第110話 クリスマスデート
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liVeKROne【公式】@liVeKROne_official
#黒惟まお #リーゼ・クラウゼ
両名のクリスマスボイス発売開始!
魔王様や魔王見習いと一緒にクリスマスを過ごしませんか?
感想は #liVeKROneクリスマスボイス で!
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『良かった……掛け値なしに』
『ネタバレ出来ないから詳しくは言えないが幸せになれるぞ』
『リーゼちゃん初ボイスとは思えないくらいのクオリティ』
『当日まで我慢……我慢……』
『まお様……好き』
電車に揺られながら販売が開始されたクリスマスボイスの感想に目を通していく。リーゼ・クラウゼとして初めてのボイス作品、ひとまずは好評のようで一安心する。今回、台本も誰にお願いすればいいのかもわからずマネージャーやまお様からも誰か紹介しようかと言われたのだが結局自身で考えたのだ。マネージャーに色々とアドバイスを受けたり収録する際に言い回しなんかの微調整に協力してくれたスタッフには感謝しかない。
ちなみにまお様も協力しようかと手を挙げてくれたのだが……、恥ずかしかったのときちんと完成したものを最初に聞いてもらいたくてお断りしてしまっている。「すっかり立派になって……」と少しだけ寂しそうに笑う彼女には随分と心揺さぶられたがこればっかりは譲れないのだ。
といっても、完成したボイスをまお様が聞いてくれるかは未知数であるしこちらから聞いて欲しいと送り付けるのも気が引ける。恥ずかしいけどちゃんと聞いて欲しいなんて我ながら面倒くさい願望を持ってしまっているなと呆れてしまうがコレはコレ、ソレはソレだ。
そして、当然まお様のクリスマスボイスはきちんと購入済みである。ここが自宅であったなら今すぐにでもイヤホンを装着し彼女と二人きりのボイス空間へと旅立って行っただろう。まぁ収録内容は聞かされていないので、どんな感じかは非常に気になるところであるのだが……。
少しだけ聞いてしまおうか……。いや、甘くとろけるような優しくて……そんな中にも少しだけビターなまお様の魔王ボイスを公衆の面前で聞くというのは危険すぎる。ここはやはりきちんと自室に帰ってからきちんと身を清め、万が一倒れてしまっても大丈夫なようにソファーかベッドの上で聞くべきだろう。もちろん傍らにはSILENT先生描き下ろし黒惟まお抱き枕を用意することを忘れてはいけない。
そんなとりとめのない事を考えているうちに電車が止まり目的の駅についていたことをアナウンスによって知る。平日の帰宅ラッシュというものにはまだ少し早いくらいの時間、乗客もそれほどいなかったのですんなり降りることが出来たがもう少しで乗り過ごすところだった。
今日はレッスンの後、事務所に立ち寄ってから帰宅する予定ではあったのだがたまたま出会ったマネージャーから、まお様のスケジュールが不意に空いてしまった事を聞かされ急遽連絡を取り待ち合わせをしているのだ。先に待っていてくれているはずの彼女を待たせる訳にはいかない。
すっかりクリスマスムードな駅構内を抜け、待ち合わせをしている人々が立ち並ぶちょっとした広場に出て軽くあたりを見回すと目当ての人はすぐに見つかった。
「すいません、お待たせいたしましたっ……」
「ううん、全然待ってないよ。おつかれさま」
自然と速足になってまお様の元へと向かうと彼女もこちらの姿が目に入ったようで笑顔で出迎えてくれる。すっきりとしたシルエットのチェスターコートを羽織ったパンツスタイルの彼女はいつにも増して大人っぽく、ダッフルコートにフレアスカートで横に並ぶと子供っぽく見えすぎていないか少しだけ心配になってしまう。
「ありがとうございます、急なお誘いになってしまいましたが……大丈夫でした?」
「こっちも急に予定空いちゃったからさ何も無かったら帰るだけだったし、わざわざこっちまで来たってことはどこか行きたいところでもあるの?」
「はい、そのこちらでクリスマスマーケットをやっていると聞きまして……お時間があるならご一緒したいなと」
