第50話 祝収益化!

「リーゼさん、収益化の申請通りましたけど解禁はいつにしますか?」

「収益化……ですか?」

「はい」

「えーっと……」


 そんなやりとりから始まったとある日の打ち合わせ。突然告げられた言葉に一瞬何のことだかわからないといった風に首を傾げてしまう。しかし企業所属Vtuberとしてデビューしているのだ、いくら身内が運営している事務所とはいえ遊びでやっている訳ではない。主な目的が魔王継承のためとはいえ収益化するのは当然だろう。


 特にこだわりもなかったので思い立ったが吉日、リスナーのみんなにお知らせしなければと告知をSNSで行う。そんな様子を見ていたマネージャーさんからはため息交じりに優しい眼差しを向けられてしまっていたのだが、すでに頭の中は配信の事でいっぱいだ。


「さすが姉妹ですね、配信のことになるとよく似てます」

「へ?」


 からかうような声色で告げられた言葉に思わず変な反応をしてしまったが……。姉妹というと同じSILENT先生を親に持つまお様との事だというのは流石にわかる。

 それでも姉妹と言われ悪い気はしないし、むしろ嬉しく感じてしまっている。そうと知られれば更にからかわれてしまうだろうといたって平静を装っていたのだが、相変わらずこちらを見る彼女の視線が変わらないあたりマネージャーというものはよく見ているのだなと感心してしまった。


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リーゼ・クラウゼ@liVeKROneライブクローネ/うたみた出しました! @Liese_Krause

今夜は雑談とマシュマロをいただきます!

皆様の応援のおかげでいよいよアレが解禁です!

色々なことがあったのでお話しながらお祝いしましょう!

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【マシュマロ雑談】ついに解禁!?お話しましょう!【リーゼ・クラウゼ/liVeKROne】


 :待機

 :待機ーゼ

 :いったい何が解禁なんだ……

 :いったい何益化なんだ……

 :しゅ……しゅ……


 いちおう告知でも配信タイトルでもボカしてはいたのだが、コメントを見る限り解禁内容は丸わかりのようだ。たしかに期間といい言い回しといいそれしか考えられないのでノリに付き合ってくれているだけありがたい。


「今日もわたくしを応援してくれますか?liVeKROne所属魔王見習いのリーゼ・クラウゼです。聞こえていますでしょうか?」


 :聞こえてるよー

 :はじまリーゼ!

 :応援するよー!

 :はじまリーゼー


「ありがとうございます。はじまリーゼー」


 この「はじまリーゼ」という挨拶にも随分慣れてきたなと感じる。まだ少しは照れるのだが、配信を始めて自己紹介からのレスポンスと挨拶という一連の流れに居心地の良さのようなものを感じている。


「それでは皆様にお知らせ……、まぁお察しだとは思いますが早速収益化解禁いたします!」


 :お

 :早速

 :来るのか!?

 :イッタイナニガクルンダー???

 :きちゃ!!


「えーっと……、これはこのまま待っていればいいんでしょうか……?マネージャー?」


 予定では宣言と共に配信を見てくれているマネージャーの手によって解禁される予定ではあるのだが、配信しているこちらとしてはタイミングがわからない。


 :草

 :マネちゃーん!

 :スタッフゥー!!


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 ¥200

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 ¥2,000

 おめでとう!

──────────────────

 ¥500

 収益化おめでとうございます!

──────────────────

 黒惟まお【魔王様ch】

 ¥10,000

 おめでとう

──────────────────

 ¥2,000

 投げとけ

──────────────────

 ¥10,000

 リーゼちゃんおめでとう!

──────────────────

 ¥500

 お祝いじゃー!!

──────────────────

 SILENT

 ¥11,000

──────────────────


 :おっ

 :きちゃ!!

 :おめでとー!

 :しれっとまお様いて草

 :草

 :まお様もよう投げとる

 :まお様もSILENT先生もよう見とる

 :対抗してて草


 ひとつが流れ始めるとすごい勢いでコメント欄が色とりどりに彩られていく。


「皆様、こんなにお祝いを……。ありがとうございます!!」


 配信を見ていれば何度も見るようなそんな光景、だが今回はすべて自分に向けて送られているものなのだ。いったいどんな気持ちなんだろうと思っていたが、月並みな言葉ではあるがすごく嬉しいとそう表す他ない。


「えっ?まお様にSILENT先生も!?」


 どんどんと流れていくコメント欄を眺めているとちらほらまお様とSILENT先生という単語が目につく。見逃してしまったようだが二人ともしっかり配信を見てくれている上にスーパーチャットまで送ってくれたらしい。ログを確認してみればまお様に対抗して上乗せしているあたり得意げに笑っている姿が脳裏に浮かんでくる。


「お二人は本当に仲良しですね。皆様の応援に応えられるようこれからもますます頑張りますね」


 :てぇてぇ

 :スパチャでいちゃつかないでもろて

 :これからも応援するね

 :期待してる!


