第7話

 自慢話にもならんけど、ワシな、もうなーんもいらんのよ。

 女にも興味のぉなったし、事故やってから、土方の仕事も辛なってきた。ぼちぼち暮らせはしとるけどな。

 人付き合いもあんましたないし、食いモンもそれこそ食えたらええ。

 そんなんでも、なんでここまで生きてこれたんやろ考えたら、やっぱりあのあさりうどん食べたからやと思うねん。

 しょうもないちっこいワシの腹の中に大きい海があって、打ちては返しで波打って、それがずっと広がってるんよ。

 砂浜のところでころころ転がって、目ぇつぶったら気持ちよう潮吹いて。ほんなこと考えるだけで、生きてこれたわ。

 うどん屋?

 ああ、ワシ貝食べれんようなってな。やから女とも行けへんかったわ。

 共食いみたいな気分になるさかい、受け付けんようになったんよ。それもまた変な話やけどな。

 覚えてたら教えてやりたかったけど、頭もクズやさかい、みな忘れてもうた。

 でも多分もう潰れてるやろな。そんな気ィするわ。

 ワシ、言葉もちょっと変やろ。

 あちこちウロウロしとったさかい、京都と大阪と滋賀と三重と、全部ちゃんぽんや。

 住む宿も決まってるような決まってないような暮らしも長かったし、たまさか地方に出稼ぎ行った時、ああ、こういうとこで腰据えて暮らすのも悪くないやろなァ思たのも一度や二度違う。やのになァ……

 別にどこに行っても良かってんけど、結局どこにもいけなんだ。

 帰りたいわけちがうけど、最近になって妙に地元のこと思い出すわ。

 男と女も、あん人ら、幸せやったんやろか。ワシの目に見えん海なんか抱えて、やから生きれてはったんやろか、てな。

 わからんけどな。何もわからんわ。大学出たるような人ならわかるんやろか。

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