「あぁ、なるほど。そういえば本場はドイツだったね」
告げた言葉に納得したように頷くまお様。そう、クリスマスマーケットといえばドイツで広く行われている
「明日と明後日はお互い配信がありますし……その次はライブですから」
「お互いスケジュールキッツキツだもんねぇ。じゃあ今日は二日早いクリスマスデートしよっか?」
「はいっ」
アハハとここ最近とこの先のスケジュールを思い浮かべたらしいまお様が乾いた笑い声を漏らしてから、エスコートしてくれるようにこちらに手を差し伸べてくれる。自然とこういうことをしてくるのがまお様らしいというか……、誘ったのはこちら側であるのだが告げられた言葉に心が高鳴り手を重ねる。
「そういえばこうやって二人でデートするのってあの時以来じゃない?」
「あの時……、そうですね」
「まさか、一緒に活動する同期になるなんてねぇ……」
クリスマスマーケットをやっている場所までは駅から少し歩かなければいけないので手を繋ぎながら人の流れに沿って歩いていく。たしかあの時は実際に出会ってからそれほど経っていない頃でリーゼさんと呼ばれていたのだ。思えばあの日、様付けを禁止されたことによってリーゼと呼んでもらえるようになりそれが今日まで続いている。昔を懐かしむように語るまお様であるが、あの時には共にVtuberとして活動することを決意していたと思う。
「今日もおねーちゃんと呼んだ方がいいですか?」
「ふふっ、よく覚えてたね。それもいいけど……、
記憶の中にあったやりとりを思い出しからかうように告げると、返ってきた言葉にドキリとする。その名はまお様の本名であり、耳にしたのは彼女とマリーナのやりとり中で数度聞いた程度くらいのものだ。
「いいんですか……?その、音羽って……」
「まぁ一応ね?あっちはわりとありふれた名前だし、誤魔化しようは沢山あるんだけど。リ……貴女と一緒に居る時は気を付けたほうがいいかなって。うーん……しかしそうなると何て呼べばいいのかな?」
たしかにまおという名は日本人であれば珍しくはない名前であるし、普段のまお様……音羽と黒惟まおとではその姿や声色、口調はよほどのファンでなければ結びつかないだろう。しかし、リーゼ・クラウゼたるわたくし……エリーザベト・フォン・クラウヴィッツは明らかにこの国において少数派である容姿の持ち主として人の目を引くことも多く、そんなわたくしが多くの人前で音羽をまお様と呼んでしまうのは避けた方がいいだろう。
「では、エリーとお呼びください」
「わかったよエリー」
あまりに安直だし、略称について詳しい人間が聞けばすぐにリーゼとエリーの関連性に気が付くであろうが、何かまずい事が起きても魔力による認識阻害や暗示などで誤魔化すことはいくらでもできる。だけどせっかく特別な呼び名で呼んでもらう機会なので活用しない手はない。
お店の照明や街頭が照らす道を進んでいくうちにひときわ明るいイルミネーションたちが姿を現す。ついついいつものように呼んでしまいそうになるがぐっとこらえて、内心少し緊張しながら相手の名前を口にする。
「あっ、ま……音羽。あれがそうですか?」
「うん、たしかそのはずだよ。ちゃんと見たことは無かったけど結構大々的にやってたんだねぇ」
さすがに故郷で見たマーケットほどの規模ではないがそれでも煌びやかなイルミネーションに飾られた景色というのは懐かしくも感じる。魔王であるお父様は人間界の催しに興味はなさそうであったがマリーナの影響を受けたお母様はこのような催しと場所を好んでいたのでよく連れてきてくれていたのだ。
木造の小屋を模した出店が立ち並んでいて店先にはクリスマスツリー用のオーナメントだったりリース、キャンドルなどといった雑貨が並び、ホットチョコやグリューワイン、ビールなどの飲み物、ソーセージとフライドポテトの盛り合わせやビーフシチューなどの煮込み料理がいい匂いを漂わせている。
「
「えっとごめんたぶんドイツ語なんだろうけど……私にはさっぱり」
出店の中を歩いていくと目に入る物がどれも普段こちらでは見かける物ではなくてテンションが上がっていく。特に食べ物なんかは顕著で思わず音羽に向かってまくし立ててしまい、さっぱり何のことかわからないといった様子の彼女は微笑ましそうにこちらを見ながら微苦笑を浮かべている。
