ガールズミッション~オールE評価の落ちこぼれスパイが挑む超級ミッション~

氷堂

001 プロローグ

「よせ!! ミラーラァ!!」


 傷だらけの男は叫んだ。

 伸ばした手の先にいる女は、ニィと歯を剥いて見せた。

 瑠璃色の長髪を揺らした、凛々しさの薫る戦乙女のような女だ。


「私はここに残る。今のうちにお前だけでも逃げろ」


 男が掴んだのは彼女の手ではなく、一つの首飾りだった。

 大気燃え灰燼かいじん散る、鉄風雷火てっぷうらいかの中にあっても青白い輝きが美しい月光を閉じ込めた宝石。


 ブルームーンストーンをあしらった首飾り。彼女、ミラーラのトレードマークを掴んでいた。


「幸運のお守りだ。お前に預ける」


 忙しない機械音と共に脱出ポッドの扉が閉まり始める。


「ダメだ!! 生きるべきは俺なんかよりアンタなんだ!! 師匠ぉ!!」


「なんか、なんて言うな。大嫌いなんだその言葉」


 狭まってゆく視界の中でミラーラは背を向けた。

 爆炎に向かう彼女は弟子の叫びに応じない。


「心配しなくても大丈夫だ。私は昔からすこぶる運がいいからな。知ってるだろ?」


 脇の制御盤を叩いて、そして振り返った。


「元気でな、メア。お前に幸運があらんことを――」


 優しげな表情を浮かべた瞬間、男を乗せたポッドは夜空に放り出された。

 聞くも堪えない男の悲鳴は、力なく暗い海に落ちていったのだった。

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