

 なお、この後ユウトは、花山先生にたっぷり怒られたのは言うまでもありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る