(没原稿)幻の第1話『面白くない話』

 *****




 この話は私が底辺魔道士だったときの話だ。


 魔力も少なく仕事内容も最底辺。なので逸話も本当につまらない。


 その、本当につまらない話でも怒らない人だけに読んでもらいたい。


 実はこの話は、私の自叙伝の第1話だったんだ。


 ところが、あまりのつまらなさに読んだ人の9割が引き返してしまうという惨事になった。


 そんなつまらない話でもよかったら見てもらいたい――。




 *****




 ギルド併設の酒場で早めの夕食を取っている私のところへ、珍客がやって来た。髪をきっちりと結い上げ、眼鏡をかけた彼女は、シャフトロニカ王国新聞の記者だと名乗った。


「魔道士さんの武勇伝を聞かせて欲しいのです!」


 記者さんは身分証を見せながら、そんなことを言い出した。


「はあ……? 武勇伝?」


 私ことチエリー・ヴァニライズ(20才、女)は大きなため息。


「はい! 私は新人記者のメモリッタ・エトロと言います。このたび初仕事で冒険者の特集記事を書くことになりまして。ぜひとも武勇伝を聞かせて欲しいのです!」


「いやそんな武勇伝とか……語れるような人間じゃないんだ、私は」


 私はうつむき、憂鬱を吐き出すように言った。


「ご謙遜を! 魔道士さんと言えばレア中のレア職業。一人で騎士100人ぶんの戦力と聞きます。これで武勇伝がないなんて言ったら騎士に失礼! あるんでしょう? すごい話が!」


 メモリッタは目をキラキラさせてテーブル越しに迫ってくる。


 困るなぁこういうの。


「なんでそんなに聞きたがるんだい?」


「魔道士さんは冒険者の花形ですから! 話を聞きたがらない方がおかしいです! 国民も知りたがっています! 国民の代表として私は聞かねばなりません!」


「言っても何もないしなあ……武勇伝なんかさ」 


 私が頭を掻いてると、メモリッタは顔を接近させてきた。


「いいえ、冒険者の方はみんなそう言うんです。私はまだ、物理職の方にしか取材出来ていませんが……。冒険者の口から出てくるのは驚くような話ばかりです。私が驚いていると、つまんなすぎて驚いてるのかなって思うみたいです。冒険をしすぎて麻痺してるんです! 私みたいな町育ちにとっては、冒険者のお話は全てが驚きの連続です!」


「ええ~? そうかなあ?」


「そうです、完全にそうです! 聞かせて下さい、早く武勇伝を!」


 鼻の穴を広げてやたらぐいぐい来る。


 新人ならではの熱心さってヤツかなあ……。


「いや何もないよ本当に」


「ありますから! じゃあ前回はどんな仕事をしたんですか? 言ってみて下さい!」


「前回は……知性のあるタイプの魔物を討伐したかなぁ……」


 私が渋々答えると、


「ほらぁ~~~!! やっぱりすごい話出てきたじゃないですかぁ~~!」


 ダンダンダンッ! とテーブルを叩いて喜んでる。


「でもたいした魔物じゃないよ?」


「たいした魔物ですから! 魔物というのは魔力を持った動物みたいなものと聞きます! 魔力のせいで異常に巨大になったり魔法を使ったりすると。だから知性持ちなんてめったにいない……。そんなレア魔物がたいしたことないわけないじゃないですか! そのときの話を聞かせて下さい! ぜひ!」


