09話.[気にしないとね]

「なんか久しぶりだな」

「だねえ、もう夏休みも終わってしまったということだよねえ」


 登校したのをいいことに約一ヶ月ぶりに部室に来ていた。

 今日は幼馴染君と一緒に登校してきたため、お祭りの日からどうしていたのかを色々と聞いた。

 特に派手なことはしなかったみたいだ……って、なにかイケないことをしていたとしても言ったりはしないよねと内で呟く。


「部長、来ないな」

「林檎先輩を起こしているのかもしれ――あ、おはようございます」

「隠れて聞いていると色々と面白いことが聞けるんです」

「ごめんなさい。それで吉水部長はどうしたんですか?」

「知文君もいますよ?」


 え、見回してみても廊下に出てもあのにこにこ笑顔が見つからないけど……。


「あ、これは言ってはいけないことでした、郁沙ちゃんといることを埜乃さんが知ってしまったら平静ではいられなくなりますよね」

「あ、そうなんですか、それならよかったです」


 新学期早々風邪で休んでしまったとかよりも遥かにいい、それと私と郁沙の関係が変わろうが部長といることはなんらおかしなことではないからだ。

 それこそ私こそが取ってしまった人間だった。


「ちなみに郁沙ちゃんが先程、転んでしまいまして」

「え、大丈夫なんですか?」

「郁沙ちゃんは気にしていない様子でしたけど優しい知文君が保健室に連れて行ったんですよ」

「部長らしいですね、あと、郁沙……先輩らしいです」


 まあ、いまから行ってもすれ違いになる可能性の方が高いし、こうして部室に入れているからには無駄にはならないから読書を始めることにした。

 何気に幼馴染君も複雑そうな本を持ってきており、いつも郁沙が座っている席とは逆の方に座って読み始めた。


「おお、これが当たり前になってくれると嬉しいんだけどなあ」

「別に問題ないですよ、俺は暇なので」

「そっか、郁沙も入部してくれるということだから安心して活動することができるというやつだよね」


 入部することにするのか。

 私にとっては貴重な読書仲間だから大歓迎――といきたいところだけど、どうしてこちらは腕を掴まれているのだろうか。

 だって林檎先輩と仲良く話していたとかそういうことでもないんだよ? 幼馴染君だって真面目に読書をしているというのに……。


「うん、埜乃に触れたら落ち着けたよ」

「って、落ち着けていなかったんですか?」

「うん、だって知文が『駄目だよ』とうるさいから……」

「もっと気をつけた方がいい、女の子なんだから男の子以上に気にしないとね」


 あ、分かりやすく嫌そうな顔をしている。

 でも、文句を言われたくはなかったからそっと本に意識を戻しておいた。

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