きょうりゅう島の子どもたち
高橋家
プロローグ きょうりゅう島
日本の南のはじっこ、太平洋にポツンと浮かぶ島があります。この島は、日本列島から1000㎞ほど離れていますが、れっきとした日本国内です。広さは四国より少し小さいくらいで、人口は30万人ぐらいです。日本にしては人口密度はやや低いかもしれませんが、島には電車も走っているぐらいなので、島内の生活は日本のほかの場所とくらべても、特に目立った違いはありません。
でもこの島には、一つだけ日本はおろか世界中のどこともちがう、びっくりするようことがありました。それはなんと、生きた恐竜が住んでいたのです。
みんなが今、きょうりゅう島と呼んでいるこの島で、野生の恐竜が人間に見つかったのは、明治時代なのでそんなに昔のことではありません。なぜ、見つからなかったのかというと、恐竜はきょうりゅう島の東側に大きくに広がった高さ千メートルをこえる山々にかこまれたカルデラの中の、広い広いジャングルに住んでいたため、なかなか発見されなかったのです。そもそも、きょうりゅう島自体も、江戸時代の中頃に発見されたので、恐竜が見つかった当時は、人間に知られていない場所がたくさんあったのです。
このように発見から日の浅いきょうりゅう島の恐竜については、まだわかっていないことがたくさんあります。何種類の恐竜が、どのぐらいの数いるのか、そんなことすら完全には解明されていません。ただ、どんどん減ってきていると考えられていて、どうやら本当らしいということはわかっていました。
なぜ、恐竜が減っているのかというと、その原因は人間がこの島に来たからでした。
このきょうりゅう島はほかの陸地からとても離れています。ですので、鳥類は、アホウドリやミズナギドリ、カツオドリなどの海鳥だけでなく、ハトやヒヨドリ、ウグイス、カラス、ハヤブサはてはオウムやインコなどたくさんの種類がいましたが、哺乳類はオオコウモリしかいませんでした。そのため、恐竜の天敵は肉食の鳥がいくらかいるだけで、あとは、恐竜自身、つまり肉食の恐竜がいるぐらいなものでした。しかし、人間がやってくると、荷物に紛れて入り込んだ哺乳類、特にネズミが、恐竜にとってやっかいな敵となりました。ネズミは小さいながらも凶暴で、恐竜のたまごやあかちゃんを食べてしまうからです。しかも、天敵の少ないこの島ではネズミはどんどん増えていったのです。
そこで、きょうりゅう島の人たちは恐竜を守るべく、ジャングルにネズミ用のワナを大量にしかけました。しかし、広大なジャングルでどんどん増えるネズミには大した効果はありませんでした。しかも、野生動物が捕まってしまうことも多く、逆効果な面もありました。そこで、さまざまなネズミ減少作戦がいろいろ提案されました。まず、猫やイタチに捕まえさせる方法が考えられました。が、ジャングルにこれらの動物を入れ、まかり間違って野生化したら、恐竜をはじめとする動物たちにさらなる強敵があらわれてしまうことが容易に想像されました。危険すぎて、実行に移せませんでした。次に殺鼠剤を撒くなども考えました。が、都合よくネズミだけを殺す毒物など当時も今もありませんし、食物連鎖でどこまで影響するのか想像もつきません。危なすぎで、やはり実行に移せませんでした。いろいろなアイデアをひねり出し検討を重ねましたが、結局、良い考えが生まれず、ネズミを減らす作戦は諦めざる得ませんでした。
こまったきょうりゅう島の人たちは、発想を転換させました。今度は、恐竜のあかちゃんをつかまえて、育てるのはどうかと考えたのです。自然の恐竜の生活をみだすのはよくないことです。しかし、鳥類などとくらべて子育てが上手ではない恐竜は、あかちゃんが親からはぐれてしまうことで、ネズミなどに殺されてしまうケースがとても多かったのです。恐竜は成長が早い動物です。ある程度大きく育てられれば、天敵がぐっと減ることもわかっていました。そこで、迷子になったあかちゃんを人間が保護して育て、ほどよく大きくなってから自然に返せば、自然に対する影響が少なく、恐竜が減るのをある程度ふせげるのではないかと考えました。これなら、問題は少なそうです。
しかし、今度はたくさんの恐竜をどうやって育てるかが問題となりました。今でこそ立派な恐竜センターがありますが、昔はそんなにたくさんの恐竜を育てる場所がありませんでした。だからといって、だれでも捕まえて育ててかまわないということにすると、よそからやってくる密猟者が必要以上に捕まえて、こっそり売ってしまわないか心配でした。恐竜は世界中で大人気なので、欲しがっている人がたくさんいます。きょうりゅう島から勝手に持ち出されてしまえば、恐竜がどんどん減って、また大変なことになってしまいます。
そこで、きょうりゅう島の人たちは画期的な方法を考え出しました。学校教育に恐竜の保護を組み込むことにしたのです。
まず、ふつうの人が恐竜を捕まえることを禁止しました。そして、きょうりゅう島の子どもたちだけ特別に、小学校の四年生になるとジャングルに行って、親からはぐれた恐竜の赤ちゃんを一頭だけ捕まえられるようにしたのです。そして、その恐竜は授業の一環として児童たちが大切に育てて、学校を卒業する時にジャングルへ返すようにしたのです。こうすれば、悪い大人が勝手に捕まえるようなことがあれば、すぐに見つかってしまいます。これで、恐竜を島外に売り飛ばしたりする危険性は、ほとんどなくなりました。
実は、いまでは立派な恐竜センターができたので、恐竜の保護は恐竜センターでも十分できるようになっています。きょうりゅう島の子どもたちが、わざわざ恐竜の赤ちゃんを捕まえて、育て、ジャングルに返す意味は、恐竜保護の観点から言えば、ほとんどなくなったかもしれません。しかし、きょうりゅう島では、子どもたちに恐竜や自然、命の大切さを教えるため、そして、きょうりゅう島の守るべき伝統として、恐竜の授業を現在でも続けているのでした。
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