第12話石の巨人

「出て来い、石の魔物(ストーンゴーレム)」


 どこかの地ならしの巨人と同じく、周囲の壁の全てがストーンゴーレムだった。


 先程トラップが作動しなかった理由は分からないが、先行して入室したのはオーク達やマッドゴーレムだったので仲間だと認識されたのかもしれない。


 でも動き出せば倒すのは簡単。


「カゲヌイーー!」


 松明の光と光魔法の影だけでストーンゴーレムが停止した。


 それでも影の具合なのか一体だけ動いていたので、背中の「エ」の文字を消して即テイム。


「アッーーーー!」


 手からビーム発射しまくり、ワイヤーアクションでジャンプしまくりで手に汗握るバトルを提供したかった所だが、余りにもレベル差があり過ぎて相手にならない。


「上人様……」


「おじちゃん……」


 レベルが上がったはずの若とタロウだが、轟音にやられて腰を抜かしてしまい動けない様子。


 別の意味でレベルが高い冒険者なら、美少年と寵童お漏らしプレイで失禁タイムまで楽しめたはずだが、さすがにそこまでの高段者ではないので楽しめずにいた。


「なんと恐ろしい魔物であろうか? これでは先代の武士団が壊滅したのも頷ける……」


 一番隊隊長も恐れ、法念和尚も絶句。それでも今以上の地獄を見たのか、ケンタだけはストーンゴーレムに歯向かう気概を見せていた。


「さあ、手分けして背中に書いてある文字から「エ」だけを消すと良い、すぐに従魔にできる」


 あらかじめ説明しておいたように、ストーンゴーレムもメスにする手筈を整える。


「このように刃物は通らぬし火縄も通じぬ、しかし……」


 寺生まれのTさんのように手から強力なビームを発射して、試しにストーンゴーレムを一体破壊する。


 ニ十体ぐらい居るので一体壊しても大丈夫だろう。


「おお、これこそインドラの矢」


 合掌して仏に感謝の言葉を伝え、読経を始める和尚。


「うむ、どろっぷあいてむじゃ」


 魔法の杖が出てきたので和尚に渡す。スタッフ+3ぐらいなので、先だけが鉄製の細い錫杖よりは遥かに強い。


「ありがたや、聖男様よりの賜り物」


 言い終わってからもボソボソと感謝の読経を続けている和尚、托鉢して寄進した気分だ。


 ストーンゴーレムの場合、破壊したりドロップアイテムにするよりも、前衛の盾として従魔にするのがお得なのでメスにする作業を進める。


 俺が肩車してケンタに玄能(げんのう)を使わせて消させたり、踏み台になって隊長や和尚に消させてレベル上げを済ませる。


「勿体なや、聖男様」


 聖男を踏み台にするのは恐れ多いと断った和尚だが、足手纏いにならないようにレベル上げする作業なので納得してもらった。


 若やタロウがお漏らしして冷たくなった汁を被って楽しめるほどマゾい高段者では無かったので、呼び出したセバスチャンに肩代わりさせた。


 ゴーレムは「エ」の字を消した者の従魔になるため、命を狙われている若に五体、他の者に一体づつ振り分け、残りは団長や副団長にでも付けてやろう。


 ストーンゴーレム数体ともなれば一国一城を落とせる戦力なので、若とセバスチャンだけでこの街と城を落とせる。


 昨日からの戦力差が逆転し、若+セバスチャン+ストーンゴーレム×6>>城主+臣下、になった。これに俺と従魔を足せば負ける事はない。



 そこで俺を除いた全員のレベルが幾つか上がった。ストーンゴーレムとは結構な強敵だったのだろう。


 三十歳過ぎても童貞だったのか、魔法使いのセバスチャンもレベルが上がり、紙装甲で紙ヒットポイントだったのも改善され、大器晩成型なのかストレングスも上がってムッキムキの老人に。


