第2話⁂小百合と江梨子⁂


 あの日の江梨子ちゃんの変貌ぶりにはビックリした。


「テメエラ————ッ!金をくすねて来いって言ってたじゃないか!何やってんだヨこのアマが————ッ!」

 それだけで済むかのと思いきや?

 江梨子ちゃんの指図で、数人が2人の女子に殴り掛かりボコンボコンにされている。


 あれだけおしとやかで、お上品な江梨子お嬢様が、何がどうしてあのような状態になったと言うのか?


 とても普通の状態には見えず、まるで別の存在が憑依したかのような変貌ぶり

 ああああ!分からない?あの江梨子ちゃんは何者? 


 学校では弱きを助け強きをくじくを、絵に書いたような優等生少女なのに、まるで人が変わったかのような言動。


 到底自分は江梨子ちゃんには敵わない。女王転落も致し方ない。

 そう思い諦めかけていた矢先の出来事。

 

 これはひょっとして?またこの学園の女王様に君臨出来るチャンスが巡って来たのかも知れない?

 江梨子ちゃんの真実の姿がどうしても知りたくなった小百合。

 そして…あの優等生然とした高慢ちきな鼻を、へし折ってやりたい。そして女王に返り咲いて見せる、そんな欲望に囚われている小百合なのだ。


 

 ◆▽◆

 一体何が江梨子ちゃんをあんな狂人じみた姿に変貌させているのか?

 絶対に何かある。そう確信した小百合。


 もうすぐ高校生で、受験校も同じ富山県随一の進学校受験だった事も有り、小百合の方から江梨子ちゃんに接近した。

 こうして急速に接近した2人。


 そしてなんと努力の甲斐もあり、2人そろって富山県内偏差値最高峰のT高校に合格。

 高校生活をスタ-トさせた2人なのだが、あの日の江梨子ちゃんの変貌ぶりには、今もってお目にかかっていない。


 それは拍子抜けしたという思いも少しはあるが、ほっとした気持ちの方が大きい。

 どういう事かと言うと、偏差値最高峰のT高校に合格出来たからと言っても、嬉しさ半分、不安半分の未知の世界に放り出されて、1人でも心強い友達がいてくれたらこんなに心強い事は無い。


 いつしか楽しい友達関係が続いたせいか、もうどうでもよくなり、それより今の関係を大切にしたい。そう思うようになった小百合。

 そして…最近はお互いの家を行き来するまでになって来ている


 まずは、小百合の寺院西光寺と自宅に招待したと言っても、西光寺の裏手に自宅があるだけなのだが?小百合の家族は両親と私と弟の輝樹の4人家族。


 小百合は他人の秘密に興味津々だが、実はこの家族も人知れず秘密を抱えている。

 それは遠い日の記憶、あの片方の足が無いおじさんが何か関係しているらしい?

 だが、突如として現れなくなった足の片方無いおじさん。


 今存命なら45歳くらいだろうか?

 あのおじさんはどこに消えたのか?



 一方の江梨子ちゃんの家にも招かれて行った事があるが、余りにも立派な邸宅で度肝を抜かれた小百合ではあるが、何か感じる違和感、それはお手伝いのトヨさんだけが出迎えてくれ、未だかって両親の姿に一度もお目に掛かった事が無いという事だ。


「江梨ちゃん、ご家族はいつも居ないけど、どうしたの?」


 すると一瞬表情が濁ったが、その話には触れて欲しくなさそうな様子なので、それ以上立ち入るのは止めようと強く心に誓った小百合。


 江梨子ちゃんの二面性は、きっとこの家族の中に隠されていると確信した小百合なのだ。

 近藤江梨子と言っているが、江梨子ちゃんは本当にこの家のお嬢様なのか?


 秘密にすればするほど知りたくなるのが人間の本性。

 

 江梨子ちゃんが、家族の話には触れて欲しくなさそうな様子なので、それ以上立ち入るのは止めようと強く心に誓った小百合なのだが、そう思えば思う程、どうしても知りたくなった小百合は、そこである日借りていた本を返そうと、わざと江梨子ちゃんが、学習塾に通っている時間帯にあえて返しに江梨子邸に向かった。


 江梨子ちゃんの家のインタ―ホンを押すと「ハ~イどちら様ですか~?」

 今まで一度も聞いた事の無い声が返って来た。

 

 ここで江梨子ちゃんの友達だと言ってしまえば、何か?マイナスにしかならないと咄嗟に判断した小百合は、無言で門の裏手に隠れて様子を伺っていた。


 すると誰かが、玄関のドアを開けて外に出て来た。

 一見すると、何とも形容しがたい決して良い意味ではない、品が無い、身を持ち崩した、まだ小百合は子供なので表現しにくいのだが、普通の主婦には見えない、そんな女が出て来た。

 だが、直ぐ家の中に消えた。


 あの女性は一体誰だったのだろう。

 何年か前の精神病院で見た江梨子ちゃんといい、まったく理解不能なこの家族。

 

 そんな矢先に事件は起きた。


 ◆▽◆

 私達はお互いの秘密を抱えながら充実した学園生活を送っていた。

 小百合は今まで口にこそ出さなかったが、時々お金が減っている気がする。


 今までも『多分間違いだ!』そうず~っと思い込もうとしていたが、最近は金額が大きいのでとうとう気付いてしまった。


 そこで思い余って江梨子ちゃんに聞いてみた。


「あのさ~?江梨子ちゃん………あの~?………最近私のお金が………お金が……… 急に無くなるのよね?………あなた何か………あなた何か………知らない?」


「ハッ!な~んかうっとうしい言い方ね?………ハッキリ言いなさいよ?あなた私のお金くすねたんじゃないの?どうしてハッキリそんな事が言えないの?………あぁ~!あったまにきた。もうあなたとは絶交よ!」


「只訪ねただけじゃないの?何もそんなに怒らなくても?」

 アアアア!やっぱり徐々に地が出始めて来た。

 

 江梨子の本当の姿は一体どれなの?


 さあ……これからどうなって行くのか?


 




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