第6話 親友よ、俺はずっとここで

 家に帰り着いたのは21時を過ぎていた。まあ、どうせ明日も休みの一人暮らしだ。何を気にすることもないがアイツといると時間が経つのが早い。


「あ、302号室の──」

 エントランスにいたのはメリハリボディのお隣さんとは逆側のお隣さん。こちらはワガママボディってやつかそれより豊かである。

「ああ、こんばんは。どうかされましたか?」

 たまに朝夕の出入りでばったり会うこともある。お互いにちゃんと面識はあるのだから簡単な挨拶はいつものことだが、少し違うらしい。


「いえ、何でも301号室の方、亡くなったそうで」

 入り口の解錠をしようとした手が止まる。

「えっと……鍵を無くした?」

 我ながらアホな聞き返しで情けなくなる。明らかに顔の赤いアルコール臭のするおっさんに、ワガママボディも酔っていると分かるのか、嫌な顔ひとつせずに改めて今度は言葉を変えて伝えてくれた。

「301号室の方、死んだんですって」


 その夜はどうにも眠れなかった。ヒロキに連絡してみようかとも思ったが、別に知らせることもないだろうと思い、1人また缶チューハイを開けていく。

 朝目覚めた時にはテーブルの上が悲惨なことになっていたが仕方ない。シャワーを浴びて片付けしてテレビを何となく見ていると時間はもう12時。休みの半分が終わったな、と虚無感を感じていたが、お隣さんは人生が丸ごと終わったんだと思うとそれくらいはどうって事はないと出かける準備を始めた。


 ふと、片付け終わったテーブルにある暑中見舞いの文字に気がつき、例のハガキを手にする。


 そして鳴るベル。

 映し出されるモニター。

 LINEの通知音。

 ハガキに炙り出される文字。

 外を走る救急車のサイレン。

 お隣さんの扉の開く音。

 ドアノブが回る音。

 LINEの通知音。

 廊下を歩くヒールの足音。

 落ちる缶チューハイ。


 扉が開いていく。外から光は差し込まない。LINEの未読の表示は800を超えている。救急車の中では隊員が懸命に声を掛けてくれている。ヒロキは合鍵でたまに部屋に上がってはここで酒盛りしてくれていた。1人で。俺に話しかけながら、線香に火をつけて──


 ハガキにはちゃんとヒロキの筆跡で“またいつか一緒に飲もうな”なんて書かれている。


 モニターには車に轢かれて顔をぐちゃぐちゃにした俺が映っていて『帰る時間だ』と繰り返し呟いている。


 お隣さんが死んだのはきっと偶然だ。LINEには通知が新しくいくつか来ている。充電器に挿しっぱなしで出かけた俺のスマホには未だに知人からLINEがくるみたいだ。


 あのハガキにまつわる一連の出来事は死んだ俺の妄想なのか。死んでも人は妄想するのか?


 LINEに新しく通知が来た。それもヒロキからだ。あいつも俺が死んだと認めたくは無いらしい。本人より悪あがきが過ぎるだろ。そろそろ忘れて何人もいる友人を空いた親友枠に入れてやれよ。


 なになに──


 “モニターのお隣さん”


 俺の妄想ではなかった、のか?


 “服が消えたのは嘘”


 タカオはやっぱり俺と話していたのか?ここで死んだままの俺と。


 “そういう風に見えただけ”


 スマホに触れない俺が読めるようにバナーでわかるように1行ごとに送ってくる。




 “画面の外のタケシが身体にまとわりついたんだ”




 部屋の盛り塩は心なしかいつもより高く積まれている。

 昨夜お隣さんが死んだ後にヒロキはこの部屋で遺影の前で線香を焚き塩を盛り、テーブルにお札を置いてソファに座ったまま祈るように両手を握っていた。


 いや、懺悔だろうか。部屋の片付けをしてくれたヒロキはそのあと訪れることはなかった。どこからどこまでが生前で死後なのか、それとも幽霊の妄想なのか。

 分からない俺は荷物が引き払われて空っぽになった今もここでチューハイを飲んでいる。




─あとがき─


 ホラー、と呼ぶ作品ではありませんね。けどジャンルとしてどうなのか分からないですしそれっぽいジャンルにしてみたのですが。


 さて、作中よく読んでくださる方からしたら違和感がたくさんあると思います。幽霊なのにお隣さんとも話していたり外で酒も飲んだ?とかあげればキリがないでしょう。

 最後に片付けしてシャワー浴びてってのも、そう思い込んだ行動をとっていただけ、なのかも。ヒロキが片付けてくれてるんですから。

 とまあ、違和感ていうのは主にそういうところで、何故かというと作者の執筆能力の無さです。

 いえ、それもありますが、そもそも幽霊視点なのですから。それも死んだと知らない幽霊で親友が来なくっても迎えが来ていても、部屋が空っぽでも残ってしまった地縛霊の主観が整合取れているわけないじゃないですか。

 まあ、それでもざっくりと言いますと。

「親友が死んで寂しいヒロキが紛らわすためにハガキを送ると、本当にまた飲みにやってきたけど、その過程で他人を呪い殺したために最後には成仏を願い離れた」

 といったところです。あとはタケシの地味なチート能力「無限に出てくるよく冷えたチューハイ」くらいですね笑

 だって飲みに帰ってきた彼ですから。

 あれ?だとしたら正確には“一緒に”なんですかね。誰と?それはもちろん──

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親友よ、俺たちはずっと たまぞう @taknakano

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