 若も達人レベルになり新旧の武士団長よりも強くなった。


 ケンタ、タロウもそろそろ玉ねぎ剣士?を卒業させ、一般職に振り分ける。


「ケンタ、職業(ジョブ)は何にする? 人助けがしたいならまずは僧侶になるか、賢者と言う上級職もある。後でサムライを目指すなら僧侶、ニンジャを目指すなら賢者だ」


 日本国内なので騎士になるのが少し難しいようで、最初の能力値に制限がある。自動回復や治療魔法が多い以外にメリットは少ないのでサムライかニンジャだ。


「聖男様と同じになりたいです」


「うむ、では賢者で始めるか、なかなか成長せんから先は長いぞ、良いか?」


「はい」


 年齢が若いので僧侶から育ててヒットポイントを上げ、その後に魔法使い、ニンジャという手もあるが、経験値は大量に稼がせてやれるので賢者からニンジャを目指すのも良いだろう。


「タロウはどうする? そのまま戦士になって体力を上げるも良し、僧侶からサムライという手もある」


 戦闘向きのタロウは前衛に立たせるのも良い、現実に誰かの養子にして侍の家を継がせる事もできる。


「おいら侍になりたい」


「うむ、では最初僧侶になって能力を上げて、それからサムライだな」


 話が噛み合っていないような気もしないでもないが、聖男の権力で侍にしてしまうのも可能。


 法念和尚も今日だけでかなりレベルが上がったが、武僧という僧侶の上級職なので、このままレベル上げを続ける。


 昨日寝所にいたムキムキでテッカテカの僧侶みたいになっているのが怖い。



 一旦三階層で待たせていた連中を呼びに行かせ、団長達にも一体づつストーンゴーレムの従魔を付けてやる。


「団長殿、石の魔物は倒した」


「おお、先代武士団でも敵わなかった石の魔物を?」


「へへ、おいら達何もできなかったのに、おじちゃんひとりでやっつけちゃったんだ」


「護衛用の従魔にできるので、隊長達と一緒に背中の文字を消して貰いたい」


「石の魔物を従魔に? 私たちにもできるのですか?」


 笑顔のまま疑問符を浮かべる副団長にも、四階層での最初の部屋の惨状を見せる。


 影縫いされたまま動けない物が十体ほど、破壊されて粉々になっているのが一体、メスの顔?をして従魔になっているのが十体。


「これだけの数が……」


「ばけもんだ……(性的な意味で)」


 ニ十体以上の石の巨人を見て、先代武士団が壊滅した理由を知り絶句する武士団一同。


「こんな石の塊、槍も火縄も通じねえよ」


「俺ぁ帰る」


 天井の高い部屋から壁が全部剥がれて出て来た魔物のモンスターハウス、常人では太刀打ちできない。


「さあ、団長自らの手で「エ」の文字を消してやるとメスになって従魔になりまする、肩車でもして金槌か錫杖でも使って消して下され」


 まだ歯向かう可能性がある団長や隊長連中には、ストーンゴーレムを一体づつ付けるに留める。


 暫く「エ」を消す作業を進めると武士団全体の武力が上がった。


「メスですのでな、布団に潜り込まれたり掘られたりしないよう気を付けて下され、ははっ」


「何ですって?」


 目だけ笑顔の副団長から、団長の貞操を心配する顔をされる。


 冗談とも本当ともつかない言い方をしたので素直に笑ってくれなかった。


「魔窟を出る時には置いて帰るか、拙者がお預かりしましょう」


「まあ…… それが良さそうですな」


 自分のメスになった身長三メートル以上のストーンゴーレムを見上げる団長。城に連れて行ったり屯所に持ち込むと床が抜ける、庭に置くにも大きすぎる。


 せいぜい街の防衛用に城門の外に置くのが限度だ。


「ああ、若様の護衛に五体付けましたのでな、若を殺そうとすると自分の意志で城まで攻め上って城砦と城が粉々になり申す、お気を付け下され」


「何ですとっ? 城がっ」


 やっと副団長の笑顔を崩せたのでほくそ笑む。


「命を狙わぬ限り大丈夫でござる」


 プチ地ならし程度は可能なので、三メートル級の石の巨人が数体侵攻すると、城砦は持たないし、領主がいる出城程度粉砕できる。



 以後はストーンゴーレムを前面に押し立てて進むと、どんなアンデッドが出ても無傷だったが、実体がないゴースト、レイス系統の魔物だけは地獄熊やオークジェネラルとミスリル包丁の出番になった。


