親友よ、俺たちはずっと
たまぞう
第1話 神社跡にて
その場所は古めかしい鳥居をくぐり、その先に続く300段ほどの石段を登ってやっとたどり着く何もない広場。
登り切った先には2本の杉の木が立っていて、その間を注連縄が渡されている。
「やっと登り切ったが、ここがそうなのか?」
俺はこんな猛暑日のトレーニングかと思うような奇行に付き合わせたヒロキに問いかける。
「そう。見ろよこの絶景」
そんなに広くない広場は雑草にまみれていたりするがその先は断崖絶壁となっていて遥か先に水平線があるだけの見晴らしがいいスポットとして知られている。
「まあ、たしかにいい景色だな。足元を見なければ」
某サスペンスドラマのように打ち付ける波が弾けてしぶきをあげているのはなかなかに恐怖ではある。
「変な想像するから怖くなるんだよ。遮るもののない視界ってのは思ったよりもずっと心を晴れやかにしてくれる。タケシも少しは晴れたんじゃないか?天にも昇っていきそうなくらい」
「昇天するのは覇者だけでいいよ」
見晴らしのいいスポットなのは間違いないけれど、それだけなら下の国道沿いにある道の駅や展望台なんかでもいい。
遮るもののないのは何も視界だけじゃない。雲ひとつない晴天は俺たちの肌をジリジリと灼き、滝のような汗を流させる。
「この階段なんてまさに“天国への階段”って感じじゃね?」
「いや、そこから飛び降りたらむしろ地の獄だろ」
ここが断崖絶壁なのは大昔にここに建っていた神社もろとも削れて海に呑まれたからだそうだ。だから鳥居があって注連縄があっても社がない。残ったのはこの4段だけの朽ちかけた石段だけ。
「きっとこの階段の先に賽銭箱があったりしたんだろうな」
「タケシは現実主義過ぎる」
俺とヒロキはこういう所で感性の違いを感じる。まあ、それこそが大人になってまでもこうしてつるんでいられる理由なんだろうな。
2人を太陽から守ってくれるのは2本の杉の木だけだ。その片方で涼みながら俺たちは景色を眺めている。
「タケシ。ここにはもうひとつ、あってだな──」
少し汗がひいたくらいでまた日向に向かい歩き出すヒロキ。額を流れ落ちる汗を腕で拭いながら歩く先はもう一方の杉の木らしい。
勿体ぶるわけじゃない。ヒロキは“俺は口下手だから言うよりは見たほうが早い”なんてことをよく口にしている。だからこういう時は追求せずについていくのが正解だ。
杉の木の反対側に回り込んだヒロキについていくとそこには──郵便ポストがあった。
丸い円筒型のやつ。あとから調べたら郵便差出箱1号(角型)ってやつだ。いや、もしかしたらもっと古い型のやつかもしれないが、確かにこれは郵便ポストでそしてただ違うのはよく知る赤ではなく──黒かった。
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