 うーん……。


 そんな期待は外れる予感しかしないんだが。


「本当につまらない話しかないぞ? 絶対につまらないぞ?」


「私は驚く自信があります!」


 新人記者メモリッタは手帳を開いて、ペンを握って書き込みの用意をする。


 そんなに言うのならしょうがないか。新人記者の勉強に貢献するのも冒険者の仕事かもね。 


 熱意に押される形で、私は仕方なく話を始めることにした。


「こないだ討伐したのは、二足歩行猫ケットシーっていうんだ。人間みたいに立って歩く、猫型の魔物さ」


「ええっ! おとぎ話で読んだことあります! 伝説級の魔物じゃないですか!」


「まあ、おとぎ話は現実とはちょっと違うから……」


「プロっぽい発言ですねえ。おとぎ話では言葉をしゃべって服を着てました。やっぱりそんな感じですか?」


「ニャアしか言わないね。服は何も着てない。自前の毛皮だよ」


「普通の猫みたいですね」


「普通の猫みたいだよ」


「でも巨大なんでしょ?」


「普通の猫くらいだよ」


「……」


「……」


 私たちは無言で見つめ合った。


「でも知性持ちですから武器とか使ってくるんじゃないですか? 応戦に苦労したのでは?」


 メモリッタは気を取り直したようにペンを握る。


「まあ確かに、武器は使ってくるね」


「やっぱりヤバイじゃないですか……。おとぎ話みたいに剣とか弓矢とか使ってくるんですか?」


 メモリッタはごくりと唾を飲み込んだ。


「そこまでの知性はないんだ」


「へええ……。じゃあどんな武器を?」


「糞を投げてくるんだ」


「えっと、それは……。毒とか呪いのある糞ですか?」


「普通の糞だよ。当たると臭くて嫌な思いをする」


「……」


「……」


 私たちは無言で見つめ合った。


「でも被害者は何人も出たんですよね? その糞でたくさんの人が殺された?」


「誰も死んでないよ。二足歩行猫ケットシーが畑に糞をして困るから追い払ってくれって頼まれただけさ」


「それ本当に魔物ですか?」


「本当に魔物だよ」


「……」


「……」


 私たちは無言で見つめ合った。


「でもそんな危険な魔物を、極大火球投擲呪文ジャイガンティック・ファイアビットで消し炭にしてきた?」


「魔力が足りなくて魔法が使えなかったから、木酢液をまいて追い払ってきたよ」


「……」


「……」


 これだからさ……。話したくなかったんだよなぁ……。


「あの……。すいません、つまんないんですけど?」


「だから言っただろ! 私の話はつまんないんだよ!」


「なんで魔道士なのにそんなつまんない武勇伝を話すんですか?」


「あんたが話せって言ったからだろ!」


「でももっとすごい武勇伝だってあるはずじゃないですか」


「ないんだよ、私には。魔道士の能力が最低レベルだから、しょぼい仕事しかできないんだよ!」


「ええええぇぇぇ…………」


「魔道士にもいろいろいるんだよ。国防の要の聖者級のヤツから、私みたいな引退ギリギリのヤツまでね。どうだ、勉強になっただろ?」


「は、はぁぁあああ……」


 新人記者は目に見えて落胆してため息をついている。


「まあ、そういうことだ。これが私に出来る精一杯の話だよ」


「分かりました……。お話、ありがとうございました……」


 新人記者はすっかり肩を落とし、私の前から去って行った。


 彼女はこれから王国新聞の事務所に戻ったら、上司にどういう報告をするんだろうか。


 これじゃつまらない記事しか書けないじゃないか、って上司に怒られたりするのかな?


 でもまあ、それも人生。世の中そうそう面白い話なんか転がってないんだよね。


 いい勉強になったかな?




 それから数日後――。


 私の話がシャフトロニカ王国新聞に載った。


『恐怖の二足歩行猫ケットシー、討伐される!


 南方辺境の村を騒がせていた巨大二足歩行猫ケットシーが討伐された。名うての魔道士チエリー・ヴァニライズさんは語る。


「私は許せなかったのです。巨大二足歩行猫ケットシーは村人を1000人も食い殺したのです。私は村人たちの魂に捧げるつもりで、極大火球投擲呪文ジャイガンティック・ファイアビットを詠唱し、敵を消し炭にしました。抵抗は激しく、私も片腕を失いましたが、被害者の苦しみに比べればなんともありません。王国の平和は私が守るッ!」』




 なんだよこれぇぇぇぇぇ……! 一つも合ってねぇえええぇぇ!




 面白い話がなければ、


 新聞記者って怖いな、と思った。






 *****




 以上で私のつまらない話は終わりだ。


 これが第1話じゃなくて本当によかったと思う。




 *****




††† あとがき †††††††††††††††††††


 つまらない話を読んでくれてありがとう。


 私の話がちょっとでも気になったら――。


 フォロー、★評価、ハートの応援ボタン、なんでもいい、押してみて欲しい。


 そうすると、私の魔力が増える・・・・・・・・


 投げ魔力っていうんだけどね。その仕組みについても追々語っていきたいな――。


 (★を押す用のページ)

 https://kakuyomu.jp/works/16817139556809362097/reviews


††††††††††††††††††††††††††††

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