 他にも野良ヴァンパイアなども生きていたので無事武士団の経験値になった。


「すげえ宝の山だ、一つ売れば一生遊んで暮らせる」


 その一個のドロップアイテムを持ち逃げしてしまいそうな連中が多くて困る。


 また呪われるか、手にした途端一目散にダンジョンを抜けて街で売り払って逃げてしまいそうだ。


「武士団に入って良かった」


 野武士や野盗になっていれば、朝に出たやつらのようにオークに負けて出産していたかも知れない。


 恐ろしい魔物が仲間になって宝の山も手に入り、団長や隊士の表情もほぐれて行ったが、報告に行った連中の話を聞いて、城の奴らが暗躍し始めているのを誰も知らなかった。


 そう、どこかの激安CGアニメみたいな手柄の争奪戦である。


 漫画家原画の鳴り物入りで制作されたソシャゲが大爆死してアニメ放送前にサービス終了。


 監督が逃げ出して敗戦処理に監督の手下が任命されて、少ない力で低予算制作開始、完全爆死予定が予想に反して高視聴率で人気が上がり、商品展開が無かったのに紙のお面が付いた雑誌が飛ぶように売れ、円盤販売が15万枚と物語シリーズに次ぐ販売量になって軌道に乗ると、まず脚本家の名前がどんどん消えて行く恐怖映像になり、次に作品を作った監督と制作会社まで失脚させられ、円盤を書籍として売っていたのも問題になり即座にカド〇ワ映像に転籍。


 自分が書いた脚本がギスギスしすぎていたので監督に赤線入れられまくったケ□ロ軍曹達が勝利して、プロデューサー達で作らせた次回作は前作を全否定して葬るために作られた地獄みたいな作品で、失脚した監督の次回作の真裏で放送して迎撃。


 ニコニコでは最終話で失敗作の遊〇王派生のゴミよりも低い評価が出て、前作のヒロインは廃棄処置、軍曹殿が作ったギスギスしまくったクズの新ヒロインと前作ヒロインの片割れが無理矢理くっつけられ、ビースト達は悪い存在として殺される阿鼻叫喚の地獄が展開された。


 それが城の中の政治で、所謂宮廷闘争が展開されていたが、神ならぬ身には知り得ないことばかりだった。



 五階層ではヴァンパイア複数が率いるゾンビとスケルトンのモンスターハウスに遭遇したが、物理攻撃が効くので新たに入手したストーンゴーレムを駆使して難なく撃退できた。


「武士団休息っ!」


 五階層で手に入れた新しい武器や防具を使ってみたくなり、早速キャンプを張って鑑定済みの装備に入れ替え始めた団長や隊長連中。


「これが鑑定が終わった品々」


「素晴らしい、石の魔物でも斬れる刀に槍、あの打撃でも防ぐ盾や鎧っ」


「以前にこれだけの装備があれば後れを取らなかったものを」


 副団長も笑顔を崩して興奮気味で語り合う。ダンジョンRPGの楽しみどころだが、大人の武士団連中が大喜びで武装烈火して、悠久の時を超えて神話の時代から続くような煌めく星座の鎧を装備した。


 日本刀の場合基本的に両手剣だが、グラディウスやロングソードの中でも片手剣なら、盾が装備出来てシールドバッシュやヘイトを集める盾役の新スキルも使える。


 戦国時代以降の鎧は火縄に対応したとはいえ、基本は皮ひもと板などの組み合わせで重い金属板は少ない。


 雑兵の徒武者は剣道の胴を一個貰い、頭に金具を付けた鉢巻きでも巻いている程度だったのが金属製の胸当てや兜、鎖帷子(くさりかたびら)が標準装備になった。


 隊長連中はミスリルの胸当てや全身鎧を着込んだり、ミスリルヘルメットにミスリルガントレット。


 雑兵にもミスリルの武具が出回り始め、武士団の武装が大幅に上昇した。


「若様、これはミスリルソード+4、それに硬い鱗で作った鎧、これに着替えなされ」


「ありがとうございます、このような立派なものを」


 おふんどしがお湿りであったので取り換え、魔石が入っていたドロップアイテムに着替える若。


 他の従者も職業に合わせた強化が出来た。

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