第16話 しっぽを巻く

 ドドドドド……ドドドド………ドドド………!


 ド……ドド………。


 ド……ド……。


 地響きに揺られながら窪地から退避する。


 12人の生徒たちはお互いを支え合い、あるいは意識のないものを引きずりながら、やっとのことで坂の頂上までたどり着いた。


 私たちは巨大歩きキノコボス・マイコニドを振り返る。


 ………………………。


 静かだった。


 地響きも止まっている。


 石化の魔法は魔物の全身を覆い尽くし、すべての自由を奪っていた。 


 青空を背景に、巨大歩きキノコボス・マイコニドはもとと同じ岩山のようにたたずんでいた。


 封印は成功したのだ。


「ふうっ……」


 私は安堵の息を吐いた。


「みんな無事か――?」


 生徒たちに問いかける。


「なんとかなァ……。なんとか生きてるぜェ……」


 ウルミが木剣を杖代わりにしながら言った。


「びっくりしたの……。気がついたら先生に引きずられてたし……」


 シバリンは草の上にへたり込んで、ぐしぐしと目をこすってる。


「ふわああああ……」


 そして、あくびをする。


 生徒たちの様子を見ると、どうやらあのガスは眠りの状態異常を引き起こすものだったらしい。


 皆そこら中で転がって、あくびをしたり仲間を揺さぶったりしている。


「わたくし、まだ眠いですわ……」「私もです、ふわああ……」「私は段々目が覚めてきたよ」「こいつまだ寝てるぞォ。おい、起きろっ」「んふぁあああ……。何……?」「うう――ん……」


 ともあれ、致命的なガスではなかったようで助かった。


「しかし聖地をだいぶ荒らしちゃったなぁ……」


 私はもう一度巨大歩きキノコボス・マイコニドを振り返る。


 地面は波打ってボコボコだし、根っこの形も変わり、目玉は開いたまま石になっている。幹の部分も石化を破ろうと暴れた形のままで固まってる。彫像に例えると、だいぶ躍動感が出た感じだ。


 巡礼者が見たらびっくりするぞこれ。


 私がやったのがバレたら精霊教会に怒られそうだな……。


 生徒たちに口止めしておくか?


 いや、再封印したことを教会に伝えないといけないから、隠しておくわけにはいかなそうだな。


 聖地荒らしの罪で、魔道士資格取り上げられたりしないよね?


 それとも逆に、再封印を評価されて意外と褒められたりするかな?


 うう~~ん……。


 底辺魔道士の発想がしみついているので、どういう評価がされるのか見当もつかなかった。




 皆の回復を待ってから、私たちは聖地を後にして帰路についた。


 森を行く私の周りを、生徒たちは初めは遠慮気味に遠巻きに、次第に取り囲むようについてくる。


 ウルミはすっかりしおらしくなっていた。


「あんたァ……。ずりいなァ……。本気ィ隠してただろォ……?」


「言ったろ? 私は強いって」


 と私は強がっておく。


 本当は偶然なんだけどね……。精霊にこれだけ応援をしてもらうことは、一生に一度あるかないかくらいだろう。


 でも、これからの指導のこともあるからね、強いってことにしておかないと、言うこと聞いてもらえないからね。


「たまンねえなァ……」


 ウルミは文字通り尻尾を丸めて、股の間に挟み込んでいた。


 生徒たちはワイワイと話しかけてくる。


「先生、助けてくれてありがとうございます!」


「シバリンもありがとうなの!」


「わたくしも感謝いたしますわっ!」


「先生は聖者級の力があるのですねッ!」


「こんな強いなんて聞いてない! 騙されたよォ~」


「先生を試してると思ったら、試されていたのは私たちの方だったんだよ!」


「そういうことかぁ~~!」


「先生、すいませんでした!」


「今までの無礼を許して下さいッ!」


「先生はよォ……、オレたちのこと絶対いい魔道士になるって言ってたぜェ……」


 ウルミが言った。


「ホントに!?」


「わたくしも聞きました! 意識が飛びそうになってたけど、その言葉で踏ん張れましたわ!」


「ううっ、あんなに失礼なこと言ったのに。マジで聖者じゃないか!」


「先生、一生ついていきますッ!」


「先生、サイン下さい!」


「先生、かけ算を教えて欲しいの!」


「先生!」


「先生!」


「「「「「「「先生ッッ!」」」」」」


 みんないい子になってしまった。


 力こそ全ての荒くれたちは、態度の変わりっぷりが分かりやすすぎる。


 ちょっと前まで誰も言うこと聞いてくれなくて孤独だったのに、あっという間に身の回りが騒々しくなってしまった。


 生徒たちは我先に私のそばに来て、やたらぺたぺたと触ってくる。


 御利益にあやかろうと、ファンが触れ合いを求めてくる様子に似ていた。


 やれやれ……。私は格闘家じゃないんだが?


 精霊に授かった膨大な魔力は使い果たし、私はもとの魔力欠乏気味の底辺魔道士に戻ってしまった。


 でも、生徒たちが私を見る目は変わった。


 その評価が間違いだったってならないように、がんばらないといけないな。


 そして、精霊が私を見る目も少しだけ変わった気がする。


 こうして森を行く私の瞳には、時々光の文字が走る。


 あれだけ頼んでももらえなかった投げ魔力が、ちらほらと降ってくるのだ。


 精霊たちの賞賛らしい。


『イイネ! 魔力:+300』『善き哉。魔力:+500』『出遅れた! 魔力:+100』『今来た! 魔力:+100』『いい戦いだった! 魔力:+1000』『またがんばれ! 魔力:+500』『がんばったでちね。魔力:+10000』『チエリー応援! 魔力:+700』 


 引退が頭にちらついていた私だけど。


 もうしばらくはやっていけるかもしれない――。





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 私の話を読んでくれてありがとう。


 もし、あなたも投げ魔力スパチャリオンを送ってみたいと思ったら――。


 ★評価、フォロー、ハートの応援ボタン、なんでもいい、押してみて欲しい。


 その一つ一つが私に届き、魔力となって――。


 次の依頼への力となる――。


 (★を押す用のページ)

 https://kakuyomu.jp/works/16817139556809362097/reviews


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