思い出のクリームソーダ
旦開野
第1話 クリームソーダが食べたい
なぜかよくわからないけど、無性に何かを食べたくなる、という感覚を誰しも経験したことがあるだろう。特定のものをなぜか食べたくなってしまうのは栄養が足りていないからだ、などと言われたりもするが実際のところはよくわかっていない。そんなことはどうでもいい。とにかく今、私はその衝動にかられているところだ。仕事一筋、39歳独身の男性である私は、一体何をそんなに食べたくなっているのか。まあ、興味がある人がいるのかどうか、よくわからないがここまでお話ししてしまったので答えよう。私は今、とてもクリームソーダが食べたいのだ。
クリームソーダを食べる……という表現は少々不適切な気がする。飲料なのだから正しく言うのであれば「飲む」だろう。ただ、食べ物の話から入ってしまったので、そこは多少許して欲しい。私の中ではクリームソーダは「食べる」と表現した方がしっくりくる、というのもあるのだけど。
クリームソーダといえば喫茶店の定番のメニューの一つである。鮮やかな緑色の、小さな泡が弾ける涼しげな飲み物に、特別感を演出するバニラアイスクリーム、そしてアクセントとなる真っ赤なチェリー。おしゃれな喫茶店で輝くその飲み物は、喫茶店などあまり行かない子供の目からしたら、憧れの飲み物である。私も憧れを抱いた子供の一人だ。
憧れを抱いていたのも遠い昔の話。クリームソーダを最後に食べたのはいつのことだろうか……なんだったら私はつい昨日まで、クリームソーダのことを考えたことがなかった。それがどうしてか、昨日の午後、職場でパソコンに向かっているときに思ってしまったのだ。「クリームソーダが食べたい」と。
一人暮らしのマンションに帰ってからも、クリームソーダが食べたい欲が消えることはなかった。私の衝動は抑えることができず、職場の近くで美味しいクリームソーダをいただけるお店を検索していた。案外クリームソーダを売りにしているお店は多いようだ。むしろなんか流行っている?私の中でクリームソーダといえば昭和の飲み物で、たくさんのスイーツで溢れている現代においてとっくに影を潜めてしまっているとばかり思っていた。
ここなら昼休みにサクッとよることができるはずだ。職場から歩いて10分もしない場所にあるクリームソーダ専門店をスマホのマップ上でクリップし、その日は眠りについた。
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