「では、無事解禁できましたし。まずは最近の事柄についてお話しましょうか……まずはやはりラジオクローネでしょうか」


 :ラジオ良かったよー

 :面白かった

 :はじめてのカレーについて聞きたい

 :裏話聞きたいなー

 :生歌もうたみたも最高だった


 ラジオクローネについてといってもコメント欄を見れば話題はそれこそ拾いきれないほど出てきている。それだけあの一日は濃かったなぁと少しだけ思いを馳せすぐにコメントへと意識を戻す。


「そうですね、時系列でいうとまずはカレーでしょうか、そのお恥ずかしい話ではあるのですがまともに料理したのはあれが初めてだったのです」


 :ま?

 :学校とかは?

 :流石お姫様

 :よく作れたね


「まお様にも驚かれてしまいましたね。学校はわたくし家庭教師でしたので学ぶ機会もなく……。ですがまお様がひとつひとつ丁寧に教えてくださったので無事美味しく作ることが出来ました」


 :まじでお姫様じゃん

 :まじで食べたかった

 :さすまお

 :まお様家事スキル高いからなぁ


「わたくしがカレーを作った後に余った材料や追加の食材で沢山作り置きを作っていただけて、その時の手際は本当にすごかったです。気付いたら何品も出来ていて」


 :完全に餌付けされておる

 :胃袋掌握されてるじゃん

 :付け合わせだけじゃなかったのか

 :まじでいいお嫁さんじゃん


「いいお嫁さんなんて……、わたくしにはもったいないですし。それにどちらかというとまお様は旦那様にしたいといいますか……」


 :わかる

 :いーやお嫁さんだね

 :まおは俺の嫁

 :本人には言わないけどほんといい女だよね

 :結婚前提で草


 まお様がお嫁さん……。どうしても旦那様というイメージが強かったのだが言われてみれば悪くない……。家に帰れば温かで美味しい料理と共に出迎えてくれて家事は完璧で、意外と押しに弱いまお様を夫であるわたくしがリードしてあげる……。なるほど、リスナーの言うことももっともだ。


 :リーゼちゃん?

 :あかんトリップしてる

 :おーい

 :草

 :ほんとまお様のことになると……


「あっ、その申し訳ありません。想像の翼を広げてしまっていました」


 :草

 :言い方お上品で草

 :×想像 〇妄想

 :妄想では……?


 軽く放送事故になりかけたところで意識は妄想の世界から帰ってくる。いけない、いまは配信中なのだ。ん?配信なのだから放送事故ではなくて配信事故では?なんてどうでもいいことまで考えてしまう頭を切り替えて新たな話題へと移っていく。


「ラジオクローネの裏話……ですか。何かあったでしょうか……」


 :終わった後の話とか

 :次回の予定とか?

 :お便り届いてる?

 :企画は一人で考えたの?


「ラジオ企画自体はわたくしが主体でしたがまお様にもたくさん助けていただきましたし事務所のサポートあってのものですね。次回はまお様当番回なので更に面白くなると思いますよ?」


 :ほう

 :なるほど

 :ハードル上げるやん


「お便りですが、まおにゃん対策本部宛が思った以上に偏っていて……是非他のコーナーにもいただければと……」


 :草

 :それは草

 :俺も送ったわ

 :了解!

 :需要ありすぎたか


 現状軽くチェックしただけで全体の半分以上はまおにゃん絡みだったのだ。たきつけた本人としてはまお様の視線が怖くてしかたない。逆にそれだけ求められているという説得力は増すのだが……。


「終わった後は皆様ご存じの通り、一緒にうたみた動画のプレミア公開を見て……」


 :そういえば泣いちゃったんだって?

 :イチャイチャした?

 :結構遅い時間だったけど泊っていったの?


