魔王系Vtuberやっていたら本物の魔王にされそうです。
ゆゆっけ
第1話 魔王様の憂鬱
「では今宵はここまでにしておこう、急な招集になってしまってすまなかったな」
帰宅してすぐに配信準備と告知を行い、ろくに服も着替えずに配信開始。
どんなに疲れている顔をしていても画面の中の私はいつだって美しく。せめて声色だけはそんな姿に相応しくあろうと意識はしているが、いわゆる古参連中には見抜かれているのか心なしかコメントが暖かい。
:お疲れさまでした魔王様!
:ええんやで
:配信してくれてうれしいよ
:おつかれさま
:おつまおー
「次回の予定は……すまぬが未定だ。またSNSで告知すると思うから確認するように」
:御心のままに!!
:はーい
:なるはやだと助かる
:ひさしぶりにゲームか歌だとうれしいなぁ
「そうだな、なるべくそうしよう。ではまた」
:再びの降臨お待ちしております!!!
:おつまおー
:おつまお
:おつまおー
:おつまおまお
手慣れた操作でED画面に切り替え、流れていくコメントを眺めていく。
安直すぎて最初は気恥ずかしさもあり、やめるように言っていた定型の挨拶もすっかり定着し今となっては実家のような安心感すらある。
最後に終わりのコメントをして配信終了っと。
:!?
:草
:草
:草
:★ミは古い
:魔王様年齢バレますよ
:草
年齢? 我魔王ぞ、悠久の時を過ごす我に年齢なんていう概念はないわ。
ほんとこいつらは年齢ネタになると速攻食いつきよって……。
まぁこんな短いコメントでも盛り上がって笑ってくれているリスナーがいるのは素直にありがたい。
「配信OFFよし、マイクOFFよし、カメラOFFよし」
もはやルーチンと化している配信終了後の声出しチェックを行い、ヴァーチャル魔王こと『黒惟まお』からただの一般人に戻った。
「声出しまでする?」って? こんなことで事故が防げるなら声出し確認だってしますよそりゃ。
配信切り忘れてマイクも入れたままで気が抜けた魔王様という切り抜きが一生ついて回るはめになれば誰だってそうする。魔王だってそうする。
ちなみにもう片手で足りないくらい事故が起きてるあたり声出しだけじゃ足りないという説もあるのだが。
「はぁ……」
ヴァーチャル魔王『黒惟まお』として活動をはじめて一年と半年ちょっと、当時はまだVtuberというものもそこまで注目を集めておらず手探りでやってきた活動。
『黒惟まお』のデザインを昔からの付き合いのある神絵師とよばれるようになった友人に依頼できたおかげですべりだしは順調。
個人としては十分なほどの登録者数と視聴者に恵まれていたが、最近はいわゆる企業勢が急激に勢力を伸ばしており、さらに某大手企業までVtuber事業を始めるなんて話もまことしやかにネットではささやかれている。
そのあおりを受けてか『魔王様ch』は思ったように数字も伸びず停滞中……。
それでも配信を見続けてくれているリスナーたちに楽しんでもらおうと色々企画して配信も頑張っていこう! と奮起したところで仕事が忙しくなり思ったように配信活動も出来ず、今日のようにゲリラでの雑談配信が続いてしまっている。
グイっとゲーミングな椅子の背もたれを大きく倒し身を預けながら、配信終了後の日課であるスマホでSNSの配信タグの巡回とエゴサを行う。
好意的な感想に心を温めながら最近活動が少なくなっていること、配信中も疲れが見え隠れしていること、それを純粋な好意で心配する声。そして全体から見ればごく少数ではあるが悪意のある言葉──
『そろそろ消えそう』
『最近ゲリラ雑談ばっかでつまらん』
『結局ガワだけなんだよな』
「──っ」
たくさんの好意的な意見が多いんだから無視すればいいのに──とか、
アンチの意見よりもファンの意見に目を向けてほしい──とか、
そんなことはもちろんわかっているし配信を始める前は自分だってそう思っていた。
でもやっぱり自然と目についてしまうんだよなぁ……。
それに言ってることは別に間違ってはいないし。
いっそ配信に集中するため仕事を辞め専業になってしまおうと思っていた時期もあった。
最初の勢いさえ維持できていれば──
いまの仕事ほどとは言えないがバイトや派遣で活動していくことは可能だと思っていたし。
昔取ったなんとやらで動画編集やデザインの個人依頼なんかもVtuberや配信者を中心に増えてはいる。
しかし、伸びが停滞してしまった今となっては活動資金のために仕事に力を入れ個人依頼を受ければ配信時間がなくなり。
配信に力を入れれば依頼をこなす時間はなくなり活動資金は心許なくなる……。
活動二周年まで半年を切ったというのに具体的に何をするのか、出来るのか。
それすら決まっていない現状、個人としてやっていくことに限界を感じつつあった。
「シャワー浴びて寝よ……」
考えれば考えるほどネガティブな思考に陥る頭を無理やり切り替えるべく体を起こす。
画面の端に1件の通知が来ていることに気が付き、メッセージを送ってきた相手とその内容を目にして、ふっと小さく笑いながらそのままPCに向かってキーボードを叩く。
SILENT:どしたん? 話聞こうか? ^^
魔王まお:あーそれは"
ネットに染まったやりとりをしながらマイクの電源を入れ通話を繋ぐ。
まったく本当に面倒見がいいんだから…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます