プリモへの里帰り

第135話 プリモはどんな町

 ハルトの故郷、プリモへと向かう道中でハルトとループスは歩きながら語らっていた。


 「お前の生まれ故郷、プリモって言ったっけか。何があるんだ?」

 「えー、特に何もなかったぞ」


 ループスにプリモについて尋ねられたハルトはありのままに答えた。彼女の記憶の中には特にこれといって特筆できるようなものがなかったのである。


 「何もないなんてことはないだろう」

 「いや、本当に何もない。強いて言うならいろんなところに畑があるぐらいだったな」

 「あるじゃん」


 ハルトの記憶の中のプリモにはいたるところに畑があった。つまりのところは農業の町なのである。それを思い出したハルトの中にとある懸念が浮かんだ。


 「あー、俺たちこの格好はちょっとまずいかもしれんな」

 「というと?」

 「プリモには牧場もあるんだけどさ、そこの関係者が狐とか狼のことをかなり嫌ってる」


 プリモにはそれなりの規模の牧場がある。牛や羊を家畜として飼育している牧場関係者からすればそれらを獲物として狙ってくる野生の肉食動物はかなりの厄介者であった。


 「それはまずいな」

 「だろ?お前は犬ってことにしとけばなんとかならなくもないだろうけど、俺は隠しようがないからな」

 「お前今さらっと俺のこと犬って言ったろ」


 ループスはハルトが話の中で自分を犬扱いしたのを聞き逃さなかった。彼女は犬扱いされることを嫌う性分である。例えハルトが相手であろうと例外ではない。


 「あ、悪い」

 「それはそれとして、なにか対策はないのか?」

 「無理だな。耳はともかく、尻尾が隠せない」


 ハルトはそう語りながら背後でゆらゆらと揺れる自身の尻尾へと目を遣った。単純な質量がとても大きい彼女の尻尾を見えないように覆い隠すことは不可能である。そう考えるとループスはハルトの言い分に納得することができた。


 「どうにかして受け入れてもらえるのを信じるしかないな」

 「だな」


 二人は半ば諦め状態であった。しかし、農牧業の従事者の目を避けることができればある程度はその問題を回避することは可能であった。


 「そういえばプリモまであとどれぐらい歩けば着けるんだ?」

 「ざっと見積もってあと三日ぐらいってところだな」

 「そうか、なら今のうちにちょっとやっておきたいことがある」


 ハルトはふとした用事を思いついた。それは疎遠となっていた両親に帰省の旨を伝える手紙を出すことである。

 学校を抜け出したあの日以来、両親とは一度も連絡を取っていない。しかしそれは両者の仲が悪くなったからではなく、ハルトが一方的に遠慮をしていたからであった。


 「これをプリモの町にいるセシル・アイムのところへ届けてくれ」


 道中で立ち寄った小さな町の郵便屋にてハルトは一通の手紙を出した。セシルはハルトの父親の名前である。

 『数日以内にプリモの町に帰ってきます。友達を一人連れていく予定です。

 アルバス・アイムより』


 アルバス・アイム。久しく名乗ることもなく、本人も一瞬忘れかけていたハルトの本来の名であった。


 

 「俺がアルバスだって信じてもらえるかな……」


 手紙を送ったハルトは近い未来に対して一抹の不安を抱えていた。それは今の自分のことを両親がアルバス・アイムだと信じてもらえるかどうかに対するものであった。

 しかし、そんな不安も数日後にはきれいさっぱり忘れ去ることになるとはこの時のハルトは思いもしなかったのであった。

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