「あっすいません……あまりこちらで見かけないものが多くて、ええっと。あれがライプクーヘンで……」
「ふふっ、全部食べ物じゃない。お腹空いてるの?」
ひとつひとつを日本語で言い直したり、どんな食べ物かを説明していると今度は可笑しそうに笑い声を漏らした音羽から突っ込まれてしまう。
「えっ、あっその……雑貨はこちらでも見かける物が多かったので……でもお腹も少し……」
言い訳がましく挙げていったものたちがすべて食べ物であったことを説明してみるが、実際店先から漂ってくる匂いによって空腹が刺激されている事は確かなのだ。時間的にもおかしいことはない……はず。
「じゃあ、色々食べていこっか。オススメ教えて欲しいな」
「任せてください!」
流石に二人であってもここに立ち並ぶお店の料理すべてを制覇することはできないので、とりあえずは特におすすめの物を二人で分け合って食べることにする。
「やっぱりライプクーヘンは外せません!揚げたてをどうぞ!」
「……っ、はふっ。……あっ美味しい。このソース?もしかしてリンゴ?」
「そうです、あんまり甘くなくて合いますよね?」
「うん、ソースでさっぱりしていくらでも食べれちゃいそう、はいエリーも。あーん」
すりおろしたジャガイモを薄めに伸ばして揚げたライプクーヘンはクリスマスマーケットの大定番といっていい。寒空の中揚げたてを食べるのが醍醐味なのだ。ソースとして添えられているリンゴのムースも甘さ控えめでほんのり甘酸っぱく脂っぽさを中和してくれる。音羽も気に入ってくれたようで、上機嫌でこちらにソースをつけたライプクーヘンを差し出してくる。
「えっと……あ、あーん……」
「おいしい?」
「……おいしいです」
「んー?あんなにテンション上がってたのに意外と普通だね?」
そんなの音羽にあーんされたうえに、二人でひとつの物を食べているのだ……。それはつまり彼女が口をつけたものを食べているという訳で……。正直久しぶりに食べたライプクーヘンの味を気にする余裕なんて消え失せている。
「そ、そんなことないですよ?……。飲み物はどうしますか?マーケットといえばグリューワインなんですが、帰ったら配信ですよね?」
「さすがに酔っ払って配信はねぇ……。晩酌配信だってやる前から酔ってるのはどうかと思うし、ココアとかホットチョコにしとこうか」
たしかに残念だがこればかりは仕方ない。というか、アルコールにとても弱い音羽にこの場で飲ませてしまっては帰ってから配信ができるか怪しくもあるのだ。
「へぇ、マグカップもらえるんだって」
「そうですね、向こうだと気に入ったものはそのまま貰えてカップを返したらカップ代が返ってきますよ」
マーケットで飲むグリューワインなんかはマグカップで提供されるが、注文したときにまず飲み物代とカップ代を支払いカップを返すとカップ代が返ってくるような仕組みが一般的だ。もしもカップを気に入った場合はそのまま持ち帰ってもいいしカップだけ購入なんてことも出来たりする。これがお店ごとに色んなデザインがあったり開催した年の刻印なんかが入っていたりするので毎年大量のマグカップを持ち帰る人もいるとか。
「ここはカップは返せないけど他のお店でもこのカップで飲み物代だけで飲めるみたい」
「なるほど、そういう仕組みですか」
「といってもそんなには飲めないかなぁ、はいどうぞ」
「……ありがとうございます」
たしかにアルコールがダメとなると選べるのはホットチョコかココアくらいのように見える、どちらもとても濃厚で甘いだろうから二人で二杯くらいが限度だろう。そんなことを考えながら差し出されたマグカップを受け取り口を付ける。もうさっきのことがあったので今更同じカップで飲み物を飲むなんてことに動揺は見せない。といっても口をつける位置はしっかり反対側にしているしさっきからアルコールをとっていないのにドキドキと胸の高鳴りがなかなか治まってくれない。
そんな中、口にしたホットチョコは今まで飲んできたホットチョコの中で一番甘かった。
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