「なっ、泣いたというのはどこから?」


 :まお様が言ってた

 :配信で言ってた

 :あっ


「もうっ、秘密にして……とは言わなかったわたくしの落ち度ですか……、その少しですよ?緊張の糸が切れてしまって……」


 :かわいい

 :きゃわ

 :よしよし

 :がんばったもんね

 :代わりにまお様情報出しちゃえ


 泣いてしまったというのはどうにも子供っぽくてリスナーに知られてしまっていたというのは恥ずかしい……。まお様も秘密にしておいてくれればいいのに……あとでまだ見れていないアーカイブをチェックしなければ。代わりに何か……それこそ抱き枕の件を……とも思ったが、さすがにこの話をしてしまったらガチ目に怒られる未来しか見えない。何だかんだ許してくれそうなのもまお様ではあるのだが。


「まお様は泊っていかれましたよ、お泊りについては何か言っていましたか?」


 :ジェラケピに感動したって言ってたかな

 :ジェラケピ用意してくれてたって

 :いい部屋だってめっちゃ褒めてた


 コメントを見る限り一緒に寝たことや抱き枕の件は話していないようだがどこまで話していいものやら……。


「ジェラケピはまお様にプレゼントいたしました。とてもお似合いでしたよ?」


 :見たかった……

 :見たい……

 :リーゼちゃんもお揃い?

 :とうとうジェラケピの女になったか


「えぇ同じデザインのものを用意したので色違いと同じものを」


 :そういえばリーゼちゃんの部屋ってまお様抱き枕あったんじゃ

 :まお様グッズ見せた?

 :抱き枕とは出会ったんだろうか


「部屋を案内したときに多少は……」


 図らずも抱き枕の話題になってしまったのでなるべく話すぎてしまわないように歯切れの悪い回答になってしまう。


 :なんか怪しいゾ

 :なんかあった?

 :ん?


 コメントにも怪しまれてしまっているのでここは予定通りマシュマロの紹介に切り替えていこう。ちょうど抱き枕に関するマシュマロがあったはずだ。お泊り自体よりも抱き枕自体の話にしてしまえば押し通せるはず……。


「そういえば抱き枕についてマシュマロ届いてましたので紹介しますね!」


─────────────────────────────

SILENT先生の黒惟くろいまお抱き枕

残念ながら入手することが叶わず

通販待ちの民のために使用感など教えて頂けませんでしょうか

─────────────────────────────


 :俺も買えなかったわ……

 :同じく通販待ち

 :受注あってほんとよかった

 :SILENT先生ありがとう

 :受注あるんだから転売から買うなよ?


「そうですね、では僭越ながらレビューさせていただきますと……まずは表面のドレス姿ですがドレスという決して露出が多くはない衣装なのに寝転がっていることによりまお様の美しい脚が一部見え隠れしているのが本当に素晴らしいですよね。すらりとしていながらも女性らしい柔らかさも兼ね備えていてまさしくいいとこどり、SILENT先生だからこそ表現できると言いますか……生みの親だからこそ表現できるフェチというものがこれでもかというほど魅力的で思わず頬ずりしたくなってしまいます。もちろん生地も最高級の物なのでその肌触りは至高の一言です。そして裏面……一周年記念の水着ですね……。これはもう罪です。普段ドレスに隠れた素肌が惜しげもなく披露されていて、ベッドの上で目の前にすると言いようのない罪悪感というか本当に抱きしめてしまってもよいのかという葛藤が生まれてしまいます。それというのも赤面した表情に恥ずかし気に胸元とお腹を手で隠そうとしているのがなんともいじらしくて……。まちがいなくSILENT先生はわかっていてそのポーズにしていると思うのですが。まるでその姿を本当にその目で見て描かれたようなそんなリアルさがあるんですよね。いつかあんな顔をしたまお様を見てみたいものですが……。……といった風にとてもオススメですので是非ご購入をおすすめいたします。わたくしは追加で三枚注文済みです」


 :お、おう

 :詳細レビュー助かる

 :これは切り抜かれる

 :宣伝助かる

 :え?

 :三枚追加したのか……

 :多数買いは基本

 :これは間違いなくベストレビュー

 :受注サイトに掲載してほしいくらい


──────────────────

 ¥12,000

 抱き枕レビュー代

──────────────────


「まお様からも抱き心地も触り心地も良いと好評でしたので本当におすすめですよ」


 :ん?

 :えっ?

 :まお様が?

 :まお様抱いたの?

 :んん???

 :まお様はたしか持ってないって言ってたよな?

 :SILENT先生からの断ったって言ってたな


「あっ……、その……」


黒惟まお【魔王様ch】:リーゼ、後で話がある

SILENT:あとでHPにレビューとして掲載させてもらうね


 :あっ……

 :RIP

 :まぁ見てるよな

 :まお様もよう抱いとる

 :草

 :君の命がけのレビュー俺たちは忘れない

 :まお様抱き心地どうだった?

 :正式採用おめでとう


「あ、え……。お、お……おわリーゼ!!」


 :草

 :逃げた

 :おわリーゼ!

 :がんばれ

 :骨は拾うよ

 :敬意を表して初めての抱き枕買うわ




 ──このあとこのレビュー切り抜きがバズり、抱き枕の受注も跳ね上がったとか。

 まお様からは怒られSILENT先生からは褒められました。

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