音を追う

水神鈴衣菜

 目を閉じては、よく音を聞いた。

 この世は音に溢れていて、それが綺麗なものであれそうでないであれ完全な『無音』という状態は生み出せないのだった。

 僕はよく、曲を作った。それが人様に聞かせられるものかそうでないかは問わず、たくさん作った。

 だから、よく他の人の曲も聞いた。たくさんの音に囲まれる時間が、僕は大好きだった。


 そして僕は今、ある人を探す旅をしている。


 ──なぜ作曲の話から旅の話に変わるのか、って?

 もちろんそれは、双方に関係があるからに決まっている。

 ある日見つけた動画。ただ海の目の前で人が歌っているだけで、本当にそれだけの動画だったのだが、僕にはその人がなにか特別なものに思えたのだ。

 透き通った声、よく通るソプラノ。

 ──ああ、彼女のための歌が書きたい。僕の曲をこの人に歌ってもらいたい。

 そう考えると次々に構想が溢れてきて、眠らずに書き続ける日も少なくなかった。

 そして、彼女にふさわしいものが書けたと思った日、僕は今までの貯金を全て崩してでも彼女に会いに行こうと思った。


 まずその為に、僕を突き動かし続けた彼女──アカウント名は『Meri』とあった──との接触を試みた。

 SNSのDMに、この件のあらすじを書き込んで送信する。

 けれどよくよく考えてみると、こちらの勝手な理由で「自分の作った曲を歌って欲しいから会いたい」なんて、自分が変なやつだと言っているようなものだ。大丈夫だろうかとそわそわしながら待っていると、通知が飛んできた。思ったよりも早い返信だった。

『曲を先に聴かせていただけませんか』

『それから考えさせてください』

 考えるより先に、データを送っている自分がいた。


 数日経ってからまた返信が来た。

『素敵な曲ですね』

『海みたい』

 確かに送った曲は、彼女の目の前の海を想像していて思いついたものだった。

『こんな素敵な曲を歌わせてもらえるのなら、ぜひ』

『やっぱりそうなると、録音とかは一緒にした方がいいですよね』

 そう言われて、僕はこのやり取りのを見た。

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