エピソード2 モコッチ村の天然エルフ

第17話★その後のギルドマスター


(チエリーさんのイラストその2)

https://kakuyomu.jp/users/fuwafuwaso/news/16817330650932022908



   *****

 



 魔法予備校の生徒たちの話は、ひとまずここで終わりだ。


 そしてここから先は、彼女たちと戦う運命にある、もう一人の少女の話だ。


 魔道士を目指す者は不思議なもので、たいてい人生のどこかで魔道士に会っていたりするらしい。


 騎士に救われた人が騎士を目指すように。


 母を敬う者が母を目指すように。


 魔道士に影響を受けて魔道士を目指す者が少なくはない。


 私のような底辺魔道士でも、人に影響は与えるらしい。


 というわけで――。


 私はとある依頼を通じて、魔法予備校の生徒たちのライバルを育てることになる――。




   *****




 魔法予備校での依頼を終え、久しぶりに王都に戻ると、身の回りでいろいろな変化があった。


 ギルドからは登録抹消された身なので、新しいギルドに移籍しなくちゃいけない。


 で、新しいギルドを探すには、どうしても前のギルドのある街路を通る必要があったので、私は王都の街路をこそこそ歩いていた。


 自分を追放したギルドマスターとか、もう会いたくないよね。


 なるべくギルドの方向を見ないように、足早に行く。


 しかし――。


 あのなじみの受付嬢はどうしてるかなーと気になって、ふとギルドに目を向けると――。


『売り物件』


 そんな看板が出ていて、ギルドの扉は封鎖されていた。


 えっ?


 何?


 ここつぶれたの……?


「チエリーさんッ! 帰ってきたんですねっ!」


 懐かしい声が聞こえた。


 振り返ると、私を窮地から救ってくれたあの受付嬢が、雑踏の中で手を振っていた。


「おお~帰ってきたよ! 久しいね! おかげで家賃払えたよ!」


 言いながら駆け寄った。


「よかったです~! チエリーさんすごい仕事したみたいですね!」


「ええ~何? どこから聞いたの? どこ情報?」


「秘密です秘密!」


「アハハハハハッ!」


「うふふふふっ!」


 私たちは久々の再会に、手を合わせてぴょんこぴょんこした。




 近くの喫茶店でハーブティーを飲みながら話をした。


「えっ、じゃあ私のせいでギルドつぶれたのか!?」


「チエリーさんのせいってわけではないです。あくまでも悪事がバレたきっかけです」


「悪事? ギルドマスターなんかやらかしてたの?」


「お金の使い込みです。依頼人からの預かり金や、冒険者に支払う報酬を、賭け事で溶かしてたのがバレちゃって……。馬上槍試合に全部突っ込んでいたようです」


「ああ~~最低。だめだってそれ」


「ですよね。自業自得です」


 受付嬢はぷんぷんだった。


 冒険者と依頼人のお金のやりとりは、冒険者が直接依頼人から受け取る場合と、ギルドを介して受け取る場合の2通りがある。その後者の方のお金をギルドマスターは使い込みしていたらしい。


「で、それが私と何の関係があるんだ?」


「チエリーさんの悪口を吹聴したせいでバレたんです」


「ふ、ふうん……? 悪口言ってたの?」


「『底辺魔道士を追放してやったぜ!』って酒場で自慢してたんです。魔道士はレア職業ですから。そんな人を怒鳴りつけて追放出来るほどおれはすごいんだぞ、って言いたかったみたいです。どうやってチエリーさんを泣かせたかとか得意げにしゃべってましたよ。食べかけのパンを奪い取って食ってやったとか」


「なんか血圧上がってきたんだが」


「大丈夫です、すぐ下がりますから」


「下げてくれ、早く」


「最初のうちは余所のギルドマスターにも一目置かれてたんです。『やはり経営判断は必要か~』『これからは”追放”だな!』とか。あやうく追放ブームが来そうだったんですが、すぐにチエリーさんの偉業が伝わってきて、評価は一変しましたよ。『聖者級の魔道士の力も見抜けない、能なしギルドマスター』と言われて、すごい呆れられてました」


「ふう、血圧下がってきた……」


「それで変に注目浴びちゃったもんですから、経営手腕に疑問を持たれて。登録してる冒険者たちが、未払いの報酬金を一斉に請求したんです。そしたらお金がないことが判明して――」


「使い込みがバレたってわけか……」


「大騒ぎだったんですよ。ホント、大変だったんですから。悪いことはするもんじゃないです」


 受付嬢は苦笑しながらハーブティーを飲んだ。


「そっか~。ちょっと離れてる間に色々あったんだなぁ」


 私はため息を吐いた。 


「ありましたよ~。私もギルドの整理で大忙しだったし。何もかも売り払って、なんとか報酬金の支払いはできました」


「それでギルドマスターはどうしてるの?」


「自分の性格と人生を見つめ直したい、って言って、頭を丸めて修道士になって巡礼の旅に出ました」


「やること極端だなあ。何もかも極端な人だ」


「それくらいしたほうがいいです。心を洗って澄んだ瞳になって帰ってくればいいんです」


 受付嬢はぴしゃりと言い放つ。


「ははっ、そうだな。ギルドマスターにも幸あれかしだ……」


 私は苦笑した。


 ひどい目に遭ったのは事実だが、世話になった事実もあるので、なんだか憎みきれない部分がある。


 窓の向こうを眺めた。


 街路には様々な身なりの人が歩いている。粗末な服の人もいれば高貴な服の人もいる。


 王都の住人もいれば遠方からの旅人もいる。北方の人、南方の人、獣人ライカンの末裔、エルフの末裔。


 王都に入ってくる人、出て行く人、再会する人……。


 街角は人生が編み込まれた織物のようだと思った。




 ちなみに移籍するギルドは、によってもたらされた――。




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