塩キャラメルとグミ

伏見 悠

塩キャラメルとグミ

とある日の昼下がり。

都会のマンションのある一室で、恋人同士であるぐみとおみはそれぞれの時間を過ごしていた。


ぐみがソファーに座り、本を読んでいると、「ぐみ」と声をかけられた。


「……あれ? 起きたの?」

「ん」


ぐみの隣でうとうとしていたおみがいつの間にか起きて、声をかけたらしい。

目を瞬せ、まだ少しぼーっとしている様子からして、起きたばかりなのだろう。


「いつからいたの」

「え?」

「隣」


寝起きで頭が働いていないのか、会話に言葉が足りないのだが、ぐみは気にしていない様子で答えた。


「んー、10分くらい前からかな」

「そ」


ひと言どころか、ひと文字だけ言葉にすると、おみはまたぼーっとして動かなくなった。

ただなんとなく聞いてみただけなのだろう。

ぐみはおみをちらっと見ると、また本を読み始めた。寝起きの悪さは随分前から知っているのだ。


それからしばらく無言の時間が続き、おみがソファーから立ち上がるのも気が付かない程、ぐみは読書に没頭していた。


ぐみが区切りの良いところで本を閉じ、隣を見ると、スマホを見ながらおみが何かを食べている。


「……塩キャラメル? わぁ!久しぶりに見た!」


おみが手にしていたのは塩キャラメルと書かれた袋。

それを見つけて、パッと花が咲いたようにぐみが笑顔になるのを見ると、おみはぐみに向かって袋を突き出した。


「やった!」


袋からひとつ取り出すと、封を切り、すぐさま口に入れた。


「久しぶりに食べると美味しい~!」


お菓子ひとつで嬉しそうに笑うのだから、おみも釣られて笑えてしまう。単純だけど、そんな所も嫌いじゃない。


「……ねぇ、おみ」

「……なに」


食べ終わったぐみがおみの方を見ても、おみはぐみの方を向いてはくれず、塩キャラメルに夢中になっている。


「おみって塩キャラメルみたいだね」

「……は?」


先ほどまで成分表を読んでいたおみは、顔をしかめている。


「何言ってんだ」

「え? 私に対して塩かと思えば、なんだかんだ優しいでしょ? だからおみは塩キャラメル」

「意味がわからん」


理解ができず、さらに眉をひそめるおみ。


「何で俺を食べ物にするんだ」

「今思い付いたから!」


はじけるように笑うぐみの返答を聞いて、おみはため息をひとつ吐いた。そうだろうな、ちょうどそこにあるからだろうな。そんなやつだったと思い返した。


「……俺を食べ物だと仮定して、塩なら塩飴とか塩クッキーとか他にもあるだろ」

「えー」


不満げな顔をするぐみに、おみは面倒くさそうにしながらも、話を続けた。


「じゃあ何だ。俺が塩キャラメルなら、お前は飴か」

「その心は?」

「甘い」


この時のおみの表情は無。


「何それ~、そこはグミでしょ」


ぐっと顔を近づけられて、思わずおみはのけ反った。

ぐみとしては、グミ以外の選択肢はなかったのである。


「あーはい、いいよそれで」


そうおみが言うと、ぐみは満足そうに頷いた。

それからぐみが塩キャラメルをひとつつまみ、顔をほころばせるのを、おみは愛しいものを見るかのような瞳で見つめていた。

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