戦艦の歌声
曇空 鈍縒
潜水艦の戦場
第1話
赤い光に照らされた潜水艦内は、隅から隅まで、パイプやコード一本取っても、最新鋭の技術が惜しげもなく使われている。
完全に密閉された船内は、船体から、電子機器まで、ほぼ全てが軍事機密に分類されており、潜水艦乗組員を含む限られた人間しか、見ることはできない。
まあ、それでも、まだ不足している部分は多く、技術改良の余地があるのだが、現時点で作れる、最高の潜水艦であることに間違いはない。
発令所でスイッチや制御盤を前にした船員たちは、高性能の機械に頼り切ることなく、緊張したおもむきで、時折、無線のマイクを手に取って、異常なしと、当直の士官に連絡していた。
その、当直の士官が、現在仕事中の乗組員で、一番緊張した顔だ。
万が一、今攻撃を受けたら、休息中の艦長に引き継ぐまで、経験の深くない当直の士官が、攻撃の指揮を執ることになる。まあ、緊張するだろう。
俺も、どんな小さな音も聞き逃すまいと、耳の神経を研ぎ澄ませる。彼がいくら頑張っても、俺らが仕事をしなければ、潜水艦は何もできないまま沈む。俺たちが、潜水艦の目なのだ。
今のところ、俺らの潜水艦が航行する海域は、平和だ。敵の姿も無い。最も、俺たち
ここは、音だけが見える世界。海の暗闇の中、周囲を探る方法は、音しかない。
潜水艦には、窓が無い。たとえ窓があったとしても、この闇の中では、何の役にも立たないだろう。
この世界で、無音の潜水艦は、つまり、透明な戦艦と何も変わらない。
透明な兵器より心強い存在はないだろう。だが、それが敵にいれば、最悪の脅威だ。その脅威を排除するために、様々な兵器が存在している。機雷や対潜哨戒機などだ。
そして、潜水艦同士が戦うこともある。それより静かな戦場は、存在しないだろう。潜水艦が撃破されるまでは、本当に小さな音しか聞こえない。
俺たち水測員は、交代しながら、常に周囲の音に耳を傾けている。船の音、生き物の音、波の音など、海中は様々な音で満ち溢れている。
今のところ、遠くの方を走行する哨戒艇が一隻と、商船の駆動音が数隻分以外に、人工の音は聞こえない。
まあ、商船も通る海域だ。四六時中、所属不明艦艇の音が聞こえているようでは困る。
それを言ったら、俺らの乗っている潜水艦だって、他国の船から見れば、所属不明艦艇なのだが。
まあ、できれば、自分らが戦わないといけないような相手には出てきてほしくない。
軍人だって、平和を望んでいる。万が一の敵襲に備えつつ、災害や人命救助に精を出すのが、一番だと思う。
人を殺したい兵士なんていないし、味方に、自国民に死んでほしい兵士だっていない。
だが、いつだって世界は、我々、末端に位置する兵士達の望みを聞いてはくれない。
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